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NTT法廃止でどうなる?携帯料金への影響だけでは済まない!?

経済とお金のはなし 竹中 英生

NTT法廃止でどうなる?携帯料金への影響だけでは済まない!?

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2023年10月6日、自民党の「NTT法のあり方に関するプロジェクトチーム」は情報通信産業の外資規制について議論を行い、有識者からは外資規制を強化するなどの対策を講じた上でNTT法を廃止すべきだとの意見が出ました。

この議論を発端に、NTTを除く大手通信各社はNTT法の廃止に対して一斉に反対を表明し、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルなどの通信事業者と全国のケーブルテレビなど約180の企業・団体が連名で自民党と総務省に慎重な検討を求める要望書を提出しました。

このNTT法の廃止については、自民党や総務省の審議会で議論が進められる中、NTTと他の通信大手3社がSNS上でそれぞれの主張を投稿し合い、応酬を繰り広げる事態となっています。

そこで本記事では、NTT法とはそもそもどのような法律で、廃止されるとどのような問題が生じ、また私たちの生活にはどういった問題が起こるのかについて解説します。

NTT法とは

NTT
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NTTの前身である日本電信電話公社は郵政省傘下の特殊法人で、政府が資本の100%を出資して設立されました。しかし、通信事業に関する独占的な状況を廃止し、健全な競争環境を整備する目的で1985年に民営化されます。その結果、政府が保有する株式は市場に放出され、持分は1/3まで低下しました。

今回の議論は、防衛費増額分の財源を調達するために、政府が保有しているこのNTTの株式を売却する検討を開始したことから始まります。

NTT法とNTTグループの果たす社会的役割

NTT法とはNTT持株会社とNTT東日本・NTT西日本の3社を対象に、特殊会社としての法的地位や事業内容、国の関与や規制などを定めた法律です。

具体的には、発行済株式の1/3以上を政府が保有することや外資規制、日本中のあらゆる場所に固定電話サービスを提供すること、通信に関する研究の推進などが定められています。

NTT法では政府の持ち株比率が1/3以上と定められているため、現状では政府が保有しているNTTの株式を売却できません。そこで、防衛費の増額分を捻出する目的で、NTT法の廃止が議論の対象となったわけです。

では、このNTT法の廃止が他社にどのような影響を与えるのかを理解するために、NTTグループの果たす社会的役割と特殊性から考えてみましょう。

NTTグループの役割と特殊性

NTTグループには、2つの役割があります。ひとつは、フレッツ光やNTTドコモなどの通信サービスを提供し、上場企業として収益を追求する役割です。

そしてもう一つが、NTT法と電気通信事業法に基づき固定電話のサービスを(たとえ僻地でも)全国一律に展開し、通信網を整備して他の企業に廉価な価格で貸し出す公益性の高い事業を担う役割です。

NTT東日本とNTT西日本は、全国に7000を超える局舎や光ファイバー網、1000万本を超える電柱などを資産として持っています。これらの設備は旧日本電信電話公社から受け継いだもので、同様の設備投資を一般企業が新たに一から行うことはまず不可能です。

したがって、この状態を放置しておけばNTTグループが市場を独占し、健全な競争を阻害してしまうことは明らかです。

そこで、NTTが市場で一人勝ちしないように、NTT東日本とNTT西日本が保有している通信網を他社に安価で貸し出すことが電気通信法で義務付けられました。

つまり、私たちが使用している通信サービスの根幹をなすインフラは、基本的にNTTグループが所有しているものなのです。そして他社は、それを安価で借りて、自社のサービスを提供しているのです。

今回の争点のひとつは、この通信インフラをめぐる賃料が、NTT法の廃止によって大きく影響を受ける可能性がある点なのです。

NTT法が廃止されるとどうなる?

話し合い
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では、NTT法が廃止されると何が起こるのでしょうか?「携帯電話料金が安くなるかも!」と期待する方がいるかもしれませんが、残念ながら今のところそのような話は出ていません。

今回のNTT法廃止について、一般的に論点として取り上げられているのは、おもに以下の3点です。

公正な競争の阻害

上述のように、NTT東日本と西日本が持つ通信インフラは、現在安価で他社に貸し出されています。しかし、NTT法が廃止され価格の決定権がNTTに与えられた場合、現在と同額で貸し出されるかどうかは分かりません。

インフラの賃貸料が今以上に高くなれば、NTTグループ以外の通信サービスは現在よりも高額になり、NTTの一人勝ち状態が生じてしまいます。その結果、通信事業者同士の公正な競争が阻害される恐れがあります。

過疎地域への通信サービスの低下

現行のNTT法では日本中の隅々まで通信インフラを敷設しなければならないため、利用者の少ない過疎地などでは、NTTの収益が圧迫されています。

もし、NTT法廃止に伴いこうした規制がなくなってしまった場合、過疎地域への通信サービスが低下することも考えられるでしょう。

外資規制

現行のNTT法は、外国人などの議決権割合をNTTの株式全体の3分の1未満にするように制限しています。この制限が撤廃され、外国人株主をはじめとするアクティビスト(いわゆる「物言う株主」)が増えてしまうと、NTTによる市場独占が進み公正な競争の維持が難しくなるかもしれません。

NTT法廃止に反対する各社も、時代にそぐわない部分の改正についてはおおむね賛成しています。しかし、上記のような理由により、NTT法の廃止には反対している状況です。

NTT法の廃止で私たちの生活にどのような影響があるのか

スマホを使う人々
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最後に、NTT法廃止による私たちの生活への影響について考えてみます。現時点(2023年12月20日)では、NTT法が廃止される決定はなされていません。また、廃止された場合どうなるのかについて具体的な内容が開示されているわけでもありません。

したがって、今のままの状態で、他社に対して特段の配慮なくNTT法が廃止された場合の影響について考えてみます。

NTT法廃止に反対している通信事業者等約180社の主張は、以下の3つです。

利用者料金の高止まりとイノベーションの停滞

NTTが他社に貸し出す通信インフラの利用料が高くなれば、通信サービスに関する分野でNTTグループは独占的な地位を占めるようになります。他社との競争が生まれなければ利用料金を下げる努力をする必要がなくなるため、結果的に通信サービスに関する利用料金が高止まりする恐れがあります。

また、NTTグループは技術革新をしなくても収益が上げられる構造になるため、イノベーションが停滞することも考えられます。

地域によって通信環境に格差が生じる

上場企業として収益を考えるのであれば、公益的な責務を負わず地域ごとに格差をつけたサービスを展開するのが一般的です。これはNTTに限ったことではなく、鉄道やバスなどの交通インフラでも不採算部門は廃線にし、過疎地からは撤退しています。

したがってNTT法が廃止されると、現在のように過疎地域へも通信サービスを提供するユニバーサルサービスが継続されない可能性が高まるでしょう。

NTTグループが強大化するため、地域サービスが衰退する

NTTグループによる通信サービス寡占の影響範囲は、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルなどの通信事業者だけではありません。地域で通信サービスを展開しているケーブルテレビ各社もNTTの通信インフラを借りているため、同様に大きな影響が及ぶことになります。

全国のケーブルテレビ各社は、地域に根差したサービスを展開する一方で、災害時のインフラネットワークの基盤として重要な役割を果たしています。こうしたケーブルテレビのサービスにも、大きな影響が及ぶと考えられます。

まとめ

防衛費増額分の財源を捻出する手段として検討されているNTT法の廃止は、通信事業者などから大規模な反対を受けているものの、政府内では2025年の通常国会をめどに廃止に向けた話し合いが行われています。

もし廃止となった場合、具体的にどうなるのかについては、今のところ公表されていません。しかし、NTT以外の通信事業者から提示された反対の理由を見てみると、国民生活が今以上に向上するような要素は今のところ見つかりません。

NTTが持つ通信インフラは国民共有の財産であるだけに、一方的な値上げなどが起こらないことを望むと共に国民みんなでこの成り行きについて注視していく必要があるでしょう。