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2026年築古マンションの建て替えが進む?区分所有法の改正ポイント

そなえる 白浜 仁子

2026年築古マンションの建て替えが進む?区分所有法の改正ポイント

【画像出典元】「mapo_japan/Shutterstock.com」

築年数が進んだ古いマンションの先行きが課題になっています。マンションは複数の人が所有するため、建て替えや修繕の意思決定に時間がかかってしまうことが理由です。こうした課題に対応するため、「改正区分所有法」が2025年5月に成立し、2026年4月1日から施行されることになりました。これにより、老朽マンションの合意形成が前に進みやすくなることが期待されます。

本記事では、区分所有法の改正で何がどう変わるかにポイントを絞って整理し、マンションに住んでいる人の生活や資産への影響を確認していきます。

区分所有法とは

区分所有法は正式には「建物の区分所有等に関する法律」と言います。マンションや団地など一棟を複数人で所有する集合住宅での運営規定が定められた法律です。マンションは自分が所有する「専有部分」のほか、廊下やエレベーター、外壁など皆で使用する「共用部分」に分けられており、皆が快適に過ごせるよう修繕や建て替えなどに関する様々なことが区分所有法で定められています。

なぜ今改正?「建物の老朽化」と「居住者の高齢化」

団地の廊下
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近年、マンションについて2つの大きな問題が取り沙汰されています。

1. 建物の老朽化

日本では、高度経済成長時代となる1960年頃から徐々にマンションが建てられるようになりました。そういったマンションの老朽化が今大きな問題となっています。国土交通省の調査には築40年を超えるマンションは2023年時点で約137万戸、その10年後には約274万個、20年後には約464万戸と倍増することが記されています。

マンションはRC(鉄筋コンクリート)造りなど強固で寿命が長いのが特徴ですが、定期的なメンテナンスが必要です。老朽化が進めば大規模修繕をしなければなりません。大規模改修で賄えなくなると建て替えも検討しなければならず、それには相当な時間と労力、費用が必要です。今後老朽化したマンションの行方は大きな課題と言えます。

2. 住民の高齢化

また、住民の高齢化が進んでいることも問題を大きくしています。マンションの所有者が80代だった場合、老朽化するマンションの建て替えを前向きに考えたい人はどのくらいいるでしょうか。建て替えの間に必要な仮住まいの確保や引っ越しの手間、それらに掛かる費用や労力を考えると今のマンションでそのまま人生を過ごしたい、建て替えの必要はないと考える人は少なくないはずです。

国土交通省の同調査では、築40年以上の世帯主年齢は70歳以上が5割超いると記されています。年齢的な衰えや体調不良などで管理組合の会合に積極的に出席することが難しいケースもあるでしょう。中には、相続で放置され相続人と連絡が取れない、所有者が行方不明でマンションのことを決められない、ということも起こっているようです。

区分所有法、改正のポイントまとめ

このようなことから、今回、マンションの運営について意思決定がスムーズに進められるように区分所有法が改正されることになりました。それによってマンションの大規模改修や建て替えをはじめ様々なことが進めやすくなります。主な改正点を見ていきましょう。

所在不明者の扱い・集会の決議

現行法では、原則として所有者全員で決議することが必要です。そのため、連絡が取れない所有者がいると「反対票の扱い」となり、所有者の多くが賛成していても議決数を満たせず決められない問題が起きています。今回の改正では、そういった所有者がいる場合は、その者を議決権の母数から除外できるようになり、今後はスムーズな合意に繋がることが期待できます。ただし、裁判所への申し立てなど一定の手続きが必要です。

共用部分の変更(大規模修繕・簡易な修繕)

共用部分の大規模な修繕については所有者および議決権の3/4以上の賛成が必要でしたが、今後は出席者多数決の制度が導入され、「集会出席者もしくは所有者の2/3以上」の賛成で大規模改修が行えるよう緩和されます。エントランスの床や壁などの改修、エレベーターの入れ替えなどが一例です。

共用部分の修繕では、小規模なものもあります。例えば、廊下や階段の手すりの塗装、廊下の照明器具の交換などです。こちらも大規模改修時と同じく所有者の3/4以上の賛成が必要でしたが、今後は「集会出席者の過半数」を満たすと決議されるようになり随分と決めやすくなります。

建て替え、一括リノベーション・売却

これまで所有者および議決権の4/5以上の賛成が必要でした。改正後は、現行の原則を残しながらも「耐震不足や老朽化などの理由がある場合は3/4以上」の賛成でよくなります。また、「災害によって被災した場合には2/3以上」とさらに緩和されることになりました。

敷地売却や取り壊し

建物や敷地の一括売却は、区分所有者全員が同意する必要があったため事実上ほとんど不可能でした。しかし今後は多数決で決められるようになります。

管理不全の対応

管理が不十分な専有部分や共用部分がある場合もあるでしょう。そういった場合は、裁判所が管理人を選び、管理命令を出すことが出来るようになります。

マンションで暮らす人への影響は?

高層ビルの背景と日本円袋
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老朽化したマンションの建て替えや大規模改修の多数決要件が緩和されることで合意形成が進みやすくなり、安全・快適な生活が維持しやすくなります。特に耐震不足や外壁剥落など危険が及ぶ場合は、反対があっても計画が前に進む可能性が高まることは大きな安心へと繋がるでしょう。

一方で、建て替えや大規模改修が決まった場合、これまでのマンション管理組合に積み立てている修繕積立が不足する場合は、各所有者に負担金が発生する可能性があります。さらに建て替えは、引っ越し費用や仮住まい期間中の家賃など、臨時の負担資金も準備しなければなりません。

修繕積立金のチェックを

マンションの管理組合では、将来の大規模修繕や建て替えに備え、修繕積立の資金計画を立てる必要があります。修繕積立金が今いくら貯まっているのか、資金は十分か、長期的な積立計画はどうなっているかを確認することが必要です。

修繕積立金の積み立て具合は、マンションごとに随分と開きがあります。中には、積立金の不足により銀行から融資を受けているというケースも。傾向として戸数が多いマンションの方が修繕積立金は貯まりやすく、戸数が少ないマンションでは大規模改修などに備え先々の負担が増す傾向にあります。

今マンションを所有している人は今後の資金準備を、これから購入する人はマンションの間取りや立地、価格だけでなくそういった先々の負担についても考えながら検討すると良いでしょう。

今後マンションを買いたい人への影響は?

今回のように長く安心して生活するための法改正が進むことは喜ばしいことです。近年、マンション価格の上昇が続いており、築40年の中古マンションを購入するケースも珍しくありません。築古マンションの場合は、購入後まもなく大規模改修や建て替えの議論が始まる可能性もあるため、購入後割と近いタイミングでさらなる費用負担が発生するということも想定しておくことが必要です。

今回は、区分所有法の改正について解説しました。マンションは戸建てより不利な印象を受けた方もいるかもしれません。しかし戸建ても古くなれば改修も建て替えも必要です。マンションは意思決定をするのに総意が必要なため、今回はその点の整備が行われたというシンプルなものとしてとらえると良いでしょう。