日本の「デジタル赤字」が急拡大!放っておいていいの?原因は?
監修・ライター
デジタル関連サービスでの赤字、いわゆる「デジタル赤字」が日本で急拡大しています。その額は2023年で5.3兆円。わずか9年間で赤字額は約2.6倍に拡大しています。デジタル赤字が急拡大している原因は何なのでしょうか。そして、この状態は放置していても良いものなのでしょうか。
デジタル赤字とは?
突然ですがみなさん、「デジタル赤字」という言葉はご存じでしょうか。デジタル赤字とは、国際収支におけるデジタル関連サービスの赤字のことです。日本人や日本企業が海外企業の提供するデジタルサービスを多く利用することで、デジタル赤字の額が増えていきます。Googleで検索し、Zoomでリモート会議。Amazonで買い物をして、Netflixで好きなドラマを見る――。普段こんな生活をしているという方は決して少なくないでしょう。筆者もこれに近い生活を送っています。こうしたサービスを利用するための料金は海外に本社があるGAFAM(Google、Amazon、Meta、Apple、Microsoft)をはじめとするIT企業に支払われています。この利用料金がデジタル赤字の原因です。
簡単に言うと、デジタル赤字の構図はこうです。
日本で使われた海外発のデジタルサービスの利用料金>海外で使われた日本発のデジタルサービスの利用料金
そして、この赤字額は年々増えているのです。総務省の調べによると、2023年のデジタル赤字の額は5兆3000億円に上ります。比較が可能な2014年からのわずか9年間で赤字額は約2.6倍に拡大しました。この額がどれくらい大きいものかというと、非鉄金属鉱や鉄鉱石といった日本が海外からの輸入に頼り切っている金属系の原料品と同程度の大きさ。活況を呈しているインバウンドの黒字が3.6億円のため、外国人観光客から稼いだ外貨がデジタル関連だけで丸々軽く吹き飛んでしまうほどの額なのです。
デジタル赤字が急拡大した理由
日本人や日本企業でデジタル化が進んだことが、デジタル赤字急増の原因です。今や誰しもがスマートフォンを持っている時代ですが、スマートフォン向けのOSではAppleとGoogleが圧倒的なシェアを占めています。日本におけるスマートフォンOSのシェアは、iPhone(Apple)が69.3%、Android(Google)が30.6%。その他はわずか0.1%ほどに過ぎません。読者の方もiPhoneかAndroidのいずれかを使っているのではないでしょうか。
また、インターネット経由でさまざまなソフトウェアを利用できるクラウドサービスの分野では、Amazon、Microsoft、Googleの3社で世界シェアの6割以上を占めています。Google CloudやAWS (アマゾン ウェブ サービス)などのサービスをプライベートや仕事で利用している方も多いと思います。こうしたサービスを利用すればするほど、海外企業への利用料の支払額が増えていき、デジタル赤字が膨らんでいくことになるわけです。
そもそもデジタル赤字は悪いことなの?
「赤字」というネガティブなイメージの言葉が使われているからでしょうか。デジタル赤字の拡大は悪いことだというニュアンスで多くの報道がなされています。しかし、本当にそうなのでしょうか。確かに悪い側面があることは事実です。
まず、海外企業への支払いが増えるということは日本国内の富が流出するということです。海外企業への支払額が増大すれば、日本企業の利益率は低くなってしまうでしょう。また、海外企業であるため、国内からの統制が利きづらいことも問題です。最近でも、InstagramやFacebookで有名人や芸能人の「なりすまし詐欺広告」が問題となっていますが、被害者がいくら訴えても、運営するMetaはきちんと対応しているとはいい難い状況です。これが日本企業であれば行政指導などで、一発で対処可能でしょう。
こうしたデメリットがある一方で、デジタル赤字の拡大は良い側面もあります。デジタル赤字が拡大するということは、社会のデジタル化が進んだということの証です。クラウドサービスを利用することで、大きく生産性を向上させた企業は少なくありません。また、海外のECサイトを利用することで、中小・零細企業のような規模の小さな企業でも少ない投資で海外市場にチャレンジできるようになりました。さらに、クラウドサービスによって日本企業は自社で高額な開発費用をかけることなく、安全性やセキュリティが担保されたサービスを利用できるようになりました。
そもそもデジタル赤字を解消するには、国産サービスを普及拡大し、海外企業に使ってもらう必要があります。しかし、現実問題としてこれから日本企業が検索エンジンやクラウドサービス、OSを独自開発したとして、世界の勢力図が簡単に塗り替えられるとは思えません。日本においても、海外製のサービスが社会全体に浸透した中でこれからすべてのサービスを国産に切り替えることは考えづらいことです。ましてや海外においてはより難しいでしょう。
日本がこれから重視すべきは、デジタル赤字の解消ではなく、海外のデジタル企業が開発したサービスを活用したうえで「どのような製品・サービスを作り、どのように儲けるか」ではないでしょうか。日本の基幹産業である自動車産業でも、部品の多くは海外からの輸入に頼っています。日本メーカーがそれらの部品を組み立て、付加価値を付けた上で売り出しているため、現在においても世界的なプレゼンスを保っているのです。これまで世界になかったような画期的な製品・サービスを開発し、世界中の人に利用してもらえれば、例えデジタル赤字であっても、それ以上のリターンが日本にもたらされるはずです。
かつて、ソニーのウォークマンで世界的なヒットを生み出した日本。日本発のアプリやサービスが世界を席巻――。そんな日が来ることを期待したいと思います。