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「デジタル円」発行で国の借金は消え手続きもワンストップ化へ!?

松田 学のみらいのお金と経済 松田 学

「デジタル円」発行で国の借金は消え手続きもワンストップ化へ!?

目次

まだ未知のお金のことなので、ちょっと気が早いと思われるかもしれませんが、日本がデジタル法定通貨を発行するときには、どんなかたちでどのように発行すべきなのか…。今回はこのことについて述べてみたいと思います。実は、このお話は決して、遠い未来のお話ではありません。
昨年明らかになった中国の「デジタル人民元」発行の動き、そして世界各国でもデジタル通貨の検討を本格化し始めた…。動きが急になっています。日本でも自民党が「デジタル円」発行を提言、米ドル基軸通貨国のアメリカとも調整…とすら報道されています。


このところ、もはやパンデミックにまでなった新型コロナウィルスが世界を震撼させ、国際秩序まで大きく変えようとしています。今回のコロナで米中新冷戦はさらに激化し、恐らく、国際社会の分断は今後一層、強まるでしょう。
すでに、今回の事態の責任を回避しようとする中国は、米欧など世界を相手に、巧みなプロパガンダを展開し始めています。アメリカか中国か、これまで両方の大国に二股をかけてきたかにみえる日本はいろいろな分野で、米中いずれかの究極の選択を迫られる…。
この米中の体制間戦争?は、軍事力というよりも最先端の情報技術を駆使した「ハイブリッド戦」のかたちをとるでしょう。まさに「見えない戦争」です。そのなかで日本は、中国が取り込みたい最も重要な国。情報技術を縦横に入れ込むことが可能なデジタル法定通貨は、このハイブリッド戦でも大きな役割を果たす可能性があります。


各国がますます自国の国益を追求し、不安定さを強める世界にあって大事なことは、独自の国家基盤を強化することです。デジタル人民元が「一帯一路」に乗り、米ドル基軸通貨体制を脅かし、日本まで取り込んできたとき、日本は果たして大丈夫なのか…と心配する事情通も増え始めました。日本円としての通貨主権と、国民の個人情報と、国家主権を守る、そのために、日本が便利で信用できる、独自の法定通貨として「デジタル円」を発行することは、決して未来の課題ではなく、喫緊の課題だと考えます。
だからこそ、政府暗号通貨「松田プラン」を…。今回は、前回に引き続き、この「松田プラン」についてのご説明を続けたいと思います。ご参考まで、「松田プラン」の全体像を描いた前回の記事は、こちらです↓

「国の借金をお金に変える政府暗号通貨『松田プラン』とは」

ただ、現在、各国が検討しているデジタル通貨は、いずれも中央銀行が発行するCBDC(Central Bank Digital Currency)が念頭に置かれているようです。少なくとも日本の場合、それではデジタル法定通貨を発行する意味はほとんどありません。なぜなのか。
今回は、「デジタル円」がなぜ、日銀が発行する「日銀コイン」ではなく、政府が発行する政府暗号通貨でなければならないのか…という切り口から、「松田プラン」の意味について、さらにご理解を深めていただこうと思います。

日銀に個人情報が集まる?…その管理は政府の役割

デジタル法定通貨をブロックチェーン技術を用いて発行するなら、それはビットコインのような分散型の仕組み(パブリックチェーン)ではなく、中央管理型(プライベートチェーン)になると、前回お話しました。この場合、このお金の発行元である中央管理者には、このお金が実際にどのようにやり取りされたかを始めとして、たとえばマイナンバー制度などとは比較にならない高い精度で、お金のユーザーの個人情報など、膨大な情報が集中することになります。
日銀がデジタル円を発行すると、皆さんのデジタル円に関係する個人情報は日銀に集まることになりますが、日銀はそれをどう管理するのでしょうか。そもそも日銀は、国民の細かい個人情報を保有したり管理したりするような組織としてつくられたものではありません。そうした情報を持っても、日銀には管理する意味がなく、持て余すだけでしょう。
むしろ、厳しい個人情報保護が日銀にも強く求められることになりますから、日銀にとっては余計なコストです。情報漏洩事件など何か管理上のミスや事件があったときには、日銀の責任が厳しく問われることになるのは言うまでもありません。


日銀としては、こんなものを委ねられたら、コワくてしかたがない…、ではないでしょうか。その組織の業務や目的にとって意味あるデータ管理なら、セキュリティにコストをかける意味がありますが、中央銀行とはいえ、銀行に過ぎない日銀には意味のないお荷物。現に、日銀筋からは、自分たちはビッグデータなど持ちたくないという、消極的な声が聞こえてくるようです。
では、デジタル円を発行することで集まる莫大な個人情報は、どこが管理すべきなのか?その答は間違いなく、日本政府でしょう。すでに政府はマイナンバー制度で莫大な個人情報を管理下においています。

すでに日本政府はマイナンバー制度を運営している

2016年1月1日から日本でスタートしたこの制度、私が衆議院議員だったときに、その法律の審議にあずかったものですが、当時から、国が個人のプライバシーに関わる情報を保有し管理する仕組みの導入に強い反対意見が出されていました。どうも、日本の国民には、戦前の国家統制時代のトラウマが強く残っているようです。
ただ、多くの先進国では、個人番号制度はだいぶ以前から、国の重要な基盤として欠かせないものになっています。個人番号を使わないと日常生活もできない国々もあります。たとえば、自らの健康に関する情報が個人番号で特定されることで、どの医師や病院に行っても、検査や投薬や診療の履歴、病歴などが直ちに共有され、効率も効果も高い医療が実現している国々もあります。
サラリーマン以外の方々が毎年、膨大な時間と労力をかけている税金の確定申告も、北欧やエストニア、お隣の韓国でも、国が申告書を作成してくれて、本人はOKならサインするだけ、5分で済んでしまうといったことまで実現しています。


全体的にデジタル化が遅れた日本は、そのおかげで、こういった国々に比べ、国民にとって便利な国にはなっていないのが実情です。他の先進国に比べてずいぶんと遅れましたが、ようやく個人番号制度が、最初は、税金と社会保険関係(年金や健康保険など)と防災の3つの分野から「小さく産んで、大きく育てる」という考え方で導入されたのが、現在のマイナンバー制度です。「大きく育てる」というのは、いずれ、先を行っている国々と同様、銀行預金をはじめさまざまな資産や、健康・医療情報などまで、マイナンバー制度で個人番号と結び付けられる情報の範囲を広げていくことが目指されているからです。
ここで大きな誤解があるのが、国が個人のプライバシーを監視するという懸念です。
実際には、国の側では、税金なら税金、健康保険なら健康保険というかたちで、マイナンバーで紐づけられる個人情報は分別管理されています。制度を超えて名寄せするということが容易にはできない設計になっていて、マイナンバー制度で国が保有する自分の個人情報のすべてを知ることができるのは政府ではなく、本人だけ、という仕組みになっています。政府が目的外で個人情報を扱うことはできませんので、プライバシーが監視されているという心配は不要です。
一応、政府の側には、このような個人情報管理の仕組みが確立されていますので、少なくとも日銀に個人情報を預けるよりは、ずっと安心でしょう。
ましてや、デジタル人民元や、それと結びついた電子マネーを通じて、個人情報を融通無碍に扱える中国当局に私たち日本人の個人情報を預けるよりも、はるかにマシでしょう。

便利な世の中になるからデジタル円を導入する意味がある

日本の政府がデジタル円の発行元になることで、私たちの生活や経済活動は、ぐっと便利になるでしょう。通貨とは本来、一種の情報機能だからです。これまでのお金には経済的な価値の情報しか乗せられませんでしたが、ブロックチェーンなどの最先端の情報技術を活用すれば、それ以外の多様な情報機能をお金に乗せることができるようになります。
しかし、日銀コインなら、いままでどおりの経済的価値にしか関われないお金になってしまいます。日銀は国民生活に関するさまざまな制度の運営には関わっていませんから。
すでにマイナンバー制度で政府はさまざまな情報を電子的に管理保有しています。デジタル円が政府暗号通貨であれば、それは、個人情報をはじめ、政府が管理する各種の膨大な情報(電子データ)にアクセスできるトークンになるでしょう。
たとえば、納税や社会保障などの諸手続きや政府関係の契約を、スマートコントラクトとして政府暗号通貨に内装すれば、国民はトークンエコノミーに基づくワンストップ政府の利便性を享受できることになります。


何のためのデジタル円の発行なのかと問われれば、それぐらいのメリットがあるからこそ、いままでのお金とは別に、あえてデジタル円を新たに発行するのだ…、そう説明しない限り、国民もその必要性を実感し、納得することにならないのではないでしょうか。
ここで、ブロックチェーン技術の本質的な特性について述べます。
この連載ですでに解説したのは、仮想通貨の基盤としてのブロックチェーンの特性についてでしたが、それはブロックチェーン技術の使われ方としては、ごく初歩的なものに過ぎません。この技術がそのメリットを真に発揮して社会全体に大きなインパクトを与えるのは、社会のさまざまな仕組みに実装されることによってです。
この点は機会を改めて詳しくお話しします。ただ、政府暗号通貨がなぜ、便利なお金になるのかをご理解いただくために、次の点だけは押さえてください。

ブロックチェーンなら政府への支払いや手続きがワンストップで

そもそもブロックチェーン技術とは、①電子データを改ざんできないよう管理する技術であるだけでなく、②スマートコントラクトを内装することで各種の手続きや契約などさまざまな用途に電子データを活用できる技術であり、③ユーザーがトークンでアクセスしてこの仕組みを利用するものである…これらの「三位一体」でこそ、従来はほとんど不可能だった便利さや効率など各種のメリットを実現することになるものです。
このなかで②のスマートコントラクトに、ブロックチェーン技術のイノベーションの中核があります。③のトークンは、広くユーザーが保有します。ブロックチェーンで管理された電子データと結びつくことで、これをお金のようにも使えますし、いろいろな手続きや契約なども、このトークンによるお金の支払いと同時一体でできることになります。


社会のさまざまなデータは、たとえば医療なら医療、年金なら年金、不動産登記なら不動産登記…といった具合に、それぞれのシステムごとに、それぞれの論理に従って管理されてきました。制度やシステムや仕組みが主役、データはそれに従属するものです。
ブロックチェーンは、ユーザーのニーズに応じて、その論理と電子データが結びつくことで、システムを超えて(システム透過的に)各システムを動かします。そこでの主役は各システムではなく、電子データであり、それをトークンを用いて利用するユーザーです。


これ以上深入りすると難しくなりますので、「松田プラン」との関係で簡単に言いますと、ここでは、こうしたトークンに当たるのが政府暗号通貨です。政府に関係する公的な制度や仕組みをブロックチェーン管理に移行すれば、たとえば、政府暗号通貨で納税すれば、納税に必要な手続きが税金の納付と一体で行われることになります。あるいは、介護に関係するいろいろなサービスに関する各種の手続きが、それらに関係する手数料を政府暗号通貨で支払うことで、一発で完了することになるでしょう。


先日、お父様を亡くしたばかりの知人が、親が亡くなったことで必要となる手続きでいろいろな役所や機関に出かけなければならず、あちこち飛び回って似たような書類を何種類もたくさん書かされて、莫大な時間を使わせられた。これでは自分の仕事ができない…と不平を言っておられました。皆さんも引っ越しのときには、いろんな手続きで大変な思いをした経験がおありではないでしょうか。
親の死亡に関してしなければならないこと、引っ越しに伴って処理しなければならないこと、それらはまさに、各種の制度を利用するユーザー側の「論理」です。政府暗号通貨というトークンを関係する支払いに用いれば、必要な電子データと結びついて一回で手続きが済むようになる。こうした一般の国民にとってとても便利なトークンエコノミーを、未来社会の基盤として整備することになるのが、「松田プラン」なのです。

日銀の資産になるからこそ、金融緩和の出口は円滑化

デジタル円が政府発行であるべき理由はまだあります。
黒田東彦総裁のもとで日銀が2013年4月から始めた「異次元の金融緩和」政策は、その目標であるインフレ率2%達成のメドが未だに立たないまま、もう7年になります。このまま日銀のバランスシートは、国債などを買い続けることで500兆円、600兆円、700兆円…と拡大を続ける一方なのでしょうか。


インフレ目標が達成されれば、金利も物価上昇率以上の水準へと上昇します。全体的に金利が上昇したとき、国債を日銀に売ることで膨れ上がった日銀当座預金は基本的にゼロ金利ですから、銀行からみれば金利を生まない資産を大量に持ち続けていることで、やがて銀行経営ももたなくなるでしょう。もちろん、いまの異常な低金利がどこまでも長期化すれば、バブルになり、バブルは必ず崩壊します。
いつまでも続けられないこの政策、いずれ、どこかで終わりになりますが、どうやって終わらせるか…。これはリーマンショック後に、同じく量的緩和政策を採ってきたほかの国々(米国FRB、欧州ECBなど)の中央銀行にとっても難題です。


なぜ難しいか。この政策の「出口」に伴って必要なのは、膨れ上がった中央銀行のバランスシートを縮小させることですが、それは中央銀行が持っている資産を売ることによってしか実現しないからです。詳しくは、本連載の第4回 「日銀が保有する国債が返済不要な債務になっているカラクリとは!?」をご覧ください。日本の場合、日銀が資産として持っている国債を民間に大量に売り戻さなければなりません。
そんなことをしたらどうなるか。金利が急激に上がって、金融市場が大混乱、銀行が持っている国債の値段が下がって、かつての欧州債務危機のときのような信用収縮につながる懸念があります。
しかし、日銀が民間に売る資産が国債ではなく、政府暗号通貨だったら…。金利がついた資産ではないので、これによって金利が上がるということにはなりません。前回ご説明したように、「松田プラン」では、政府暗号通貨に対する民間からの需要に応じて、政府が暗号通貨を発行して、日銀が持っている国債を償還することになります。日銀が持っている国債という資産は、政府暗号通貨という資産に置き換わります。これが民間に売られていくことによって、日銀のバランスシートは無理なく縮小していきます。
もし、デジタル円が日銀発行の日銀コインなら、それは日銀の資産(債権)ではなく、負債(債務)になります。資産は売れますが、負債を売ることはできません。金融政策の円滑な出口に向けた、こんな芸当はできなくなります。

日銀コインは資本主義の否定になる…?

もう一つ、日銀がデジタル円を発行するようになると、何が起きるか。
いまの日銀は日本銀行券という一万円札などのお札を発行していますが、皆さんがそれを受け取るのは、市中の金融機関の口座から預金をおろしたときです。皆さんがいまの日本の法定通貨である日本円で送金したり決済しているのは、民間の金融機関の口座を通じてです。
もし、日銀コインが発行されれば、皆さんは日銀に口座を設けて、日銀から受け取ったウォレットに日銀コインを入れて、日頃のお金のやり取りや貯金をするようになるでしょう。いままでは、人々が一般に使うお金について、日銀が銀行を通さずに、直接、人々に供給するということは行われてきませんでした。
それが、日銀が直接、お金を供給することになれば、最も信用できる銀行は中央銀行ですから、多くの人々が市中銀行への預金をやめて、日銀に開く口座にお金を移してしまうかもしれません。銀行業の本質は、預金を預かることで決済手段を提供することに基づいていますから、「日銀よ、こんにちは。銀行よ、さようなら。」ということになりかねません。


本連載の第4回目「日銀が保有する国債が返済不要な債務になっているカラクリとは!?」でも述べたように、資本主義の基本は、市中の銀行が信用創造することにありますから、これは資本主義の否定にもつながりかねません。銀行が信用創造して生み出すお金は、民間の自由な事業活動を裏付けとして生み出されます。それで生み出される価値と結びつくのが、銀行の資産側に計上される貸付金です。
しかし、日銀コインは何を裏付けにして発行されるかといえば、それは日銀の資産であり、日銀の資産とは、そのほとんどが国債です。国債は政府の経済活動の財源として発行されるものですから、日銀コインは、政府の活動に応じて生み出されるかたちになってしまいます。これでは社会主義でしょう。これが中国なら、デジタル人民元を中央銀行である人民銀行が発行してもおかしくありませんが…。

政府が発行するから国の借金が消える

前回の記事「国の借金をお金に変える政府暗号通貨「松田プラン」とは」をお読みいただければ明らかなように、政府暗号通貨の新規供給は、それに対する民間からの需要に応えようとする市中銀行からの要請に応じて、政府が日銀保有国債の償還を政府暗号通貨で行うことによってなされます。その分の国債が消え、国の借金がお金に姿を変えることになります。
このような財政再建効果は、日銀コインでは仕組み上、あり得ないことになります。日銀コインの発行は、日銀の負債を拡大させるだけですから。


日本ではアベノミクスのもとで、日銀が大量の国債を保有することになりましたので、政府暗号通貨の発行を、国債の消滅とのセットで実行できるようになりました。これはアベノミクスの大成果。いまもたらされている財政再建のチャンスを活かすことが国益です。
しかも、「松田プラン」では、政府暗号通貨を発行する政府と、そのユーザーである民間との間に、日銀と市中銀行が介在する姿となっていますから、これまでの金融システムと日銀の金融政策の有効性が維持されることになります。健全な資本主義経済が守られます。

次回は、この政府暗号通貨について、その実施や普及に向けた課題や、実際にどんなメリットが生まれてくるのかについて、もう少し突っ込んだ内容のお話をしたいと思います。

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