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「LIFE SHIFT」は読んだ? 人生100歳時代を考える3つのヒント

山崎俊輔のライフプラン3.0時代を生きるルール 山崎 俊輔

「LIFE SHIFT」は読んだ? 人生100歳時代を考える3つのヒント

100歳人生、と誰もが知るようになった大転換

私は長年にわたって「老後に向けてお金をどう備えるか」というセミナー講師をしてきましたが、数年前からガラリと雰囲気が変わりました。

「老後に2000万円」というキーワードでリアリティのある問題意識になったことと、その前提として「人生100歳時代」というイメージが社会に共有されたからです。

「人生100歳時代」というのは、長寿社会のイメージを具体化したものです。ベストセラーとなった「LIFE SHIFT」がその大きな契機であったと思います。そこでは、日本の今の子どもが老齢期に至るころには半数が107歳まで生きられる時代になる、という驚くべき将来予測も紹介されているほどです。

私が10年前にセミナーでお話するとき、基本的には「90歳は十分ありえる時代です」と言っても、聞いている人は「いや、ないでしょう」という反応が多数でした。老後を短く見積もるということは、老後の備えを過小評価するというリスクを抱えるわけですが、その点では「100歳」というイメージが広がったことはとても良かったと思っています。

特に、日本は世界でもトップランナーとして超高齢社会を迎えている国です。高齢者の比率は高く、また世界的にも長寿の国ですから、本書の示唆は大きな参考となったのです。

また、「LIFE SHIFT」が示したのは、長い老後の話だけではありません。働き方や生きがいなどについても社会の変化が生まれていることもつぶさに示しています。

本連載では「ライフプラン3.0」と呼んでいる社会の大きな変化について、今回は考えてみたいと思います。

あなたは100年生きることがイメージできるか

100歳人生と聞いて、私たちは何が想像できるでしょうか。若い人ほどピンとこないというのが正直なところでしょう。20歳代でその社会人人生をスタートしたばかりの人にとって、あまりにも遠い未来です。

社会としては、20年もすると大きな変化があります。
今では誰もがスマホで動画を視聴していますが、動画配信サービスが軌道に乗ったのはたった5年前くらいです。そもそも、スマートフォンやタブレットが普及してからまだ10数年しか経っていません。

携帯電話が実用として普及したのも20年ちょっとです。それまで、外で会えない場合は駅の連絡板や案内アナウンスでしか待ち合わせができなかったものです。

さらに40~45年遡るとファミレスもコンビニもなければ、ワンルームマンションもありません。クーラーもお風呂もない部屋に学生は暮らしていたりしたのです。今からすると信じられない「不便」です。

社会は親と子の1世代の間であっても大きく変化していきます。そして間違いなくいえることは、20年後や40年後の世界は今よりももっと便利なものになっているということです。

そんな未来がやってくるまで、私たちは長生きをする可能性が高いということを考えていく必要があります。私たちは60歳まで長生きする確率はかなり高く、さらに長生きをして老後を迎える確率も高い事が考えられます。

現在の統計によれば、男性の60歳で93.1%、女性の60歳で96.1%が元気です。90歳でみても男性は26.5%と4人に1人が、女性は50.5%と2人に1人が元気な時代となっています。これがあと5~10年長寿化すれば人生100歳はもう他人事ではないわけです。

働かされる思考から早く脱出する人ほど豊かになれる

人生100歳時代においてより具体的に考えなければならないのは、「リタイア生活の期間(老後)が長期化すること」と「リタイアする年齢(引退)が遅くなること」です。

ざっくり、「20年学び、40年働き、20年の老後」が人生80歳時代だったとします。人生100歳時代においては「20年学び、50年働き、30年の老後」となってもおかしくはありません。この場合、リタイア年齢は70歳ということになります。

現在では65歳まで働ける社会となっています。そして70歳まで働ける社会に向けた法律改正も今年行われました。年金制度については75歳から年金をもらい始める選択肢も増えました(65歳から標準の年金をもらえる現状の制度は変わらない)。

来年65歳になろうとする人が70歳引退をいきなり考える必要はありませんが、あなたがもしアラフィフよりも若いのであれば、70歳まで働くことを視野に入れておいたほうがいいと思います。75歳迄と考えてもおかしいことはありません。

そうすると「いつまでも働かされるのはいやだ」という声が聞こえてきます。これこそが“SHIFT”しなければいけない発想です。

「働かされる」のではなく「働きたい仕事をする」よう自分のキャリアをデザインしていくことが若い世代ほど強く求められています。そうしなければ、「50年働く」ことを続けられないからです。

必要であれば、伸びしろのない会社に見きりをつけて働く会社を変えること、ときには仕事の内容そのものを変えることも、これからの時代はもっと当たり前のことになっていくでしょう。

おもしろいことに、働く人の多様性を尊重している会社、社員の働きがいを引き出すことができる会社ほど成長力が高いことが多くあります。未来の社会を担う会社はダイバーシティ(多様性)を尊重する風土を持っているわけです。

現役世代はぜひ、人生100歳時代の到来によって「働き方」が変わることを意識してほしいと思います。

そして老後への備えの重要性が高まる

私たちが「LIFE SHIFT」から学ぶことの最後のピースは「老後への備え」の重要性を明らかにした、ということです。

今まで、老後のことは老後になってから考える、というイメージが強くありました。現役時代は精一杯走り抜けて、退職金や公的年金の額が定まってから、さて老後をどうすごそうかと考えたものです。

しかし、そういう考え方は昭和世代の遺物といってもいいでしょう。当時は老後が10年くらいしかなかったので、退職金だけを取り崩せばなんとかなったからです。月に5万円、公的年金に不足したとしても、老後が10年なら問題になりませんでした。600万円程あればいいからです。

実は2019年に話題となった「老後に2000万円」問題も、人生100年時代になったからこそ生じた問題です。先ほどと同じことも老後が35年(65歳から100歳)と長く見積もることで、必要額が倍増してしまったわけです(35年×月5万円=2100万円)。

実はこの5万円程度は、老後の趣味や交際費用とほぼ同額になっています。つまり、自分の生きがいやゆとりのためのお金は自分で備えて、自分で楽しみ方をデザインするのが「人生100歳時代」なのです。

あなたが、長い老後を豊かで楽しくすごしたいのであれば、「退職金(企業年金)+アルファ」が必要になります。

例えば、iDeCo(個人型確定拠出年金)という制度が注目されているのは税制優遇の魅力だけではなく、それが老後の豊かさを作る仕組みであるからです。

つみたてNISAが20年という長期にわたる税制優遇期間を設定し、毎月数万円の積立投資を推奨しているのも、数年先ではなく遠い将来に向けても経済的備えに取り組むべき時代であるからです。

公的年金は破たんすることもなく、これからも私たちの老後の基礎を支え続けていきます。どんなに長生きしても終身年金をもらえるのは魅力です。しかし公的年金が支えるのはあなたの基礎的な生活費(食費や日常生活費用)であって、旅行に行ったり映画や美術展に行く費用ではありません。

「人生100歳時代」は計画的に自分の老後に備えて、現役時代から行動するべき必要性を明確にしてくれたのです。

(ところで、「75歳まで働けば、老後の取り崩し期間が10年短くなり、10年長く資産形成できるのだから、より余裕のある収支デザインになるのではないか?」と疑問に思った人はお金のセンスがある人です。「LIFE SHIFT」でもそうした示唆が含まれていますので、興味がある人はぜひ一読をお勧めします)

早く「知る」ことは悪いことではない 前向きに人生100歳を楽しもう

「人生100年時代」も「老後に2000万円」も、ネガティブなイメージがついて回ることがありますが、私は違うと思います。

むしろ将来の可能性やリスクが早期に可視化されたと考えることができるからです。

今までの高齢者は「とにかく働いて、老後を迎えたらあとで考えよう」のような発想でした。だからこそ、老後が実際にやってきたとき戸惑い後悔しました。

私たちはすでに「長い老後があること」「経済的備えが重要であること」を知ることができました。早く知ることができればそれに備えることができます。

知って、それに備えることができた人はきっと落ち着いて老後を迎えることができ、また充実した老後になるようそのお金を有効に使うことができるでしょう。

このコラムを読んだあなたは「知る」ステージにあります。行動して「備える」ことができるでしょうか。豊かな未来は、あなた自身が動くかどうか、にかかっているのかもしれません。