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2022年のiDeCo改正点、受給開始年齢の上限引き上げも。対象は誰?いつから変わる?

ふやす 権藤 知弘

2022年のiDeCo改正点、受給開始年齢の上限引き上げも。対象は誰?いつから変わる?

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皆さんはiDeCoを活用していますか?2001年に始まったこのiDeCoが、20年ぶりに改正されることになりました。いつからどんな点が改正されるのか、iDeCoが始まった背景も改めて確認しながら改正ポイントについてお伝えしていきます。現在、勤め先で企業型確定拠出年金に入っている会社員の方も、iDeCoを併用できるチャンスががありますので必見です。

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【1】改めて「iDeCo」とは、どんな制度なのでしょう?

そもそもiDeCoとはどんな制度なのでしょうか?
少し難しい表現となりますが正式な名称は「個人型確定拠出年金」といいます。英語で表すとindividual-type Defined Contribution pension planと書き、この英語を略してiDeCo(イデコ)と呼んでいます。

iDeCoは確定拠出年金法という法律に基づいて実施されている私的年金制度で、加入は任意です。つまり公的な年金制度である国民年金や厚生年金と異なり、あくまでも対象者が自分の判断で加入するかどうかの選択を行う必要があります。

iDeCoを活用したい場合は、自分で申し込み、掛金の拠出(積み立て)を行い、自分で運用方法を選んで掛金を運用するというように、あくまでも個人ベースで進めることとなり、運用の結果も加入者本人の責任となります。その上で60歳以降に、積み立てた掛金とその運用益との合計額を給付金として受け取ることができます。

またiDeCoの大きな特徴として、「積み立て時」、「運用して得られた利益」、「給付を受け取る場合」と各段階で税制上の優遇措置が講じられています。(詳しくは後述します)このことからiDeCoは老後の暮らしを支えるための有効な手段と考えられます。

さて2001年にスタートしたiDeCoですが、2017年に加入要件が大幅に緩和され、それまで制度の対象外だった公務員や専業主婦(夫)も対象者になりました。この制度改正を境として加入者数が増え続けています。

 
iDeCo公式サイト:
https://www.iDeCo-koushiki.jp/library/pdf/number_of_members_R0207.pdf

この表を見ると全国で165万人以上の方が活用していることになりますが、日本の成人の数を考えるとまだまだ有効に活用できている人は少ないように思われます。

【2】iDeCoのメリットは

iDeCoを活用するとさまざまなメリットがあります。

1. 掛金が全額所得控除になる

会社員を例にします。会社員が支払う代表的な税金として所得税と住民税があります。日本の所得税は「所得が多ければ支払う所得税も多くなる」という累進課税制度を採用しています。反対の見方をすれば「所得が少なければ税金は少なくなる」ということになります。

 
国税庁:
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2013/taxanswer/shotoku/2260.htm

このことから、
・拠出した(積み立てた)金額を所得控除する

・所得税の算定基準になる所得金額が下がる

・所得税が安くなる

ということになるわけです。

また住民税は前年の1月1日から12月31日の所得金額に応じて一律10%の税率で課税されます。iDeCoを使うことは所得金額を下げる効果があり、所得税と同じように住民税も節税する効果があるということになります。

仮にですが毎月の掛金が1万円の場合、所得税(10%)・住民税(10%)の会社員がiDeCoを活用とすると年間2.4万円の税金が軽減されます。しかもこの削減効果は、積み立てを行っている期間中はずっと継続されます。これはうれしいですね。

2. 運用中の利益も非課税で再投資されるので効率的

ここで運用という言葉が出てきましたが、そもそも運用とはどんなことなのでしょうか?今回はiDeCoというお金の制度の話ですので、もう少し対象を狭めて運用=資産運用という前提で進めて行きます。

さて、資産運用は、貯めることや確実性を重視した「貯蓄」と、増やすことを重視した「投資」の大きく2つに分けられます。

(1)貯蓄
●増やすことより貯めることを重視する
●元本保証など確実性が重要

イメージとしては銀行の普通預金や定期預金などの商品が挙げられます。

(2)投資
●貯めることよりも増やすことを重視します
●短期ではなく長期で行うのが理想的
●投資先は一つではなく分散して行うことが基本
●結果に関しては予測できない。場合によっては元本割れ、資産価値がゼロになる

イメージとしては株式や投資信託などの金融商品が挙げられます。

資産運用に対するおおよそのイメージは伝わったでしょうか?

そこで「運用益に課税されない」ということが、どれぐらいのメリットがあるのかについて考えてみましょう。

日本の税制では、金融商品で得られた利益に対して20.315%の税率で課税されます。
例えば10万円で購入した投資信託を11万円で売却すると1万円のもうけになります。ただし受け取る時に20.315%の税金が取られます。そのため手元に入ってくるのは7968円になります。これはかなり大きな負担ですね。

iDeCoは定期預金や保険など元本が保証されている商品と、増やすことを目的とした投資信託という金融商品で運用を行います。iDeCoではこの投資信託という商品を使って運用中に得た利益(分配金・商品を入れ替えた際の価格差益)に関して課税がされません。その利益を全額、再度投資することにより複利の効果を狙います。利子が利子を呼ぶという雪だるま方式です。このことにより積み立ての効果が最大限に発揮されて効率的に資産を増やすことができる可能性が高まります。

3. 受け取る時に大きな控除がある

iDeCoは年金もしくは一時金のどちらかで受け取り方法を選択することができます。年金として受け取る場合は公的年金等控除、一時金の場合は退職所得控除の対象となり、同じ金額を普通に受け取るよりも税制上は有利になっています。

特にメリットとして大きいのは退職所得控除で受け取る方法です。税制上、退職所得控除は控除される金額が非常に大きいため税金を少なくする効果が抜群です。金融機関によっては一部を一時金で受け取り、残りを年金で受け取ることも可能です。

いかがでしょうか?いろいろメリットがありますね。

【3】なぜ「iDeCo」という制度が必要なの?

老後資金
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税は国家なりという言葉もありますが、税金は国にとって最も大事な事柄です。税金を元に国家を運営することを考えれば、税収は1円でも多い方が良いことになります。しかしながら、そんな大事な税金を少なくしてでもiDeCoの導入を進めている理由は単純です。

日本を含めいわゆる先進国においては少子高齢化が進んでいます。高齢になると働けなくなるので年金を給付するという国が多いのですが、この少子高齢化がポイントです。

日本の年金制度は60歳までの現役世代がお金を出し合い、年金という形で高齢者の生活を支える仕組みになっています。少子高齢化の進行により現役世代が減少し高齢者が増える社会構造になっており、このままでは現役世代も年金世代も共倒れになる可能性が高まります。つまり少子高齢化が進む中で年金財政が悪化することが目に見えているのです。

そのため公助である公的年金だけではなく、税金を安くしてでも自助である私的年金制度であるiDeCoを活用し、少しでも老後資金をふやしてほしいという理由があったわけです。簡単に言うと「税金を安くするので自分で準備をしてください、国が全部面倒を見ることはできません」ということです。いろいろと考えさせられますね。

【4】2022年 iDeCo制度の変更点

さて、少しずつ普及してきたiDeCoですが2022年に制度が改正されることが決まっています。

(1)受給開始年齢の上限を現行の70歳から75歳に引き上げ(2022年4月から)

現行の制度では一番遅く受給をスタートさせことができる年齢が70歳でしたが、この年齢が75歳に引き上げられます。これは60歳以降の働き方が徐々に変わっており、今までより高齢まで働く人が増え、年金受給を遅らせる人が増えていることも関係しています。

またiDeCoは受け取り開始するまで運用することができます。このことから75歳まで運用期間を延ばし、より長く非課税運用することができるメリットがあります。ただし運用するということは値下がりのリスクもあります。

(2)加入年齢の上限を現行の60歳未満から65歳未満に引き上げ(2022年5月から)

現在の制度では加入者の年齢は20歳~60歳未満の方が対象となっています。この上限の年齢を60歳から65歳に上げることにより、これまで以上の人が制度を活用できるようになります。

(3)企業型 DC ・企業型DBの加入者がiDeCoに加入できるようにする見直し予定

ここで企業型DCという言葉が出てきました。これは企業型確定拠出年金という制度で、iDeCoが個人型であるのに対して、企業型DCは企業が退職金の制度の一つとして企業が資金を拠出、従業員が運用先を指定し積み立てているものです。

この企業型DCを導入している企業で勤務している人は規約によってiDeCoを利用することができないことがあります。また企業型DBは企業が運用の責任を負い、一定の給付額を従業員に給付する仕組みです。

この企業型DBを導入している企業に所属する社員の掛金は最大月1万2000円です。今回の改正ではすべての会社員が既存の制度に加えiDeCoに加入できるようになること、またその際の積み立て上限を2万円に引き上げることでよりお金を増やしやすくなる仕組みを導入することになります。

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【5】結局、つみたてNISAとiDeCoはどっちがメリット多い?

iDeCoと同じように名前をよく聞く金融商品につみたてNISAがあります。

図で比較してみます。

(表:筆者作成)

どちらも税の優遇や長期運用など似た部分はあるのですが、いくつか決定的な違いがあります。その違いをどれぐらい重視するかによってどちらを活用するか決めることが重要です。

(1)つみたてNISAをおすすめしたいのはこんな人

つみたてNISAは最長20年間の非課税運用ができます。金融機関にもよりますが、インターネット専業の証券会社などでは最低100円から積み立てをスタートさせることができます。

iDeCoと違う点として大きいのが、「いつでも現金化が可能」というところ。そのためライフスタイルの変化が大きい若い世代の方や資産の流動性を重視する方はつみたてNISAを活用する方が良いでしょう。

(2)iDeCoをおすすめしたい人はこんな人

iDeCoの最大の特徴は最低でも60歳まで現金化ができないことです。iDeCoのスタートが50歳を超えていると受け取りは60歳を超えないとできません。つまり資金の拘束性が非常に強いことになります。

言い方を変えると「60歳まで取り崩しができない=必ず老後の資金を確保できる」ということです。少し不自由そうに見えますが「少し貯金ができるとついつい使ってしまう」というような方にとっては、強制的にお金を老後へ回すことができるのでメリットと言えるでしょう。

また、iDeCoは掛金が全額所得控除され、所得税や住民税の節税になるメリットがあるため、iDeCo以外の方法で貯金や運用を行っているという方・節税することに興味がある方は、iDeCoの活用をおすすめします。

つまりどちらの制度も特徴があり、その特徴は人によってメリットにもデメリットにもなります。すべてはケース・バイ・ケースと言えるでしょう。そのため、制度の一部だけを見てどちらがトクという観点で見ると選択を誤ります。自分のライフプランにとって大事なポイントは何なのか?という観点から選びましょう。ちなみにiDeCoとつみたてNISAの併用は可能ですから余裕があればどちらも行うことが理想的です。

【6】良いことづくしのiDeCoにもデメリットはあるのか?

幸せそうなシニア夫婦
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節税効果もあり長期的な投資に向いているiDeCoですがデメリットはあるのでしょうか?この点に関しては上述したように、制度の特徴をメリットと見るかデメリットと見るかによって異なります。

例えば「60歳まで引き出しができない」という点で比較をしてみると、メリットとして考えれば確実に老後資金を確保できるということと言えるでしょう。デメリットとして見てみれば60歳までの期間、資金を拘束されるので流動性がなく資金が必要(結婚・子育て・住居の購入など)なタイミングでも活用できないということになります。

iDeCoだけで考えても制度の特徴があり、その特徴は使う人の目的によってメリットにもデメリットにもなります。「なんだかよく分からないけど良いらしい」というスタンスで飛びつくと自分にとってはデメリットしかなかったということも十分に考えられます。

iDeCoを活用して運用しようという人は、最低でも60歳までは引き出しができないことが自分のライフプランにどのような影響を及ぼすのかを考えながら導入を検討してください。もちろん、いずれにしても老後資金を準備する必要はあるのでスタートは遅くても構わないので節税メリットがあるiDeCoの活用はおすすめです。

【7】まとめ

iDeCoは老後資金を準備するには良い制度です。2022年にはさらにお金を増やしやすくするために制度が改正されます。

●    受給開始年齢の上限が現行の70歳から75歳に引き上げられることで、より長期運用ができる

●    加入年齢の上限が現行の60歳未満から65歳未満に引き上げられることでスタートが遅くなっても制度が活用できる

●    企業型の確定給付型年金や確定拠出年金に加入している会社員の積み立て上限額が上がるので、より多くの資金を積み立てすることができる

●    ただしiDeCoは60歳まで引き出し不可。資金のすべてを投入するようなことはせず、あくまでも資金の一部であることが重要

●    ライフスタイルが変化しやすい若年層は、無理してiDeCoではなく、つみたてNISAや銀行の貯金を優先して

●    iDeCo、つみたてNISA、ともに選択する商品やマーケットの状況によって資産価値が下がり、元本割れをする場合もあるため、投資は自己責任で

iDeCoに関するQ&A

Q iDeCoは確定申告をする必要がありますか?

A iDeCoは年末調整を行うことにより確定申告は不要です。毎年秋に生命保険控除と同じようにハガキが送られてきますので、そちらを用いて年末調整してください。

Q 学資保険は増えますか?

A 結論から考えるとあまり期待はできません。銀行へ貯金するよりも少し良いぐらいです。そのため、ジュニアNISAを活用し運用をしているご家庭も増えています。