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増え続ける世界の災害損害額、家庭の防災対策費はいくら必要?

そなえる 紗冬えいみ

増え続ける世界の災害損害額、家庭の防災対策費はいくら必要?

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地震大国といわれる日本。2024年元日に起きた能登半島地震は記憶に新しいのではないでしょうか。近年では台風や大雨による被害も増えてきています。しかし防災のための対策は、平時にはつい忘れてしまいがちなものです。今回は世界の災害・防災事情を整理するとともに、家庭でも取り組める防災対策とその費用について紹介します。

世界各国で増えている災害被害と防災対策費

UNDRR(国連防災機関)のレポートによる世界全体で発生した災害の件数は下記のとおりで、災害の増加が顕著です。

・1970年~2000年:年間90~100件
・2001年~2020年:年間350~500件

ここでの災害には地震・津波や火山の噴火、台風・洪水など気象現象だけでなく、新型コロナウイルス感染症といった感染症、害虫等の発生も含みます。

特に台風や洪水などの気候災害は2000年からの20年間で82%も増えており、地球温暖化の影響といわれています。もし現状の傾向が続けば、2030年には年間の災害数は560件(1日あたり1.5件)に増加するとの見込みです。

また2001年~2020年においては災害による損害額が年平均1700億ドル(約27兆4300億円)に上りました。災害の深刻化に対応すべく、各国各地域で積極的に防災対策に取り組む動きがみられます。

例えば英国は、海岸浸食や洪水に備えるため2021年から6年間で52億ポンド(約1兆円)を投じるとするほか、米国も洪水や干ばつ対策として8年間で約500億ドル(約8兆円)を充てています。
日本では風水害や大規模地震対策として、2021年~2025年で15兆円が投じられる予定です。

日本の公的な防災対策費は1.9兆円で減少傾向

ヘルメット
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令和6年版防災白書によれば、日本の2024年度の防災関係予算額は約1兆9000億円で、2023年度の約3兆5000億円に比べると4割以上少なくなっています。また、1962年からの推移は下のグラフのとおりです。

出典:内閣府「令和5年版 防災白書|附属資料7 年度別防災関係予算額」より一部抜粋

最大のピークは阪神大震災直後の1995年度(平成7年)で、東日本大震災の発生後2011年度(平成23年)に再び増加、2014年度(平成24年)以降は減少傾向にあります。

日本の防災関係予算は「災害予防」と「災害復旧」に8~9割が使われ、防災・減災の調査研究には2%も割かれていないのが現状です。

一方、地方自治体としてはどうでしょうか。消防庁によると都道府県の防災費の合計額は2020年度で1268億円です。2024年度については、同年1月の能登半島地震を受け、全都道府県のおよそ7割となる32の都道府県が「防災対策事業」を予算に盛り込んだとのニュースもありました。事業内容は各都道府県により異なり、住宅の耐震化補助や災害時に使うトイレの備蓄などがあるようです。

日本の民間企業における防災投資は?

企業による防災対策としては、従業員や顧客の安全を確保する、帰宅困難者の発生を防ぐといった取り組みがあります。飲み物や食料品の備蓄、防災訓練、建物の耐震補強などがその一例です。
企業が防災対策に使うお金は消耗品費や福利厚生費として計上されるため、防災に対していくら投じているのかは明らかではありません。

参考までに、飲み物や食料品の備蓄にいくらかかるか試算してみましょう。首都直下地震帰宅困難者等対策協議会の「事業所における帰宅困難者対策ガイドライン」をもとに、1人あたりに必要な備蓄品・備蓄量をまとめたものが下表です。

図表:首都直下地震帰宅困難者等対策協議会における帰宅困難者対策ガイドラインを参照し筆者作成

上記一式の8人用商品がECサイトにて8万3000円程度で販売されているため、1人あたりだと1万375円です。もし従業員100人分を用意するなら約104万円が必要です。

このほか、ヘルメットや担架の準備、安否確認システムの導入、キャビネット類の転倒防止対策などにも費用がかかります。

AIやドローン活用、世界で防災テック市場は48兆円にも

災害が増えるなか、防災をビジネスとする企業もあります。特に近年はAIやドローンを使って災害から身を守る「防災テック」が身近な存在となってきました。災害予測や、避難指示などの情報発信などにより、被害の回避・軽減を図ります。

米国の企業Pano AIは超高解像度カメラとAIを使った森林火災を早期に検知できるプラットフォームを開発しました。

日本でも愛知県豊川市が2018年に防災ドローンを導入し、災害時の被害状況をより的確に把握できる仕組みを構築しています。

パノラマデータインサイトによれば世界の災害対策システムの市場規模は2030年に2981億ドル(約48兆円)に達し、2020年のおよそ2倍になると予測されています。

日本では防災関係予算のうち防災・減災の調査研究が占める割合は2%にも満たない状況ですが、今後は防災テックの発達などにより調査研究分野への利用にも期待したいところです。

日本の家庭の防災対策費は平均1万円…足りている?

防災対策
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では、個々人の家庭の備えはどうでしょうか。住友生命保険相互会社が2023年に実施したアンケート調査によれば、十分な防災対策のために必要な支出は回答者の平均でおよそ4万円でした。一方で実際の支出は1万円程度と、理想と現実のあいだには約3万円のギャップが生じています。

1万円といえば、先ほど紹介した帰宅困難者用の備蓄品セットとほぼ同等の額です。しかし家族がいる方は家族の人数分の備蓄品が必要であり、自宅避難が長引くことを想定すると3日分では少し心もとない備蓄量です。

同調査によれば「実施しなくてはいけないと思う防災対策」として飲み物・非常用持ち出し袋・非常食がトップ3の回答でした。また防災対策をしていないとの回答者は3割を超えており、防災対策の必要性をわかっていても実際にはなかなか取り組めていない方が多いことがうかがえます。

何を準備すればよいかわからない方は、下記を参考に少しずつ揃えていくとよいでしょう。

出典:首相官邸HP「災害が起きる前にできること」より一部抜粋

まとめ

今回の記事の要点をまとめます。

残念ながら災害は今後も増えると予測されており、日本のみならず世界各国で防災への取り組みが進められています。家庭においても対策が必要だとの認識は浸透している一方で、つい先延ばしになってしまっている傾向がみられました。

確かに平時には防災への意識が薄れてしまいがちですが、チェックリストを参考に、準備しやすいものから少しずつ揃えていきませんか。