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FRB利下げと円相場安定、日銀ETF売却で変わる投資環境とは

経済とお金のはなし 山下 耕太郎

FRB利下げと円相場安定、日銀ETF売却で変わる投資環境とは

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9カ月ぶりのFRB利下げと雇用懸念の台頭

米連邦準備理事会(FRB)は2025年9月17日のFOMC会合で、政策金利を0.25%引き下げ、4.0~4.25%とすることを決定しました。これは9カ月ぶりの利下げ再開となり、米国の金融政策が転換点を迎えたことを示しています。

今回の利下げの背景には、労働市場の変調があります。パウエル議長は記者会見で「労働市場がとても堅調だとはもはや言えない」と述べ、雇用の勢いが弱まり失業率上昇への懸念が強まったことを認めました。FRBが追求するデュアルマンデート(最大雇用と2%のインフレ目標)において、雇用の下振れリスクが高まったと判断したのです。

一方で、物価上昇率は依然として2%を上回っており、パウエル氏は、PCE物価指数は8月に前年同月比で約2.7%上昇したと予想しています。この「雇用と物価という両面のリスクを抱えた状況」を踏まえ、パウエル議長は今回の決定を「リスクを管理するための利下げ」と位置づけました。

FOMC参加者の見通しでは、年内残り2回の会合で計2回の追加利下げが見込まれており、前回6月の見通しよりも利下げペースが加速する見通しです。ただし、参加者19人のうち7人が年内の追加利下げに慎重な姿勢を示すなど、見解は分かれています。

日銀の政策据え置きとETF売却開始 

ETF
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FRBの利下げ翌日、日本銀行は金融政策決定会合で政策金利を0.5%に据え置くことを決定しました。これは1月の0.5%への引き上げ以来、5会合連続の現状維持となります。

高田創審議委員と田村直樹審議委員が0.75%への利上げを提案しましたが、反対多数で否決されました。日銀は据え置きの理由として、米国の関税政策による日本経済への影響や、FRBの利下げ転換が米経済を通じて与える影響を見極める必要があるとしています。また、自民党総裁選の結果や新政権の経済政策も金融市場に影響を与えるとして注視しています。

注目すべきは、日銀が金融緩和策として長年保有してきた上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の市場売却開始を決定したことです。ETFの売却ペースは簿価で年3,300億円程度(時価で年6,200億円程度)とされ、市場全体の売買代金に占める割合は0.05%程度に抑えられます。これは過去の銀行保有株式売却時と同水準であり、市場への影響を最小限に抑える配慮が見られます。

円相場の安定が日本株高を支える構図

米国の金利低下は日米金利差縮小を通じて円高圧力となり得ますが、現在の日本株高を最もよく説明する要因は、対ドルでの円相場の「安定」です。

ドル円相場の予想変動率(3カ月物インプライド・ボラティリティー)は4月以降急低下し、足元で10%を切る水準にあります。この予想変動率の低下は円相場の安定を示しており、日経平均のチャートと鏡映しの関係になっています。

円相場の安定は海外の中長期投資家にとって極めて重要です。急激な円安はドル建てリターンを押し下げ、円高は輸出企業の収益を圧迫しますが、安定していれば長期的な日本株投資の安心材料となります。この安定感が、海外からの継続的な資金流入を支えているのです。

構造改革への確信と長期マネーの流入 

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FRBの利下げ継続見通しは米経済の下支え観測から、米国株式市場を連日の最高値更新へと導いています。日本株市場でも、このグローバルな金融緩和環境下で海外からの中長期マネーの流入が継続しています。

この長期投資を促している要因は、東京証券取引所が上場企業に要請した資本効率改善による企業統治改革の進展への確信だと分析されています。アジア勢や欧州勢に加え、米国勢の資金も動き始めており、日本企業の構造改革に対する期待が高まっています。

この長期目線の買い意欲の強さは、日銀会合後の市場反応によく表れました。ETF売却発表によりヘッジファンドの売りで日経平均は一時800円余り下落しましたが、終値では4万5000円台を維持しました。長期投資家が短期的な材料に一喜一憂しない姿勢を示した形です。

投資テーマの変化と銘柄選別の時代へ

FRBの利下げ再開は、グローバルな資金移動の潮目を変える可能性があります。これまでインフレ再燃や財政懸念から債券への資金流入が難しく、それが世界的な株式相場の底上げを演出してきました。

しかし、利下げをきっかけに世界的に資金が株式から債券へシフトする動きが進めば、日本株の中でも投資家はより選別的な視点を持つようになる可能性が高まります。これまでAIや防衛といった大きなテーマで買われてきた銘柄間でも、今後は優劣がつく場面が増えるかもしれません。

日本株は長期上昇相場に入ったという見方が多い中でも、「すべてが買われる」フェーズの継続性については注意が必要です。より厳密な銘柄選別が求められる局面に入りつつあると言えるでしょう。

米国の金利低下は、日本株市場に為替安定という追い風と長期資金流入の継続をもたらす一方で、グローバルな投資テーマの変化に伴う銘柄間の選別圧力という複雑な二面性を持つ影響を与えています。投資家にとっては、この新たな環境変化を的確に読み解く力がより重要になってくるでしょう。

※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。