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韓国で拡大中の「非婚」ブーム、その理由と驚きの経済効果とは?

経済とお金のはなし 織瀬 ゆり

韓国で拡大中の「非婚」ブーム、その理由と驚きの経済効果とは?

【画像出典元】「Svetography/Shutterstock.com」

「結婚しません」と宣言して、ウエディングドレスを着て愛犬と記念撮影をする女性たち。韓国で話題の「非婚式」は、単なる独身のお祝いを超えて、社会への静かな反抗を象徴しているようです。

出生率が0.72と世界最低水準の韓国で何が起きているのか。韓国の「非婚」ムーブメントから見える、新しいライフスタイル選択と独身市場の可能性について考えてみましょう。

韓国で起きている「非婚」ムーブメント

韓国では2000年代初頭から「非婚主義」が一種のムーブメントとなっています。「非婚」とは、単に結婚していない「未婚」とは異なり、あえて結婚を選択しないことを意味します。

その象徴的な現象が「非婚式」です。2002年から非婚女性の経験と声を基に、「非婚式」を挙げている女性団体もあるようです。

ウエディングドレス姿でペットの犬と一緒に撮影する女性や、友人たちに囲まれて「結婚しない」宣言をする女性たち。それは従来の結婚観への静かな抵抗の表れでもあります。

韓国では若年層を中心に結婚への意欲が低下しており、特に女性でその傾向が強いという調査報告があります。さらに驚くべきは、30~40代の女性非婚者が138万人に達し、10年前の66万人から倍近くに増加していることです。

女優のキム・ヘスは「誰かの女として生きるのも良いが、私の名前3文字を輝かせながらかっこよく生きるのも良い」とメディアで発言し、K-POPの少女時代のサニーも「結婚を必ずしないといけないの?」とメディアで発言するなど、著名人による非婚主義の表明も相次いでいます。

なぜ韓国で結婚しない人が増えているのか?

ソファで寛ぐ女性
【画像出典元】「fizkes/Shutterstock.com」

韓国で非婚が急速に広がる背景には、現在の社会構造に問題があるとされています。

韓国の就職活動は「スペック採用」と呼ばれる即戦力重視の傾向が強く、大学卒業後の就職までに時間がかかることもあり、結婚について考える余裕を持ちにくい現状があります。また、韓国では長時間労働が常態化しており、出産や育児がキャリアに与える影響を懸念する女性も少なくありません。

子どもを持つことに対して慎重な姿勢を取る人が増えており、出産そのものを望まないという価値観も広がりつつあるのが現状です。

企業も注目する「非婚市場」

韓国では企業も非婚者を重要な顧客として認識し始めています。

近年、韓国の一部企業では従来の結婚中心の福利厚生から、多様なライフスタイルを認める方向への転換が見られます。これは非婚者が消費市場において無視できない存在になっていることを示しているでしょう。

また、米国ニュースメディアのBloombergやCNBCが報じたモルガン・スタンレーの調査によると、韓国の1人あたりの高級ブランド消費額が世界一という興味深いデータもあります。結婚や子育てにかかる費用を自分自身への投資に回せる非婚者は、企業にとって魅力的な顧客層として注目されています。

日本でも拡大する「おひとりさま」消費

日本でも韓国と同様の変化が起きつつあります。2020年の20代未婚率は男性で72.9%、女性で62.4%に達し、内閣府の調査では未婚者が独身でいる理由として「自由や気楽さを失いたくない」という女性が31.0%を占めています。

日本でも「おひとりさま」市場は着実に成長しています。単身世帯の増加やライフスタイルの多様化により、一人で楽しむ消費スタイルが当たり前になってきました。

総務省の「家計調査」によると、単身世帯の消費支出は1世帯当たり約17.0万円で、4人世帯の約34.1万円と比べると約半分ですが、世帯員1人当たりで見た場合、いかに単身世帯の消費効率が高いかが分かります。単身者が重要な消費者層であることは間違いないのです。

実際に、一人用炊飯器や小型家電、ソロキャンプ用品、一人旅プランなど、「おひとりさま」専用の商品やサービスが次々と登場しています。これらは単なる「一人用」ではなく、一人の時間を充実させるための工夫が凝らされており、新しい市場として企業の注目を集めていることが分かるでしょう。

「選択的シングル」という新しい価値観

ジャケットを着た若い女性
【画像出典元】「stock.adobe.com/kapinon」

韓国の「非婚式」現象から学べるのは、結婚しないことを「選択的シングル」として積極的に捉える価値観の変化です。これは単なる少子化問題ではなく、個人の生き方の多様化を表しています。

しかし、現在の社会制度や企業の福利厚生は依然として結婚・子育て世帯を前提に設計されていることが多いのも事実です。韓国の一部企業で見られるような、多様な生き方を認める制度設計が日本でも求められています。

これからの社会に必要な「多様性の尊重」

韓国の「非婚式」ブームは、結婚を強要されない社会への願いを表しています。日本でも、結婚する・しないに関わらず、すべての人が自分らしい人生を送れる環境作りが欠かせません。

企業や自治体は、結婚・子育て支援だけでなく、独身者のライフスタイルを支える制度やサービスの充実を図る必要があります。少子化問題の解決と同時に、多様な生き方を認める社会の実現。そのバランスを取りながら、誰もが安心して生活できる社会を目指していくことが、これからの課題と言えるでしょう。
「結婚しない」という選択も、「結婚する」という選択も、どちらも尊重される社会。それが、韓国の「非婚式」が私たちに投げかけている問いかけなのです。