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関税を誰が払うのか、報道を起点に意見が二分するアメリカの今

N.Y.発、安部かすみの今気になる最新マネートピック 安部 かすみ(あべかすみ)

関税を誰が払うのか、報道を起点に意見が二分するアメリカの今

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世界を揺るがし、連日メディアを騒がせている米トランプ大統領の関税政策。結局のところ関税を負担するのは誰なのでしょうか。トランプ大統領が関税政策を推し進める理由は?今回は、わかりづらい「トランプ関税」について現地報道と共に整理します。

関税を誰が払うのかやっとわかってきた?

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関税に関するニュースが連日報じられる中、8月半ばに大手メディア、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が以下のような記事を公開しました。

“Now we know …”には「やっと知ることになった/ようやく気づいた」というようなニュアンスが読み取れます。タイトルだけを見ると、関税を誰が払うかアメリカでは知られていなかったのかと不思議に思う人もいるかもしれません。

改めて整理しますと、関税を支払うのはアメリカ側です。

「関税を負担するのはアメリカ側」という認識は、ニューヨークに住む筆者の周囲でも早くからあると実感していました。というのも、報道が活発になり始めた25年4月頃から、関税によるさらなる物価高を懸念する声が増えていたからです。当地では21年頃から始まった急激なインフレの影響で、食品や生活必需品がすでに値上がりしている状態です。

そんな中筆者は25年4月以降、輸入品を扱う小売店やECサイトで一部の商品価格がさらに上がったのを確認しました。4月頭には多くの人がApple Storeに駆け込む様子も報道されました。筆者もその時点でiPhoneを最新版(当時)に買い換えた一人です。

(*後述しますが、25年9月現在のアメリカのスーパーでは値上がりした輸入商品、据え置きや値下げされた輸入商品が混在しています。またAppleで筆者が購入したiPhone16シリーズは4月以降も値上がりしていません。最新の17シリーズの価格も一部を除きほぼ据え置きです)

具体的にアメリカ国民の何割が関税そのものや影響について正しく理解していたのでしょうか。気になって調べたらいくつかデータが見つかりました。

*上記はあくまでもインターネットで見つけることができる一部の情報として、参考程度にピックアップしました。関税に関する報道は25年4月以降に急増し、同年9月下旬現在、関税やその影響について正しく理解している人の数は上記より増えているものと思われます。

関税を負担するのは誰?

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「関税を払うのはアメリカ人だとようやく気づいた」といった冒頭のWSJの記事がアップされた背景には何があるのでしょうか?

そもそも関税とは貿易当事者でない限りなじみが薄く、しかも専門的で複雑な分野です。ニュースを日常的にチェックしない人にはさっぱり解らないでしょう。一方で24年の米大統領選挙のキャンペーン中、トランプ氏は有権者に向け、他国に高率関税を課すと公約していました。そしてそのコストはアメリカ市民でなく外国の販売業者が負担すると説明していました。

WSJの記事には「大統領は有権者に対し外国が自らの関税政策の代償を払うと約束」と書かれています。また米ピーターソン国際経済研究所(PIIE)の9月16日付の記事(Who is paying for Trump's tariffs? So far, it's US businesses.)でも以下のように示されています。

しかし実際のところ、関税は「輸入国」側=アメリカ側が支払うのは自明です。もっと踏み込むと、関税の納付とは輸入者(輸入する企業など)が行うものです。そして輸入する側の米企業は関税による追加コストの一部もしくは全額を販売価格に転嫁することが多いため、誰がコストを負担するかは、つまるところ「輸入国アメリカの消費者」という解釈もできます。

実際に今春以降、筆者が暮らす地域のスーパーや小売店などでは価格が微増した商品が見られるようになりました。ただ値上げはすべての商品ではなく、価格が据え置きの輸入品もあり、個々別々です。

世界最大の小売チェーン、Walmartでも国産品・輸入品を問わず一部商品の値上げが確認されています。米Yahoo!Financeによれば、25年5~7月にかけて99ドルから149ドルに大きく値上げされた鍋セットもあれば、3.47ドルから2.72ドルへ値下げされた生鮮食品もありました。8月にはWalmartのCEOが、今後も企業努力で価格を据え置きすると発表し顧客を安心させています。

また関税の影響を受けた値上げとして、SHEINやTEMUなど激安通販サイトの一部商品(全商品ではない)、はたまた高級ブランドのエルメス(米国内の店舗)の商品もそうです。

関税を払う側のアメリカが政策を進めるわけ

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ちなみに件のWSJの記事は、トランプ大統領の発言や関税を正しく理解していない人を批判したものではなく、趣旨は以下の通りです。

この記事には、コメント受付中に3000件近くに上る意見が寄せられ、関心の高さがうかがえます(現在は受付終了)。「関税は戦略的なメリットを持つ政策手段」などといった賛成派と「関税を払うのは結局アメリカの消費者だ」とする反対派の間で意見は大きく割れています。

関税を支払うのはアメリカ側なのに、大統領が政策を進めている理由はいったい何でしょうか? この疑問に答えてくれそうな記事が9月半ばに英BBCでアップされたのでここで紹介しておきます。

トランプ大統領が関税政策を推し進める理由として、記事はアメリカの製造業が活性化し雇用が創出され、政府の税収が増え、消費者に対して米国製品の購入や国内での投資が促進されるとのトランプ氏のこれまでの主張を紹介しています。

加えて大統領が貿易赤字(他国から購入する商品の価値と他国へ販売する商品の価値のギャップ)を縮小したいと考えていることや、アメリカが「チーター(騙す人たち)」に搾取(利用)され、外国人によって「略奪」されてきたとする大統領の主張にも触れています。

対中国、対メキシコ、対カナダの関税は大きな社会問題となっている不法移民や違法薬物の流入を阻止する目的があること、対ロシアの関税はウクライナへの軍事侵攻を終結させる要求のためなどといった説明もあります。

トランプ関税の行き先が今後どうなっていくのか、引き続きさまざまな動向を見守っていく必要がありそうです。