「1時間単位で休暇が取れる」介護離職を防ぐための新しい制度とは
日本では、2022年から団塊の世代が75歳を超えて後期高齢者となり、2025年には国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となる予測となっており、医療や介護などの社会保障制度などがひっ迫する「2025年問題」を抱えています(※1)。
高齢者が増える一方で、少子化により人口は減少しているため慢性的な「福祉・介護従事者の不足」が起き、介護離職者は2006年から10年間で約2倍の9万人に増え(※2)、2019年には1年間で約10万人が介護等を理由に離職(※3)しています。
この現役世代の「介護離職」が増えることを大きな社会問題として、国は、仕事と介護を両立するための制度を確立するため現行の制度を2021年1月に改正しました。今回は、新しい介護の制度についてFPが解説します。
※1 厚労省/日本の人口等関係資料
※2 株式会社大和総研「介護離職の現状と課題」
※3 生命保険文化センター
人口は今後どのくらい減るのか
総務省の推計を基に、人口の推移と2020年(現状)を100とした際の比率を以下にまとめました。
日本では、2040年から2050年にかけて人口は1億人の大台を下回ることが見込まれています。そして約40年後の2060年には現在よりも3割も人口が少なくなるのです。
「高齢化社会に備えて」と言うけれど…
WHO(世界保健機関)では65歳以上を高齢者としており、人口全体に占める高齢者の割合によって、高齢化に対する表現が定義されています。
高齢者の割合が7%高くなるごとに呼び方が変わることを踏まえると、65歳以上が28%超を占めるようになると、超高齢化社会を超えた「超・超高齢化社会」に突入といえるでしょう。
総務省の国勢調査によると日本は2010年に高齢化率が22.8%となっており、既に「超高齢化社会」に達しています。5年後の2015年の国勢調査では26.6%となり、2020年時点では28%を上回り、「超・超高齢化」に突入していると推定されています。
「これからの高齢化社会に備えて」という言葉を耳にする機会が多いですが、「これから」ではなく、私たちはもう既に超高齢化社会を超えた「超・超高齢化社会」に直面しているのです。その意識を持ち、大切な人や家族の将来を見据え対策を行っていかなければなりません。その1つとして知っておきたいのが今回の制度です。
介護離職を防ぐための新しい「介護休暇」とは
「介護休暇」は家族が所定の要介護状態の場合、介護のための休暇を取ることができる制度です。家族の中には両親や配偶者(事実婚を含む)はもちろん、配偶者の両親も含まれます。対象家族が1人の場合は5日間、2人以上の場合は10日間の休暇が取れます。通常の有給休暇とは別に取得できるというのが大きな特徴です。そして、この制度が令和3年より改正され、より使いやすくなりました。
<改正前>
・1日の所定労働時間が4時間以下の場合、利用できない
・半日または1日単位で取得
<改正後>
・全労働者が対象
・1時間単位で取得可能
現在は働き方が多様化しており、短時間労働者も多くいます。むしろ、介護などの事情もあって短時間労働という働き方を選んでいる人もいるでしょう。そこで、今回の改正では対象が全ての労働者となり、短時間労働者も介護休暇が取得できるようになりました。
また、休暇というと日本人の取得率が低いことは有名です。「1日休んでしまうと同じ部署の人に迷惑がかかる」、「こんな忙しい時に休暇を取りたいなんて言えない」と考える人は少なくありません。
そこで今回の改正は1時間単位で休暇が取得できるようになりました。例えば、
「要介護状態で同居している義父の面倒を見ている妻が今日は忙しい。義父がデイサービスを利用するまで朝の1~2時間だけ休暇を取りたい」。
改正によりこのようなことが可能となります。半日や1日休むわけではないため仕事への影響も限定的で、より休暇が取りやすくなります。
また、会社の規定にもよりますが、1日の労働時間が8時間であれば2時間の休暇4回で1日分となります。よって、短時間休暇を頻繁に取得できるため、介護の方法によってより一層柔軟な対応が可能となります。
この休暇は育児にも使えるの?
ここまで紹介した制度の正式名称(法律名)は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。名称からも分かりますように、介護のみならず育児休業にも使うことができます。育児も同様に今回の改正で全ての労働者が対象となり、時間単位での取得が可能となります。
会社側も新しい制度に向けて準備が必要
短時間の介護休暇を取得した場合、累積時間何時間で1日分とみなすか?など運用面で就業規則の見直しなどが必要となります。また介護休暇を取得する人に対して悪質な嫌がらせなど、ハラスメント行為があってはなりません。これは企業側の義務です。規則を整えるだけでなく、従業員に徹底することが会社の大切な準備といえるでしょう。
まとめ
先に7%刻みで高齢者の割合に応じて呼び方が変わることを紹介しました。そして今、日本は高齢者の割合が28%を超え、「超・超高齢化社会」に突入しています。なお、さらに7%上乗せすると高齢化率は35%。内閣府の試算では2040年には高齢化率が36.1%に達するとされています。つまり、20年後にはさらに「超」が1つ増える状況となるのです。
今回の改正では、この超・超高齢化社会、そしてもうひとつ超が加わる未来に向け、誰もが安心して介護をしながら働き続けられるようになるための環境づくりが形作られています。
介護離職は20~30代の若い世代も他人事ではなく、近い将来直面する問題です。まずは介護と向き合う際にどのような制度があるのか、自分の勤める会社の就業規則はどうなっているかなど、知ることから始めてみると良いでしょう。
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