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自民党総裁選で話題の「解雇規制」。その内容は?緩和は必要?

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

自民党総裁選で話題の「解雇規制」。その内容は?緩和は必要?

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9月27日に自民党の総裁選挙が行われ、石破茂元幹事長が勝利。岸田文雄総理大臣の次の総理大臣に就任することが事実上決まりました。過去最多の9人が立候補しただけあって、さまざまなテーマ・課題が各候補から出されましたが、筆者が特に注目したのは「解雇規制の緩和」。そもそも解雇規制とはいったい何でしょうか。そして、今すぐに緩和するべきものなのでしょうか。今回は私たちの生活に直結する雇用や働き方について考えてみたいと思います。

総裁選の大きな争点となった解雇規制

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過去最多の9人が立候補した自民党総裁選。実質的に次の総理大臣を決める選挙戦だけに大きな注目を集めましたが、2週間ほどの選挙期間を経て9月27日、石破茂議員が第28代自民党総裁、つまり次の総理大臣になることが決まりました。

選挙期間中は連日のように各候補による演説会が開かれ、さまざまなテーマについて白熱した議論が繰り広げられていましたが、その中で筆者が「おっ!」と注目したテーマがあります。それは、「解雇規制の緩和」です。

解雇規制とは企業が従業員を解雇しようとした時に法律などでさまざまな制限がかけられていることを指します。労働契約法第16条では解雇の要件について次のように記載されています。

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

例えば、能力不足だからと言ってそれだけを理由に従業員を解雇することは通常認められていません。つまり、現状では企業は簡単には従業員を解雇できない仕組みとなっているわけです。この解雇規制を緩和する考えを2人の総裁候補が明らかにしました。

規制緩和派の2人が述べたこと 

演説
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各候補による共同記者会見の場において、小泉進次郎議員は解雇規制について次のように述べています。

「新卒で就職したら終身雇用まで40年間。この柔軟性のない労働市場が、令和の時代もこのまま続いていった時に、長年の課題である正規・非正規の格差の解消是正、ここにつながらないという問題意識が強くあります」

解雇規制の緩和により、「衰退していく産業から成長産業へと労働者が移りやすくしていくべきだ」との主張だと筆者は受け取りました。主に衰退していく産業の大企業から、成長産業のスタートアップへの人材移動をイメージしているのでしょう。

また、今でこそ絶対ではなくなりつつありますが、日本の多くの企業は終身雇用制を敷いています。終身雇用制では、雇用契約を結んでしまうとなかなか解雇できないため、企業はどうしても思い切った人材採用をしづらくなります。「今は伸びている分野で人材も必要だけど、数年後に市場がどうなっているか分からないから採用人数を抑える」と考える企業は少なくないでしょう。

規制緩和派のもう一人、河野太郎デジタル担当大臣は小泉議員とは違う視点で次のように述べています。

「現在、中小企業などで不当に解雇されても何の補償も受けられないという現実があります。不当解雇に対して金銭で補償を受けられるというルールを明確化することが、この不当解雇を防ぐ、あるいはそういうことが起きた時に補償を受けることができるようになります」

金銭で労働契約を解除できる制度は現在日本にはありませんが、欧米では珍しいものではありません。例えばフランスでは、企業には労働者の転職斡旋のための努力が義務化されており、企業がその努力を怠った場合は不当解雇とみなされます。不当解雇とみなされた場合、最高で20カ月分の給与に相当する賠償金の支払いを課せられる可能性があります。

またドイツでは整理解雇の補償金制度が導入されていますが、実際には大半の解雇事件は和解で解決されており、その際の補償金は「0.5~1.0×月収×勤続年数」で算出。勤続年数が長ければ長いほど高額の補償金を受け取れる仕組みとなっています。

「日本は解雇しづらい」は本当?

解雇
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小泉議員と河野大臣の主張を聞くだけだと、「日本は相当に解雇しづらい国なのだな」と思う方もいると思いますが、実際はどうなのでしょうか。実は、その認識は少々外れています。OECD(経済協力開発機構)が発表している「OECD加盟国における正規労働者の解雇規制の厳格性」によると、日本は37カ国中25位(2019年時点)で、先進各国の中ではむしろ労働者保護の程度が低い部類に位置付けられているのです。

確かに、考えてみれば日本ではリストラという言葉は一般化されており、意味を知らない人はいません。また、早期退職制度は数多くの企業が導入しています。東京商工リサーチによると、2024年1~8月に早期・希望退職を募集した上場企業は41社(前年同期28社)で、対象人員は7104人(同1996人)と前年同期の3.5倍に達しました。

つい先日も精密機器大手のリコーが、来年3月までに約2000人を削減すると発表して大きな話題となったばかりです。もちろん、「早期退職=解雇」ではありませんが、従業員との雇用契約を打ち切るという意味では同じです。

先進各国と比べて、労働者保護の程度が決して高くない今の日本において、これ以上の解雇規制の緩和がそもそも必要なのかどうかは、よくよく議論していかなければならないことなのではないでしょうか。今回、自民党総裁選で勝利した石破議員は解雇規制の緩和に反対の立場を示しています。しかし、今回の総裁選で大きな争点になったように、近い将来、解雇規制の緩和に賛成の総理大臣が出てくる可能性もあるでしょう。今後も自民党内や国会での議論に注目していく必要があると考えます。