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「好きを仕事に」楽じゃない、乗り越えるべきライン越せるかが鍵

“好き”で稼ぐ

「好きを仕事に」楽じゃない、乗り越えるべきライン越せるかが鍵

思わず指先で撫でてしまいたくなる、繊細で可愛いデザインが人気のジュエリーショップ“Shirokuma(しろくま)”。世界にひとつだけのジュエリーをつくる宮田要さんは、デザインから制作まで、全てを担う独自のスタイルで、「好きなもの」と「得意なこと」を活かしたお仕事を実現しています。

頭の中に思い描いたデザインを、すべてカタチに

宮田さん

 

子どもの頃から手先が器用で、絵を描いたり、何かをこまごまと作ったりするのが好きだったという宮田さん。美術系の学校へ進学し、絵に携わる仕事や美術教師など、将来進む道について模索する中で、自分の得意な分野を活かせるジュエリーデザイナーという職業に出合います。

それまでジュエリーとは全く無縁だった宮田さんは、ジュエリーメーカーでデザイナーとして働きながら、その基礎を学ぶことに。お客様からのオーダーや、先輩スタッフのアドバイスを受けながら、徐々にその技術を身につけていきます。そうする中で芽生えたのが、「自分が思い描いたデザインを、カタチにしたい」という想いでした。

通常、オーダーメイドのジュエリーは、「デザインを担当するデザイナー」「制作を担当する職人」というように担当が分かれていることが多く、宮田さんも自分のデザインを職人さんに伝えて、ジュエリーを作ってもらっていました。でも、プロフェッショナルな技をもってしても、思い描いたすべてを伝え、カタチにするのはなかなか難しいもの。そこで、「だったら自分でやってみよう」と見よう見まねでジュエリーの加工をはじめ、元来の手先の器用さを活かしてその技術を習得したのです。

その後、さらにオーダーメイドのジュエリーショップでキャリアを積み、より自由な発想ができる環境の中で制作を行うために、2010年に独立。ショップの場所を探したり、機材を揃えたりといった準備に1年をかけ、翌年に“Shirokuma”をオープンさせました。

初期費用は60万円! 広告は打たず、SNSを使ってお店の特徴をアピール

お店

 

ジュエリーの制作に使う機材はネットオークションで中古品を購入したり、看板を手作りしたりしたため、かかった費用はトータルで60万円ほど。デザインと制作の両方を手掛けられる人が少ないことや、動物をあしらった個性的でかわいいデザインなどが口コミで評判となり、オープン以来大きな広告などは打っていないものの、赤字になったことはないと言います。

「ちょうどSNSが注目されはじめた頃で、時代がよかったんだと思います」。宮田さんは、いろいろな場所に広告などを出さない代わりに、作品の写真をSNSで紹介したり、日本語・英語でのブログの更新などを頻繁に行ったりという活動で、“Shirokuma”のジュエリーがどんなものなのか、より多くの方に伝えられるように工夫を重ねています。

ミクロ動物園

小さなちいさな生き物をかたどった、ジュエリーによる「ミクロ動物園」もその試みのひとつ。お店の名前を「しろくま」にするほど、動物や虫などの生き物が大好きな宮田さん。しろくまはもちろん、うさぎ、りす、きりん、パンダ、亀、カバ、ぞうや羊など、さまざまなモチーフをジュエリーにして、ホームページと店内に可愛い動物園を作っています。

店内

 

虫眼鏡で見るほど細かな細工ですが、その姿は今にも動き出しそうなほどリアル! 時には動物園に行って動きを観察することもある、という宮田さんの傍らには、動物の骨格や筋肉に関する本が。描写に徹底的にこだわった宮田さんの作品は、動物モチーフでも子どもっぽい印象にならず、シーンを選びません。とても精巧な仕上がりのため、「大好きなペットとずっと一緒にいたい!」という飼い主さんが、ペットの写真を持ってきてジュエリーをオーダーすることも多いのだとか。

期待以上のものを届けられるのがプロの仕事

リメイク

また、宮田さんは、フルオーダーだけでなく、ジュエリーのリフォームなども行っています。

例えば、お母様から譲り受けた古いデザインの指輪をリフォームする場合、石を外し、いくつかの既定の台座の中から新しいものを選んではめ直す、というのが一般的です。もちろん、“Shirokuma”でもそうしたリフォームも行いますが、「元の台座を活かしたい」というご要望があった場合、その台座を加工して石をはめ直し、まったく新しいデザインの指輪へと生まれ変わらせてくれるのです。

これは、デザイン力と制作の技術を併せ持つ宮田さんならではのお仕事。そのジュエリーの良さを最大限引き出せるように工夫を凝らして、世界にひとつだけのオリジナルのジュエリーが出来上がります。

一般的なリフォームよりも手間暇はかかりますが、そのジュエリーに込められたお客様の想いを大切にしたい、と宮田さんは言います。「ジュエリーは頻繁に買うのもでもないですし、お客様は“一生もの”だという気持ちでいらっしゃいます。ずっと使いたいと思っていただけるもの、出来上がったときに、お客様が期待している以上のものをお届したいんです」

“その線”を乗り越えるまで続けられるかが“鍵”

 

まさに天職と言えるお仕事をされている宮田さんですが、「好きなことを仕事にすることは、決して楽なことではない」とおっしゃいます。ご自身も、最初からいろいろな提案をお客様にできたわけではありません。オーダーを受け、それを言われたとおりに仕上げられるようになる、ということころから始め、コツコツと仕事を続けていく中で、デザインや技術の幅を少しずつ広げていきました。

デザイナーをはじめて4~5年経つ頃からやっと、お客様の希望をお伺いしながら、「もっとこうしたらいいんじゃないか」という提案や、自分なりのエッセンスをじわじわと入れられるようになったのだそうです。

「自分の提案したものが、お客様の好みにぴったりはまると、本当に喜んでいただけます。自分しかできない仕事が、少しでも役に立っていると思うと嬉しいですね」と話す宮田さん。オーダーメイドのジュエリーは、自由な発想を取り入れることができる反面、既製品と違い、出来上がりを見るまで本当に気に入ってもらえるのかどうか分からない、というリスクもあります。自由と同時に責任も生じることを覚悟しておかなければならないお仕事です。


「自分らしいスタイルを掴むためには、“乗り越えなければならないライン”があると思います。その線を越えるところまで持っていくことは簡単ではありませんが、そこに行くまで続けられる人が、“好きなことを仕事にできる”んじゃないでしょうか」と宮田さん。

20年近いキャリアを持ちながら、常に気を抜かず、日々センスと技術を磨き続けるその姿勢が、多くのお客様の心を掴むジュエリーづくりに繋がっているのではないでしょうか。オリジナリティあふれる宮田さんのジュエリーは、これからますます多くの方を笑顔にしてくれそうです。

Shirokuma