SWIFTからの締め出しが今後ロシアと日本に与える影響とは?
監修・ライター
ロシアのウクライナ侵攻が始まってから2週間が経過しました。NATO加盟国を中心に西側諸国のほぼすべてがウクライナ側につき、ロシアに対する金融制裁が開始されました。この制裁の中でも最も厳しいのが、ロシア系金融機関のSWIFT(スイフト)からの締め出しです。
連日報道されているため、聞いたことがある方も多いと思いますが、このSWIFTって一体何なのでしょうか?締め出されると何ができなくなるのでしょうか?そして、回り回って、日本にはどのような影響が及ぼされるのでしょうか?
本日は、ロシアへの金融制裁と日本への影響について考えてみます。
SWIFTって何?
私(筆者)は趣味で、米国のカリフォルニアやフランス全土からワインを個人輸入しています。たいていの場合、支払いはクレジットカードで済むのですが、ロット数が多かったり特殊な取引だったりする場合は郵便局からドル建てやユーロ建てで国際送金をしています。
国際送金をしたことのある方ならご存じだと思いますが、送金の申込書に送金先金融機関のSWIFTコードを書くことがあります。SWIFTコードとは、8桁もしくは11桁のアルファベットと数字で構成されているもので、国際送金ができる銀行なら必ずこのSWIFTコードを持っています。
SWIFTコードは意味のない乱数ではなく、【金融機関コード】【国名略号】【所在コード】【支店コード】の順に並べられています。たとえば、日本の国名略号はJPで所在コードはJTですから、日本の〇〇銀行(金融機関コードAAAA)BB支店(支店コード012)の場合であれば、AAAAJPJT012がSWIFTコードになります。
このように、銀行間での国際送金を行うために、データ通信システムを運用して加盟している金融機関に対してSWIFTコードを割り当てているのが国際銀行間通信協会(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication、略称:SWIFT)です。現在では、世界中のほとんどの銀行、証券会社、証券取引所等がこのSWIFTに参加しており、高額資金決済の大半にはこのSWIFTが使われています。
ちなみに、SWIFTがなかった時代は、電話やFAX・テレックスなどが用いられていました。しかし、取引量が増えると煩雑過ぎて対処できなくなっていったようです。そのような時代背景から、SWIFTが生まれたわけです。
ただし、SWIFTが行っているのは送金メッセージのやり取りのみで、実際に資金決済を行っているわけではありません。国際送金を行うための決済網を提供するのが、SWIFTのおもな業務です。
コルレス銀行とコルレス契約
私たちが日本国内のA銀行からB銀行へお金を振り込む場合、A銀行からB銀行へ現金輸送車で資金が運ばれているわけではありません。実際には、各銀行が日銀に持っている当座預金の口座間で振り替えが行われているに過ぎません。
しかし、国際間ではこの日銀の当座預金に該当するものがありません。そこで、海外の金融機関との間で口座を開設し合い、その口座の中で資金決済をし合う仕組みが考え出されました。この取引を行う銀行のことを「コルレス銀行」といい、この資金決済に使われる口座のことを「コルレス口座」といいます。実は、国際間の資金決済は、このコルレス銀行同士の決済によって行われているのです。
ただし、すべての銀行がコルレス銀行の役割を果たしているわけではありません。そこで、コルレス銀行と契約を結び、コルレス銀行を経由して国際送金を行います。この契約を、「コルレス契約」といいます。
たとえば、日本のA銀行(非コルレス銀行)から米国のD銀行(非コルレス銀行)へ送金するためには、以下のルートを経由することになります。
- A銀行(非コルレス銀行)→B銀行(日本のコルレス銀行)→C銀行(米国のコルレス銀行)→D銀行(非コルレス銀行)
ちなみに、米国のコルレス銀行はシティバンクやJPモルガンなどで、日本の場合は三菱UFJ銀行がその業務を行っています。
このように、国際送金は、SWIFTによってデータのやり取りが行われ、それに基づきコルレス銀行を経由して行われています。今回のウクライナ侵攻により、ロシアの主要銀行はこのSWIFTから締め出されることになりました。
これまで述べてきたように、SWIFT自体は単なる送金データのやり取りに過ぎないため、SWIFTから外されたからといって直ちに国際決済そのものができなくなるわけではありません。しかし、SWIFTを使わない国際決済にはかなりの手間と時間とコストが必要となります。ですから、SWIFTから締め出されたロシアは、事実上国際決済が不可能になってしまうわけです。
ロシアへの経済制裁によって何が起こっているのか
SWIFTから締め出されたロシアの主要銀行やロシア系企業は、海外とのやり取りが出来なくなってしまいました。その結果、何が起きているのでしょうか?
金融機関への影響
ロシア最大の銀行であるズベルバンクは、株価が一気に7割近く落ち込み、欧州の各支店から大規模な預金の引き出しが起きてしまいました。その結果、欧州市場からの撤退を表明しています。
引用元:https://www.bloomberg.co.jp/quote/SBER:RM
このまま金融制裁が続けば、ロシア国内にある金融機関が大きなダメージを受けることは容易に想像できます。
為替に対する影響
一方為替にも、甚大な影響が出ています。下図をご覧ください。
引用元:https://www.hs-sec.co.jp/bond/foreign/chart/rub.htm
あっという間にロシアの通貨単位であるルーブルの価値が4割近く落ち込んでいます。ロシア政府は米ドルなどの外貨を保有していましたが、米国や日本にある海外資産が凍結されてしまったため、それらに手を付けることはできません。海外の投資家などから浴びせられる売りオペに対して為替介入を行い必死でルーブルを買い支えていますが、弾(=外貨)が尽きるのも時間の問題でしょう。そうなれば、ルーブルはさらに下落することになります。
政策金利の引き上げ
ロシアの中央銀行は、2月28日、通貨安に伴うインフレを抑えるために政策金利を20%に引き上げると発表しました。政策金利とは中央銀行が設定する短期金利のことで、今回のように金利が引き上げられるとお金が借りにくくなるため、景気の過熱や物価の上昇を抑えることができます。
ただし、政策金利が20%にもなってしまうと、ロシア国内の企業が金融機関から資金を調達することは事実上不可能になってしまいます。したがって、ロシア国内の景気は相当に悪化するでしょう。
国家破たん
ローンや債権の破たんに備え、それを保証するための保証料を金融商品化したものをクレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap:略称CDS)といいます。これは国家破たんリスクを調べる場合にも用いられており、3月4日現在、日本国債であれば10年物で0.16%の金利が設定されています。
引用元:https://tradingeconomics.com/japan/government-bond-yield
一方ロシアはどうでしょうか?
引用元:https://tradingeconomics.com/russia/government-bond-yield
3月4日現在で、ロシアの国債には19.89%もの金利がつけられており、さらに伸びそうな勢いです。一般的には、国債金利の危険水準は7%と言われており、恒常的にデフォルト(債務不履行)状態にあるギリシアですら2%台です。したがって、ロシアの破たん確率は相当高いと言えます。
なお、デフォルトになると国債の利払いや償還ができないため、通貨の信用性が低下して国内は急激なインフレ状態に陥ります。また、新たに国債を発行する際の利回りをかなり高く設定しなければ売れないため、国家の運営は自転車操業のようになってしまいます。
このように、各国の金融制裁はロシア経済に大打撃を与えており、短期間で想像以上に深刻な状況となっていることが分かります。
日本経済への影響
最後に、日本経済に与える影響について考えてみます。財務省の貿易統計によると、日本はロシアから年間約1兆5千億円の液化天然ガスや石炭・原油などを輸入しています。これらの輸入がロシアから出来なくなるため、早急に輸入先を確保しなければあらゆる物価に悪影響が及ぶでしょう。
また、2月28日付の読売新聞オンラインによると、公的年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)はロシア関連の資産(国債・社債・株式など)を2200億円保有しています。したがって、もしロシアがデフォルトした場合、年金の支給金額にもある程度の影響が出ることは避けられないでしょう。
終わりに
ロシアによるウクライナ侵攻の結果、欧州や日本は天然資源の供給国であったロシアからの輸入に頼ることができなくなってしまいました。今後もこの傾向が続くのであれば、日本は出来るだけ早くロシアに代わる資源の調達先を確保しておかなければなりません。
今後は欧州各国との天然資源の争奪戦が起こる可能性があります。ただでさえ上がっている物価をこれ以上あげないためにも、政府には一刻も早い対応を望みます。