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物価上昇が止まらない!値上げラッシュを乗り切るインフレ家計対策

そなえる 中村 賢司

物価上昇が止まらない!値上げラッシュを乗り切るインフレ家計対策

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最近、原油価格や原材料が高騰したことにより、日本国内では食品やガソリンが値上がりしているというニュースをよく聞きます。

これはいわゆるインフレーション(インフレ)といい、物価が上昇することを指しています。収入が上がらないのに普段買い物をするモノやサービスの価格がどんどん上がる値上げラッシュが続き、家計を圧迫しているのではないでしょうか。

そこで今回はインフレにどう対策するべきか、毎月の家計のやりくりや投資の視点から直ぐにでも始められるインフレ対策について解説します。

原料価格の高騰が響く現在の物価動向

まずは最近の物価動向がどうなっているのか見ていきましょう。

総務省統計局が調査している「消費者物価指数」の最新データによると、年単位で見た場合、2022年は2021年に比べて平均で2.5%も上昇しました。2021年までと比べ急に物価が上がっていることが分かります。

また、2022年1~12月の月単位でみると年初はほぼ横ばいだった消費者物価指数が、春から年末にかけて急激に上昇しました。

出典:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2022年(令和4年)12月分 (2023年1月20日公表)」

上の表から2022年は春以降年末にかけて総合指数が前年比で上昇していることが分かります。12月の数値をみると総合指数は4.0%上昇、「生鮮食品を除く」総合指数も4.0%上昇、これは原油高や原材料高が影響しているといえるでしょう。

さらに「生鮮食品及びエネルギーを除く」総合指数をみるとその上昇率は6月から12月にかけて1.0%から3.0%にまで急激に上昇しました。これはアメリカの利上げにより急激な円安が進み輸入品が高騰したことが原因と推測できます。

もう少し分かりやすく説明すると、生鮮食品は台風や洪水などの悪天候で不作となった場合、価格が大きく上昇します。この「天候による要因」を除いた指標が「生鮮食品を除く総合」です。原材料の高騰などを除いた物価上昇の指標となります。

さらにエネルギーを除く総合指標は、原油価格が地政学リスクにより乱高下することもあり、実際の需要よりも価格が高くなることもあります。そのようなエネルギー価格を除くことにより、本来のモノやサービスの価格が上がったか下がったかを示す指標となります。

この物価上昇の傾向は日本だけではありません。特に物価上昇率が高いのがアメリカで、2022年1月以降毎月7~8%台で推移し、6月には遂に9%台となりました。

インフレ・デフレとは

インフレ・デフレ
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モノやサービスの価格が上がり、貨幣価値が下がることを経済用語でインフレーション(略してインフレ)と言います。このインフレが起こる要因にはさまざまな理由がありますが、大きく分けると「良いインフレ」と「悪いインフレ」があります。

良いインフレとは、人口増加や景気拡大に伴ってモノやサービスの需要が高まり、モノやサービスが良く売れて企業の売上が上がり、従業員の給与も上昇し、生活レベルが上がりさらにモノやサービスを求め供給が需要に追いつかない状態となり、モノやサービスの価格が上昇する状態です。要は景気拡大を伴う物価上昇ということです。

悪いインフレとは、企業の業績が悪く従業員の給与も上がらないのに、悪天候や地政学リスクにより原材料やエネルギー価格が上がり、物価が上昇してしまう状態のことをいいます。悪いインフレは家計を圧迫することに加え、需要が供給を下回ってしまう状態、すなわちモノやサービスが売れないという悪循環に陥ってしまいます。この悪いインフレ、景気拡大を伴わない物価上昇のことを経済用語ではスタグフレーションといいます。

一方で、物価が下がり貨幣価値が上がることを経済用語ではデフレーション(略してデフレ)といいます。日本ではバブル崩壊後、失われた20年ともいわれ、このデフレ状態が続いています。

デフレの方がモノやサービスの価格が下がり、生活しやすいと思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。モノやサービスが売れないと企業は価格を下げて売ろうとします。そうすることで、従業員の賃金は上がらず消費活動も落ち込んでしまいます。企業の売上減少→企業の利益減少→従業員の賃金・賞与抑制→手取り収入ダウン→消費抑制、買い控え→モノやサービスが売れない→企業の売上減少・・・負のスパイラルですね。

日本銀行(日銀)は2013年にインフレターゲット(物価安定の目標)を2%と定めさまざまな金融対策を行ってきましたが、まだ達成していません。

しかしここ数カ月の日本の物価上昇は景気拡大を伴わないインフレなので、悪いインフレといえるでしょう。普通に考えればモノやサービスの価格が1%上昇すれば、それに伴い給与などの収入も1%上昇しなければ家計の収支はマイナスです。家計を圧迫するようであれば、景気拡大を伴う物価上昇ではないので今の状態は良いインフレといえません。

これまでの物の値段推移

日本の経済は1999年頃から継続的なデフレ状態に陥ったといわれており、内閣府の経済報告ではその10年後の2009年に「緩やかなデフレ状態にある」とも記されています。さらに2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大によって需要が供給を下回り、デフレ状態が続いているといわれています。

では実際にモノやサービスの価格はどのように推移しているのでしょうか。総務省統計局が調査している「小売物価統計調査」の過去20年分を見てみましょう。

出典:総務省統計局「小売物価統計調査(動向編)」より著者が作成(全国統一価格項目(郵便料、新聞代)以外は、東京都区部での値段で比較)

2001年からはデフレ状態といわれていましたが、牛肉や豚肉の価格は上昇し続けています。

一方、食パンや食用油、マーガリンは小麦や油の輸入価格にも左右されることから為替の影響を受けているので価格は上がることもあれば下がることもありました。

モノの価格より明らかに上昇しているのが、クリーニング代や理髪料などのサービス価格です。この上昇し続けているデータをみるとデフレ状態とはとてもいえません。

値上げラッシュはどこまで広がる?

先ほどの表からも分かるように原材料の価格は上昇しつづけているため今後も食品の価格は上がることが予想されます。原油価格の高騰は、ガソリン価格を上昇させ輸送コストが上がるだけでなく、ハウス栽培の燃料費にも影響を与えるので加工品の価格上昇だけでなく生鮮食品の価格上昇にもつながります。

また、火力発電の燃料としても原油が使われるため、電気代など光熱費の上昇にも繋がります。マイカーのガソリン代にも直結するので、原油価格は私たちの生活にさまざまな影響を与えます。

新型コロナウイルス感染症が収束に向かうことで世界経済は急速に回復するといわれています。そうするとさらに原材料や原油価格の需要が高まりさらに物価が上昇することが予想されます。今後も食品など私たちの家計に直結するモノの価格が上がっていくことが予想されます。

さらに人手不足による人件費の高騰により、モノだけでなくサービスの価格も上昇するでしょう。クリーニング代や理髪料だけでなく、人件費高騰は住宅価格や教育費の上昇にも繋がります。子育て世代の三大支出の2つ、住居費、教育費も今後さらに上昇することが予想されます。

インフレ(物価上昇)への家計対策

チャートを見る男性
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このようなインフレが今後も続く場合、私たちの家計はどのように対策をとれば良いのでしょうか。例えば今まで100円で買えていたモノが150円出さないと買えない状態、すなわち物価が1.5倍になると今保有している貨幣の価値は約3分の2に下がってしまいます。

先にも述べたように物価上昇に伴い収入も上がっていれば問題ないのですが、収入がなかなか上がらないのが現状でしょう。また、貯金を銀行やゆうちょなどの金融機関に預けているだけでは、今の低金利時代、お金はなかなか増えません。逆に物価が上昇すれば銀行に預けている預金の価値は目減りします。

そこで今からでもできる家計のインフレ対策をいくつか紹介します。

〇外貨預金

まず初心者でも始めやすいのが「外貨預金」です。輸入に頼る日本では、円安になれば輸入価格が上がりさまざまなモノの価格が上昇します。そこで預金の一部を円預金ではなくドルなどの外貨預金に預けておくのです。そうすれば日本の景気が悪化して円安になった場合、皆さんの外貨預金の価値は円預金より上がっています。

外貨預金には高金利を謳った新興国の預金などもありますが、価格変動が激しいので基軸通貨のドル預金がおすすめです。金利は期待せず、将来的な円安に備えるというスタンスが良いでしょう。外貨建ての生命保険を検討する人もおられますが、流動性や手数料の観点からはおすすめできません。仕組みがシンプルな外貨預金を銀行や証券会社で開設してください。輸入品が高くなっても外貨を持っていれば十分対応できるでしょう。

〇インデックス投信

2つ目の対策は「インデックスの株式投資信託」に投資する方法です。リスクはありますが、株式投資はインフレに対応します。実際は個別銘柄の株式投資の方が、企業の業績や財務状況によって価格上昇が見込めますがリスクが高すぎます。

そこで日本や海外の株価に連動するインデックスファンドであれば手数料も安く、日本や海外の景気に合わせて価格上昇も期待できます。

あくまでもインフレ対策のためなので、債券ではなく、株式に投資している投資信託を選ぶようにしてください。1つ目の対策として外貨預金を挙げましたが、海外の株価指数に連動するインデックスファンドであれば為替益も期待できるので、インフレ対策には国内の株式ファンドより海外の株式ファンドがおすすめです。

〇金投資

株式は難しくて苦手という人には、「金投資」もインフレ対策に有効です。金は株式と違い現物資産のため、金融危機の場合にも対応でき、また埋蔵量に限りがある有限資産なので将来的な値上がりも期待できます。モノの価格が上がると金の価格にも影響があります。まとまった資金がなくても純金積み立てなどで備えておくのもよいでしょう。

〇不動産投資

4つ目は「不動産投資」です。まとまった資金があり、多少リスクが取れる人にはおすすめです。金と同様、現物資産なので物価が上がるということは不動産価格も上がります。インフレ対策としては一番有効的な手段かもしれません。

ただし資産価値が下がりにくい地域の不動産を選びましょう。地方の不動産は人口減少に伴い需要がなく、逆に価格が下がってしまうこともあります。人口増加率の観点からも東京23区内の物件が値下がりしにくいともいわれています。

まとめ

今回は今までの物価上昇やインフレ対策について解説しました。特に以下の点について理解を深めていただければと思います。

物価が上昇するということは家計の支出も全体的に上がります。収入が上がらないのに、支出が増える状態では家計を圧迫するだけでなく将来的なライフプランにも悪影響を与えます。

物価上昇に伴い収入を上げる手段がある人は良いのですが、職場により残業代カットや副業禁止など制限があるとそれが期待できません。そこで考えられる対策は、今ある資産をいかにインフレに対応する資産として保有するかです。

今回紹介した外貨預金、インデックスファンド、金投資、不動産投資はそのインフレ対策としてはとても有効です。

もし貯金を銀行に預けているだけという方がいれば、今回紹介したインフレ対策を試みてください。資源国ではない日本は今後も物価が上昇することが予想されます。5年、10年、20年先を見据えたインフレ対策を考えていきましょう。

※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。

インフレ対策についてのQ&A

Q.日本では今後ハイパーインフレの懸念があると噂で聞きましたが、何か対策は必要ですか?

A.ハイパーインフレとは、インフレ率が毎月50%もしくは3年で100%と定義されています。仮にもしインフレ率が毎月50%上昇すれば、1年後のモノの価格は130倍にもなります。少数の人が日本のハイパーインフレについて警鐘を鳴らしていますが、通貨暴落を伴わないハイパーインフレはありませんので、安心してください。日本は対外純資産世界一の国です。緩やかな円安の可能性は否定できませんが、通貨暴落はあり得ません。

Q.金投資の他にも、銀貨や銅貨などのインフレ対策は有効でしょうか。

A.現物資産投資として金(ゴールド)やプラチナが注目を集める一方、銀や銅などへ投資する方もおられます。リスク分散の意味合いから有効かと思いますが、流動性や換金性の視点からは、ゴールドやプラチナの方がお金に換えやすいといえるでしょう。まず始めるには金投資から始めてみてください。