共同親権の導入で離婚後はどう変わる?養育費の未払いは減るの?
監修・ライター
これまで「離婚するとひとり親になる」という考え方が一般的であったため、離婚後に離れて暮らす親子の交流は30%、養育費の支払率は20%と低い傾向です。今回の民法改正により、「離婚後にひとり親となるのではなく、子どもの養育には親がふたり関わる」という価値観の大きな変化が期待できる一方で、父母の意見が食い違った場合に、家庭裁判所が正確な判断を下せるのかどうかといった点が課題となるでしょう。本記事では、共同親権の概要や導入の背景、課題についてまとめてみました。
離婚後の「共同親権」とは
今まで離婚後は父と母のどちらか一方が子どもの親権を持つ「単独親権」しかありませんでしたが、父と母両方に親権を認める「共同親権」も選べるようにする改正民法が2024年5月17日に成立しました。
【単独親権と共同親権のメリット・デメリット】
なお、原則として両者の協議によって「単独親権」か「共同親権」のいずれかを選ぶことになりますが、両者が合意できない場合は家庭裁判所が判断を下します。例えば、DVや子どもへの虐待が認められる場合は、その事実を家庭裁判所が踏まえたうえで単独親権になることもあるでしょう。なお、共同親権の導入は、2026年までに施行される予定です。
導入の背景
共同親権が導入される背景には、主に以下の3つが挙げられます。
- 養育費の未払いを防ぐため
- 面会交流が果たされないため
- 海外では共同親権を認めているため
冒頭でも述べたように、離婚後に養育費を継続的に受け取っている母子家庭の割合は、全体の約2割と少ないのが現状です。改正案では、養育費を支払わない場合に優先的に差し押さえができる「先取特権」や、離婚後に取り決めがなくても一定額の養育費を請求できる「法定養育費制度」も加わることが予定されているため、別居した親が養育費を払わないといったケースが減ると考えられます。
また、海外では単独親権だけでなく共同親権を認めているケースが多く見受けられます。2020年に法務省が公表した調査結果によると、日本以外の主要20カ国(G20)を含む24カ国のうち、「単独親権」制度をとっているのはインドとトルコだけでした。国際結婚をした後の子どもの扱いは「ハーグ条約」で定められているものの、日本人の親が配偶者の承諾なしに日本に連れて帰ってしまうケースが散見され、海外から批判されたことも導入のきっかけとなりました。
共同親権でなにが変わる?
共同親権を認める法改正により、離婚後の父母の関わり方に変化が生じることが予想されます。親権は「身上監護権」と「財産管理権」に分けられ、そのうち身上監護権は子どもの監護・教育に関する義務および権利のことであり、居所指定権や職業許可権が含まれます。
共同親権になると、進路や転居、重大な医療行為について両親の同意が必要です。ただし、緊急時や日常的な教育行為については、どちらか一方の親の判断で行うことができます。また、共同親権の場合でも、一方の親を「監護者」に指定し、子どもの日常的な世話や教育方針、住居の決定を任せることもできますが、強制ではありません。
共同親権のメリット・デメリット
単独親権の場合、親権者ではない親と子どもの関わりは制限されてしまいます。その点、共同親権であれば、離婚後も父母との関わりが続くため、良好な関係を築けるようになるでしょう。親権者だけに子育てに関する負担がかかることは少なくなるほか、面会するにあたって養育費の支払いもスムーズに行われやすく、経済的な安心にも繋がります。
一方、父と母それぞれとの生活となるため、生活環境が定まらずに不安定になる子どもも現れるでしょう。特に片方の親が遠方の場合、面会交流のたびに長距離移動が必要となり、子どもの負担が生じる点も懸念されます。
共同親権には課題も多い
共同親権になると、離婚後も子どもの養育に関して父母のやりとりが必要となる場面が多く、父母の関係性によっては単独親権が好ましい場合もあるでしょう。
また、共同親権に対して反対の意見が多くある理由のひとつとして、子どもへのDV被害が続きかねないことが挙げられます。身体的なDVであれば証拠を提出できますが、精神的・経済的なDVの被害を認めてもらうのは難しいでしょう。目に見えないDVについて家庭裁判所がどう判断するのかが、大きな課題のひとつといえます。
父母が争わなくていいような離婚協議に向けた司法改革をはじめ、各種支援体制の強化など、まだまだやらなければならないことはたくさんあるでしょう。行き当たりばったりの法改正ではなく、子どもたちの幸せに繋がるような運用を期待します。