コロナ禍なのに史上最高税収?財務省の発表から読み解くカラクリ
監修・ライター
財務省は2021年7月5日、2020年度の一般会計の税収に関する発表を行いました。細かい内訳については後ほどご説明しますが、税収は前年度と比べ2兆3801億円も増え、総額で60兆8216億円にのぼり、何と史上最高の徴収税額となったというのです。
しかし、将来の見通しが立たないコロナ渦において、どうして史上最高の税収になったのでしょうか?ひょっとして、私たちの知らない所で、会社は大儲けしていたのでしょうか?それとも何か特別なカラクリがあるのでしょうか?
そこで本日は、今回の財務省が発表したニュースの裏側にある史上最高の税収のカラクリと、そこから見える将来について考えてみたいと思います。
過去10年間の税収の推移
はじめに、ここ10年間における日本国の税収の推移について見てみましょう。下図をご覧ください。
消費税率推移
H23~25年度:5%、H26~30年度:8%、R1~2年度:10%(標準税率)
(引用元 https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/account/index.html
図表は財務省「一般会計決算概要」より筆者作成)
図の左側には税収の総額(予算・決算・対予算比率)が書かれており、右側には税収のおもな内訳が書かれています。ではまず表の左側、税収部分の推移から見てみましょう。
税収の推移
平成23年度と言えば、菅政権から野田政権へ変わった年度でしたが、税収はご覧のように428,326億円となっています。それに対して10年後の令和2年度の最終的な税収は608,216億円となっており、平成23年度の税収と比べると約42%も増えていることが分かります。
次に、対予算比率をご覧ください。この10年間の対予算比率は、基本的には予算に対して実際の税収額が数パーセント上振れ(あるいは下振れ)する程度で収まっていましたが、令和2年度に関しては、何と10%も上振れしています。
このことから、令和2年の税収の増加が、いかに異常値であるのかがお分かりいただけると思います。
次に、税収のおもな内訳も見ておきましょう。
所得税のおもな内訳
平成23年度の所得税の税収は134,761億円でしたが、令和2年度は191,897億円となっており、この10年間で約42%も税収が増えています。
しかし、日本の労働者人口は団塊の世代の相次ぐ定年退職により減少しており、また、労働者の実質賃金もこの10年間は横ばいか、むしろややマイナスとなっています。おまけに、この10年間は、所得税の大幅な増税はされていません。
したがってこのことから、この10年間で超富裕層や富裕層が新たに誕生したことにより、かれらの納税額が増えた結果、所得税の税収が増加していると推察されます。実際この10年間で日本の所得層は完全に二極化しており、一部の超富裕層と大部分の労働者層に分かれ、消費意欲が旺盛だった中間層は崩壊してしまいました。
法人税のおもな内訳
平成23年度の法人税の税収は93,514億円でしたが、令和2年度は112,346億円となっており、こちらも10年間で20%ほど税収が伸びています。特に令和2年度に関しては、新型コロナウイルスの影響により企業収益が大幅に悪化することが想定されていたため、前年度と比べて4%も税収が増えるとは想定外のことでした。
消費税のおもな内訳
消費税はこの10年間に二度増税されており、平成23年度には5%だった税率も今では10%と倍増しています。したがって10年前に101,945億円だった税収は令和2年度には209,713億円に倍増していますが、これは特に驚くべきことではありません。
しかし、景気が良ければ経済規模は拡大し、年間約2%前後の緩やかなインフレが起こっているはずですから、税率が倍になったのであれば本来税収はそれよりも多くならなければなりません。
つまり、日本はこの10年間、他の先進国が緩やかな経済成長を続けている中で、ずっと横ばいだったということが分かります。
ではどの税収に異常値が発生したのか
令和2年の税収のうち、予算と比べて圧倒的に税収が多かったのは一体どの税だったのでしょうか?以下に、令和2年度の主要3税の予算と実際の税収の比較をご紹介します。
(引用元 https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/account/index.html
図表は財務省「一般会計決算概要」より筆者作成)
所得税も消費税も予算と比べて伸びていますが、法人税の対予算比率が圧倒的に伸びています。つまり、令和2年度の税収における異常値発生の原因は、法人税の増収にあったわけです。
企業はコロナ渦で本当に儲かったのか?
法人税は、法人が1年間で稼ぎ出した利益に対して課税されます。ですから、令和2年度に法人税の税収が増えたのは、企業の収益が財務省の予想を大幅に超えたためです。
では、令和2年度において、企業で働く労働者の賃金はどうだったのでしょうか?一般的には、企業の収益が増えればそれに伴い給料や賞与が増えるため、労働者の年収も増えていくはずです。しかし、実際には令和2年度の実質賃金はほとんど増えていません。
ということは、会社だけが儲けて、従業員には一切還元されなかったのでしょうか?
企業収益が上昇するメカニズム
売り上げが増えればそれに伴い利益も増え、最終的には決算書の当期利益も増えていきます。これが増収増益に成功した企業の一般的な姿ですが、このコロナ渦で、このような形で増収増益を果たすことが出来た企業は、巣ごもり需要などでヒットした一部の小売業やIT系の企業だけです。
では、それ以外の企業はどのように収益を大幅に伸ばしたのでしょうか?
開発費や設備投資を控えてコストカット
このコロナ渦で増収増益を達成した多くの企業が行ったのは、将来に向けた投資を減らすことでした。日本政策投資銀行のレポートによると、令和2年度における資本金10億円以上企業の設備投資は、製造業・非製造業に関わらず全産業で大幅に落ち込み、9年ぶりに10%以上も減少してしまいました。
また、設備投資以外にも、商品の開発費や基礎研究費などを大幅にカットし支出を抑えたことにより、結果として収益を向上させていたわけです。
設備投資や研究開発費を支出すると、その分だけ収益が減少するわけですから、法人税を減らす節税効果が発生します。しかし、企業経営者の多くは、多額の法人税を支払ってでも開発費や設備投資などの支出を抑える方を今回選択しました。
つまり、それくらい企業側は、これから先景気が悪くなると考えています。景気が悪くなれば物を作っても売れません。ですから開発費も設備投資も控えるのは当然です。
開発費や設備投資のツケはやがて来る
新しい商品やサービスは、先に出したもの勝ちです。ただし、先行者としてどれだけ優れたものを市場にリリースしても、やがてライバル社に追いつかれ、最終的には似たような商品で市場はあふれかえってしまいます。企業同士の競争は、詰まるところこの繰り返しです。
このような激烈な競争を世界規模で行っている中で、一度開発や研究をストップしてしまったら、その後で先行している他社に追いつくことは容易ではありません。今回は将来への投資を減らしたことによって守りを固めることは出来ましたが、これが続けば今後は攻めていくことが極めて難しくなっていくことでしょう。
また、一部上場企業を含む多くの企業は国から雇用調整助成金を受給していますが、これもやがて予算が底を尽きてしまいます。そうなれば、雇用がどこまで維持されるのかは極めて不透明で、最悪の場合、地獄の釜の蓋が開くことになってしまうことになりかねません。
つまり、コロナ渦の令和2年度に税収が史上最高であったことは決して喜ばしいことではなく、ひょっとしたら「大不況時代」の幕開けを告げるシグナルとなるかもしれないのです。