暗号資産はもうダメ?FTXの経営破綻から見る暗号資産の将来
監修・ライター
2022年11月11日に仮想通貨取引所大手のFTXが米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したニュースが世界中を飛び交いました。2014年当時世界最大の取引所だったマウントゴックスが経営破綻した記憶がいまだに残っている中でのニュースだけに、「やっぱり暗号資産は危ない!」と思った人も多かったのではないでしょうか?
そこで今回は、FTXの経営破綻がどうして起こってしまったのか、その理由や今後の暗号資産の行方について考えてみたいと思います。
そもそも暗号資産とは
そもそも暗号資産(仮想通貨)とは何なのでしょうか?ご存じない方もいるかもしれませんので、簡単に復習をしてみましょう。
暗号資産とはブロックチェーン技術を使った新しい電子マネーの総称で、旧来の電子マネーとは違い、取引や残高を記録するためのホストコンピューターを介さず、インターネット上でユーザー同士による直接取引を行います。
そのため秘匿性が高く、また投機的な要素も高いため、以前は資金洗浄などに使われているとの噂も絶えませんでした。
通貨のように発行している国家の後ろ盾があるわけでなく、また株式のように企業の業績に裏打ちされたものがあるわけでもないため、ボラリティ(価格の変動幅)が極めて高いのが特徴です。つまり、不安定なわけですね。
世界中24時間どこへでも、個人間での直接送金が極めて安価な手数料で出来るだけでなく、アフリカや中南米などの経済状況が不安定な国では自国通貨よりも信頼性が高いとも言われています。
FTXはなぜ破綻したのか
それでは仮想通貨取引所のFTXがなぜ経営破綻したのかを、時系列に沿って整理してみましょう。
不正会計の疑いがあることをニュースサイトに暴露される
2022年11月2日、ビットコインとデジタル通貨に特化したニュースサイトのCoinDeskは、FTXグループの中核をなすアラメダ・リサーチ社のバランスシート(貸借対照表)が不正会計で水増しされている疑いがあることをリークします。
アラメダ・リサーチ社が公表している資産の大半はFTXが発行するFTTトークン(暗号資産)で、現金などの流動性の高い資産の保有率は1%を切っており、おまけにFTTトークンを担保にした負債まで大量にあることがリークされたのです。また、顧客から預かった資産は分別管理されておらず、FTXからアラメダ・リサーチ社へかなりの額が資金融通されている疑いがあることも分かりました。
FTXは仮想通貨取引所の中でも業績好調だと思われていただけに、この衝撃は大変なものでした。
バイナンスのCEOがFTTの売却を発表
リークから5日後の2022年11月7日、世界最大の仮想通貨取引所であるバイナンスのCEOチャンポン・ジャオ氏が、自身が保有するFTTをすべて売却することをツイッターで発表します。
これによりFTTの価格は大暴落し、FTXに資産を預けていた投資家たちは一気に資産の引き上げを開始します。このように、銀行の取り付け騒ぎのような状態が投資家の間で起こった結果、FTXは資産の大半が社外へ流失し、会社の存続が一気に難しくなってしまいました。
破産手続き開始を発表
一時はバイナンス社による買収なども検討されましたが結局流れ、不正会計発覚からわずか9日後の11月11日に、FTXが破産手続きの開始を発表しました。またその直後には、外部からのハッキングにより数百億円もの資産が不正に引き出される事態となりました。
破綻の原因はデタラメ経営と不正会計
FTX破綻の真相解明は米国当局を中心に現在も調査中ですが、徐々に分かってきたことは、イメージアップ戦略によってFTTトークンの価格を吊り上げ、新しい投資家を呼び込んで得た資金で自転車操業を繰り返していたことや、社内のガバナンス体制が完全に崩壊していたことなどです。
つまり、今回の仮想通貨取引所の破綻は、仮想通貨ならではの不安定さが原因だったというよりは、単に詐欺的な手法による不正会計の果てに起きた経営破綻だったわけです。
たまたま取り扱っていた商品が仮想通貨だっただけで、実際には、不正経理と粉飾決算で2001年に破綻したエンロンの事件に近いものだったというわけですね。
FTXの経営破綻による影響
しかしながらFTXの経営破綻は、単なる一企業の破綻だけにとどまらず、仮想通貨全体に大きな影響を及ぼすことになりました。
下図のビットコインのチャートをご覧ください。
FTXの経営破綻の影響により仮想通貨そのものの信頼性が低下し、その影響を受けたビットコインは大幅に値を下げ、12月13日時点でもその値を戻してはいません。
これに反して値を上げたのが金(XAUUSD)です。
引用元:TraidingViewチャート
こちらは11月2日に不正会計がリークされて以降金の取引額が大幅に増え、その価格が急上昇しています。
これらのことから、FTXの経営破綻によって暗号通貨全体の信頼性が大幅に低下し、その資金の一部が金などのコモディティ投資に流れて行ったことが分かります。
仮想通貨のこれから
2022年11月10日、関東財務局はFTX Japanに対し、資金決済に関する法律第63条の17第1項及び第63条の規定に基づき行政処分を行いました。関東財務局は同社に対して新規の取引を停止させつつ、利用者保護を行うように求めています。
しかし、12月13日時点ではFTX Japanが利用者から預かった法定通貨や暗号資産の出金手続きが完了しておらず、同社の今後の対応に注目が集まっています。
仮想通貨業界の規制は強化へ
ここまで述べてきたように、今回の経営破綻は暗号通貨そのものに問題があったわけではなく、暗号通貨を取り扱っている仮想通貨取引所のコンプライアンスやガバナンスに重大な過失があったことが直接の原因となっています。
しかし、一般の金融機関と比べ、仮想通貨業界に対する当局の管理体制や規制は世界各国でまだまだ整っているとは言い難く、これが今回の経営破綻を生み出す原因の一つになっていることは間違いありません。
投資家保護の観点からも、各国の当局は今後より厳しい規制を行うことが必要で、それが出来なければ暗号資産の未来は厳しいものになることが予想されます。