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私たちを待っている新しい社会と「みらいのお金」

松田 学のみらいのお金と経済 松田 学

私たちを待っている新しい社会と「みらいのお金」

「みらいのお金と経済」と題した本連載では、第4回から前回第9回まで6回にわたり「経済」のほうに重点を置いて、国の財政を中心にお話をしてきました。ここで取り上げてきた「松田プラン」は、ブロックチェーン技術を活用して政府が発行する「デジタル円」を提案するプランという意味で、「みらいのお金」につながるお話です。

ただ、このプラン、実現すれば「お金がこんなに便利になった!」と、すぐにメリットを実感していただけるのですが、未知のものであるがゆえに、経済の専門家の方々でも、私がよほど丁寧に説明をしないと簡単には頭に入らないようです。ただ、未来を見ている情報技術のプロたちは、すぐにピンときてくれます。

本連載を読んでくれている方々には、まだ誰にもしたことのない丁寧な説明をしておりますが、経済畑の方々がなぜ、理解できないのか、その最大の理由は、彼らがブロックチェーン革命がもたらす「トークンエコノミー」について、まだ十分な知識を持っていないことにあるようです。今回は、このお話をいたします。

今回、もう一度お話しするブロックチェーンとは

これまでの「インターネット革命」に続く次の「ブロックチェーン革命」が、人類社会を大きく変えていくことは、本連載の第2回で触れました。ただ、そこでは、ブロックチェーン技術の一つの側面、つまり、「電子データを改ざん不可能にする技術」という面からしか、この技術の特性を説明していませんでした。

それは、誰もが参加でき、中央に管理者がおらず、参加者がお互いにチェックし合うことで信頼が成り立つプラットフォームとしての「パブリックチェーン」の説明でした。これが、人類社会を発展させてきた中央集権型の仕組みを、分散型の仕組みに変えることで、21世紀型の社会への変革をもたらすことになります。しかし、その本当の意味は、まだ十分にお話ししていません。というのは、これまでの説明は仮想通貨の基盤としてのブロックチェーンの説明にとどまっていたからです。

仮想通貨との関係でいえば、ブロックチェーンのもう一つの使い方として「プライベートチェーン」というものがあり、それは分散型とは逆の、中央集権型の使い方であることは、本連載の第3回で説明しました。そこでは、プライベートチェーンとしてのブロックチェーンの使い方で発行が検討されている「リブラ」や「デジタル人民元」という新しいお金のことに触れました。

実は、ブロックチェーンがこれから社会を大きく変えていくことになるというのは、こうした仮想通貨(暗号通貨、暗号資産)の基盤というよりも、もっと大きな意味があります。それは、ブロックチェーンには、お金とは別の、より広く、より本質的な特性があるからです。そして、これが「トークンエコノミー」を生み出し、その不可欠な一部として位置づけられることになる「トークン」にこそ、「未来のお金」の大切な意味があるのです。

ですから、「未来のお金」の話をするためには、今回お話しするブロックチェーンの本質的な意味やメリットを理解していただく必要があります。

ただ、これは現段階ではまだ、始まったばかりの黎明期にある技術です。これから発展していく技術として、日本でも、社会実装のチャレンジがこれから始まります。その行き着く先は…、私は「ブロックチェーン革命が世界を変える」と提唱しています。しかも、日本がそのお手本となって、新しい人類社会が生まれると考えています。

新しい社会とユーティリティトークン

21世紀に入って20年、この間、人類社会に大変動をもたらす大きな出来事が相次いで起こりました。21世紀最初の年の01年には9・11「同時多発テロ」、08年にはリーマンショック、11年には日本で起こった3・11「東日本大震災」、そして今年は「コロナショック」。

これらはいずれも、21世紀が人類全体にとって大きな文明の転換期となることを予感させるものです。では、次なる人類社会を支えることになるのはどのような技術なのか。情報技術面ではビッグデータを駆使したAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)なども挙げられていますが、私は日本が世界をリードできるポジションをとれるのがブロックチェーンだと考えています。

リーマンショックのあと、グローバルな資本主義の行き詰まりが強く世界の人々に意識されるようになりました。格差の拡大、中間層の崩壊、さらには健全な民主主義の崩壊も、金融主導の強欲資本主義が原因だ…。私は資本主義そのものを否定するつもりはありませんが、世界の人々が、これに代わる新しい社会のパラダイムを求めるようになるなかで、それを実現することになるのが「ブロックチェーン革命」です。

これで新たに生まれる社会を、私は、資本主義社会と共存するかたちで形成される「協働型コモンズ」社会と呼んでいます。この社会を支えるのが、仮想通貨のなかでも「ユーティリティトークン」と呼ばれるものです。これは、特定の価値をバックに、その価値とつながるかたちで発行され、その価値を価値として認める人々の間で流通して、その価値を経済的に支える「みらいのお金」です。自分で自分が大事だと思う価値は何かを考え、一人一人が選択する、それで成り立っていく世の中が、お金の面から生まれそうなのです。

仮想通貨には大きく言って、3つの種類があります。一つは、①誰もが支払いに使うことを想定した「ペイメントトークン」。ビットコインのような、いま「仮想通貨」と言われているものがこれです。これから出てくるかもしれないリブラとか、中国のデジタル人民元のようなデジタル法定通貨も、この分類に入りますが、発行方法は、前述のように、ビットコインなど現在の仮想通貨のような分散型ではなく、中央集権型になるでしょう。

もう一つは、②それぞれが何らかの価値とか信用をバックに発行され、特定のサービスと結びついている「ユーティリティトークン」。誰もが支払いに使うよう設計されているわけではなく、バックとする価値を積極的に評価する人々や、つながっているサービスを受けたい人々の間で流通します。

さらにもう一つ、③それ自体が利子や配当などを生む金融商品としてつくられる「セキュリティトークン」があります。新しい資金調達の方法として注目されています。

②の「ユーティリティトークン」とは、③の「セキュリティトークン」と対をなす考え方で、あるサービスにアクセスするためのトークンとして使える場合がこれに該当します。

本連載でこれまで取り上げてきた新しいお金の話は、上記の3つのうち①のペイメントトークンでした。「みらいのお金」である②のユーティリティトークンのお話に入る前に、ブロックチェーンの本当の社会的メリットとは何なのかをみておきたいと思います。

ブロックチェーン革命で若者たちに日本の希望を

この「みらいのお金」のことを語るときに気になるのが、いまの日本の若い世代の多くが、未来に対して悲観的になっていることです。若者たちの最大の関心は老後のことだとも聞きます。私が20代のころには、自分の老後の心配など考えたこともありませんでした。

日本は未来に希望が持てない国…?経済面から考えれば、そうなったのも無理はありません。平成の30年間、日本は世界の主要国のなかで最も経済成長をしなかった国でした。

ここで世界経済の潮流を振り返りますと、東西冷戦が終結した1989年から始まった平成時代の30年は、世界的に、①グローバリゼーション、②インターネット革命、③金融主導の3つの潮流に特徴づけられる30年でした。90年代にはアメリカが世界の資金循環センターとして君臨し、21世紀に入ると、今度はオープンでグローバルな枠組みのもとで中国が著しく台頭しました。08年のリーマンショックで、アメリカが先導した③の金融主導は転換期を迎えます。

いずれにしても、日本がこれら3つの世界の潮流に乗れなかったことが、30年間の日本経済停滞の大きな原因だと総括できます。では、現在の、そしてこれからの世界の潮流は何なのか。日本はそれをうまく活用して自国の勝ちポジションを獲得できるのか。

現時点で、平成の30年の世界を支配した①、②、③のそれぞれについてみると、①のグローバリゼーションは世界を米国と中国が分断してそれぞれをブロック化する動きへ、②のインターネット革命はブロックチェーン革命へ、③の金融主導は電子データ主導へと、逆転あるいは転換する中で、日本は令和時代を迎えることとなりました。

かつて、世界の戦略分野は、石油や食料、あるいは金融でした。それがいまや、経済の最大の付加価値の源泉は電子データとなっています。これを支配するのが米国勢のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と中国BAT(バイデュ、アリババ、テンセント)といったプラットフォーマーたち。前者が自由経済と個人情報保護、後者が国家主導でのデータ管理というパラダイムの根本的な違いから、世界には、主権国家vsプラットフォーマーvs中国勢という三つ巴の対立構造が生じています。

GAFAにネットフリックスを加えてFAANG(ファーング)とも言われますが、彼らの売上高だけで日本のGDPの3分の2を超えます。まさに、電子データを制する者が世界を制する世の中で、プラットフォーマーが存在せず、米国や中国などに比べても電子データ化(デジタルトランスフォーメーション:DX)に大きな後れをとっているのが日本。何をするにしても寺銭を取られるのみの存在になりかねません。

でも、希望があります。その日本が国際社会のなかで経済面で一定のポジションを得る道を考えるとすれば、それは、未だ黎明期にあるがゆえにチャンスと捉えるべきブロックチェーン技術です。

これを社会の各分野の課題解決に実装することに先手を打つことで、医療や介護、物流、金融、地方自治、登記や公的な制度…等々、それぞれの分野の特性に合った技術やシステムのイノベーションを起こし、そこから世界の課題解決プラットフォームを次々と構築する。それによって各分野での世界標準を日本が生み出していく。日本新秩序が世界新秩序に…。これが日本の採るべき道だと考えます。

この点では、「課題先進国」といわれて久しい日本には、質の高い産業や情報の蓄積がありますし、工学力や現場力も十分です。個々の日本人が広く具有する創意工夫の力といった強みもあります。ブロックチェーンの論理を応用することで、新たな社会モデルで世界の範となる日本らしい「自立」と「合意」と「和」の仕組みを創出する国になることが十分に考えられるのです。ブロックチェーン革命で日本はプラットフォームをとれる!

ブロックチェーン革命で世の中が変わる

ブロックチェーンはビットコインの実装のために開発された技術という経緯があり、もともとは「インターネット上に構築された価値交換のための基盤技術」だと位置づけることができます。しかしながら、ブロックチェーンから独立して新たな技術が開発されており、ビットコイン以外のアルトコイン(ビットコイン以外の仮想通貨の総称)も数多く存在します。

その代表例といわれるイーサリアムでは、通貨価値以外の任意の手続きを実現する「スマートコントラクト」が、すでに実装されています。スマートコントラクトにより、ブロックチェーンは価値交換だけの基盤技術ではなくなりました。

ここでブロックチェーンの社会実装で何が起こるかを解説してみます。すでに本連載第6回でもお話ししましたが、トークンエコノミーを理解していただく上で大事なことなので、ここでもう一度、繰り返したいと思います。

そもそもブロックチェーン技術とは、①電子データを改ざんできないよう管理する技術であるだけでなく、②スマートコントラクトを内装することで各種の手続きや契約などさまざまな用途に電子データを活用できる技術であり、③ユーザーがトークンでアクセスしてこの仕組みを利用するものである…これらの「三位一体」でこそ、従来はほとんど不可能だった便利さや効率など各種のメリットを実現することになるものです。

このなかで②のスマートコントラクトに、ブロックチェーン技術のイノベーションの中核があります。③のトークンは、広くユーザーが保有します。ブロックチェーンで管理された電子データと結びつくことで、これをお金のようにも使えますし、いろいろな手続きや契約なども、このトークンによるお金の支払いと同時一体でできることになります。

社会のさまざまなデータは、たとえば医療なら医療、年金なら年金、不動産登記なら不動産登記…といった具合に、それぞれのシステムごとに、それぞれの論理に従って管理されてきました。制度やシステムや仕組みが主役、データはそれに従属するものです。

ブロックチェーンは、ユーザーのニーズに応じて、その論理と電子データが結びつくことで、システムを超えて(システム透過的に)各システムを動かします。そこでの主役は各システムではなく、電子データであり、それをトークンを用いて利用するユーザーです。

「松田プラン」では、政府暗号通貨「デジタル円」が、ここで言うトークンです。政府に関係する公的な制度や仕組みをブロックチェーン管理に移行すると、このデジタル円で、納税や各種の公共料金、手数料などの納付が、それに必要な手続きと一体で行われることになります。あるいは、社会保障関係を始め政府が提供するさまざまな公共サービスが、デジタル円を通じて国民と結びつくことになります。

大事なことは、その際に、特定の目的のために必要な各種の手続きや、それに伴って提供される各種の公共サービスが、デジタル円の使用で一発で実現することです。

ユーザーの論理に従って各種システムが動くことで便利な世の中が実現することについては、本連載第6回では「引っ越し」の例を挙げて説明しました。引っ越しに伴って必要な各種の手続きが、それぞれの役所や機関などでブロックチェーンで管理されている電子データと共通のプラットフォームで結びついていれば、デジタル円が引っ越しという論理でこれらを一挙に動かすことになるでしょう。

デジタル円は法定通貨としてのペイメントトークンですが、政府だけでなく、自治体や民間の各種団体、企業、あるいは個人が発行するユーティリティトークンでも、ブロックチェーンは同じようなことを可能にするはずです。それは、それぞれのサービスと結びついたユーティリティトークンが、ブロックチェーンの共通のプラットフォームで発行されることによって実現します。

いずれにしても、ブロックチェーンが提供するさまざまなサービスなどのユーザー側は、トークン(暗号通貨)でブロックチェーンを利用することになります。これによって、一連の手続きと価値移転がワンストップで行われ、その信頼性の管理も不要化します。

つまり、ブロックチェーンとは、これを社会の仕組みに実装することで、①情報管理や情報の安全性と信頼性、②ユーザー(国民など)の利便性、③効率性(コストの大幅削減)などの面で、従来、実現が現実的に不可能(もしくは高い難易度)だったことを実現する技術なのです。

今後、経済活動でも政府や行政との関係でも「トークンエコノミー」が進展していくと思います。ビットコインに代表される「仮想通貨」は、価値移転などの分野でブロックチェーンの国家にも勝る威力を示唆しました。これが「手続き」と結びつき、より高度なセキュリティ技術が実装されるなどのイノベーションとも相まって、いずれ新世代の暗号通貨が誕生することになるでしょう。それが高度なセキュリティや利便性などを十分に実現することになれば、これからの社会システムにパラダイムシフトをもたらすことになると予想されます。

自治体発行地域通貨と地域ユーティリティトークン

ブロックチェーンを社会の各分野に実装することで、例えば、現在進められている「働き方改革」などもスマートコントラクトがサポートすることになるなど、日本が抱える各種の課題解決に大きく資すると期待されます。特に、行政関係分野にブロックチェーンを実装することが大きなメリットを発揮する分野を挙げれば、思い付くだけでも次のようなものがあります。

…働き方改革をスマートコントラクトがサポートする、日本に受け入れる外国人を完全管理する、医療・介護・福祉をシームレスな仕組みに変革して社会保障の効率化と効果の向上や国民負担の削減を図る、港湾を始め物流全体を効率化する、不動産や法人等の登記の信頼性と利便性を抜本的に向上させる(所有者不明の土地の管理や有効利用を促進、登記の完全管理を通じて国家安全保障の土台に)、地方創生(ブロックチェーン都市宣言をする自治体が増えています)…等々…

ここで、地方自治でのブロックチェーンの可能性について考えてみたいと思います。自治体の行政側がさまざまなデータをブロックチェーン管理し、これとスマートコントラクトで結びつくトークンを発行すれば、このトークンが、自治体発行の便利なユーティリティトークンとしての「地域通貨」になります。

それは住民にとっての利便性の増大とともに、行政の効率化ももたらすでしょう。行政サービスの申請者や申請内容の真正性のチェックを始めとする細かい手続きや、書類の整理・管理に明け暮れていた地方公務員たちはルーティン業務から解放され、人間にしかできない付加価値の高い仕事に特化できるようになるものと期待されます。

地方自治体で考えられるブロックチェーンの活用例を考えれば、すぐに思い付くものだけでも次が挙げられます。

通常業務として、①文書管理(公文書管理、不動産登記、医療・介護データ管理など)、②出生や生存証明、身分証明、マイナンバーなどの個人情報管理、③税金支払い、④電子投票など…。
地域活性化策として、⑤道の駅、名所旧跡、観光スポット、お食事処、宿泊施設などの施設、⑥特産品などの認証制度や流通販売、⑦ふるさと納税(寄付)、⑧その他の各種サービスやイベントなどでの使用…。

これらは、自治体がユーティリティトークンを発行し、住民がこれを利用することで、納税やさまざまな手数料などの支払いを行政手続きと一体化してワンストップ化したり、あるいは地域の施設やイベントなどに活用する場合を想定したものです。

何もこうしたトークンエコノミーは「地域通貨」に限られるものではありません。「松田プラン」は、これを国全体で実現するものともいえます。どこかの自治体で地方での取り組みが先行すれば、「松田プラン」も、一般の方々にとって、もっとイメージしやすい提案になるかもしれません。

資本主義社会の外側にもう一つ、協働型コモンズ社会

ブロックチェーンのメリットについてご理解いただければ、次は「みらいのお金」の話です。ユーティリティトークンを、もし、小さな団体や個人でも発行できる世の中になれば、その社会は、市場での競争で利潤をあげることだけが価値ではなく、人々のそれぞれの生き甲斐をみんながサポートする社会になるでしょう。

それは、自分の利益のことだけでなく、他の人々のためを考える利他の精神が、自分のお金になって返ってくる社会です。市場では価値として成り立たなかったような営みでも、ここでは経済的な裏付けが与えられ、多様な価値が社会に花開くことになるはずです。

それは、特定の権力機構に従属することなく、価値観を共有する人々とともに、自分らしい人生を謳歌しながら生きていける社会でもあり、正直者や頑張る者が評価され、報われる社会でもあります。情報技術の急速な進展は、人々が想像できないほど、人類社会の姿を変えていくと考えられます。

人類社会は大きく2つのシステムに分かれ、両方が並立する社会になるでしょう。
一つは資本主義経済の社会。もう一つが、この「協働型コモンズ」の社会。それぞれ異なる論理で営まれる社会です。資本主義社会の論理は競争です。しかし、人間には競争だけでなく、もう一つの生き方があります。みんなで助け合って協調する生き方です。

それが協働です。コラボレーションとか「コラボ」などとも言われます。協働型コモンズは、その名前のとおり、協働が大事な社会です。資本主義は利潤が重要ですが、協働型は人間的な、あるいは社会的な価値が重要になります。利潤とか金儲けとかを超えたさまざまな価値が花開く社会です。

現在の資本主義社会では、お金は利潤のあるところに生まれます。それは資本主義経済の仕組みがそうなっているからです。多くの方々がお金は日銀(中央銀行)が供給していると考えていると思いますが、それは正しくありません。最近の日本の異次元の金融緩和政策もそうですが、日銀は日銀当座預金という帳簿上のお金を増やすことはできても、それは私たちが手にできるお金(市中マネー)ではありません。

この点については、本連載第4回でも解説したとおりです。いまの法定通貨というお金を生み出しているのは、市中の銀行です。まさに銀行だけができる「信用創造」によってお金が生まれます。

銀行は利子をつけてお金を返すことができる先に対してお金を貸し付けることが基本的な業務です。それは、銀行の貸付先がその銀行に持っている預金口座に電子的にお金を記帳するかたちで行われているものです。それによって預金通貨というかたちでお金が生まれます。日銀が供給したお金を原資として貸し付けに回しているのではありません。

このとき、銀行がお金を貸す相手は、金利をつけて返してくれる相手だけです。金利をつけて返済できるためには、貸付先が借りたお金で金儲けをしなければなりません。儲けるところにしかお金は生まれないのです。これが資本主義社会のお金です。そうして生まれたお金から税金など、利潤を生まない用途へとお金が回っていくことで社会が成り立っています。基本は、儲け無きところにお金無し、まさに資本主義の論理です。

しかし、社会には利潤の論理とは異質の様々な価値があります。例えば、助け合いだとか、社会貢献だとか、芸術だとか、いろいろなクリエイティブな活動等々です。市場ではペイしないけれど、わかってくれている人たちがサポートしてくれるような価値です。

人々の生き甲斐を支え合う社会がこうして生まれる

そのような価値は、これまで、埋もれてしまっていたものが多かったと思います。なぜなら、資本主義の利潤原理、お金儲けの論理の世界では、それが経済的な価値として評価されず、その価値を生み出す活動自体に経済的な裏付けが与えられなかったものが極めて多いからです。ユーティリティトークンであれば、それが認められ、発展させられるようになります。

ある人が自分が生み出す価値を表現し、それに賛同する人がお金を出す。どんな価値でもかまいません。その価値を評価し、支援しようとする人がいればOKです。その方々が「いいね」をすることでお金が生まれる。これが「みらいのお金」です。

この社会は、一人一人の価値が認められる社会です。インターネットを通じて広い社会とつながれば、その価値を認める人も多く現れてきます。思わぬ国の人が、あなたの活動の価値を認めるかもしれません。

ここからが、「みらいのお金」の具体的なお話になります。ぜひ、私が昨年春に上梓した「いま知っておきたい『みらいのお金』の話」(アスコム)をお読みください。