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円安続きでドル建て保険は損?解約した方がいい?

FPにききたいお金のこと 中村 賢司

円安続きでドル建て保険は損?解約した方がいい?

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今回の「FPに聞きたいお金のこと」は、米ドル建ての個人年金保険に加入しているものの、解約した方がいいか迷っている30代女性Tさんからのご相談です。

30代女性Tさんの相談

2017年7月に、保険会社A社の個人年金保険に加入しました。月1万円で、米ドル建てです。貯蓄のつもりで入りましたが、最近お金の本を読んでいると「保険で貯蓄はできない」と書いてありました。そのため、今後この個人年金保険を止めたいのですが、止めて解約するか、しばらくは持ち続けた方が良いのか、判断ができません。何か判断の目安となるものを教えていただきたいです。

個人年金保険とは?

個人年金保険は生命保険会社が販売している積み立て保険です。生命保険ですが老後の資金を準備するのが目的の商品で、一般的な特徴は以下の通りです。

個人年金保険は、コツコツと少しずつ老後資金を準備していくにはピッタリで、昔から人気がある金融商品です。ただし現在では、残念ながら払った保険料に対し、受け取れる年金額がそれほど増えないというジレンマを抱えています。

ドル建てなどの外貨建て個人年金保険の特徴は?

外貨建て
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以前からある個人年金保険は預かった保険料を日本円で運用していますが、バブル崩壊後、日本円での運用成績は振るいませんでした。そこで登場してきたのが外貨建ての個人年金保険です。

外貨建ての個人年金保険は、契約者から預かった保険料を外貨(主に米ドル)で運用します。海外の金利は日本の金利よりも高いため、外貨建てベースで見れば日本円で運用するよりも資金が増えやすい特徴があります。

ただし為替レートの影響を受けるため、タイミングによっては元本割れすることもあります。また毎月の保険料も為替の影響を受けます。例えば毎月の保険料が100ドルの契約の場合、1ドル120円の月であれば日本円で1万2000円の支払いです。これが円安になって1ドル140円になると、支払う保険料は1万4000円になります。

ちなみに過去の円とドルのレートの推移を見てみると、2011年は1ドル80円前後でしたが、2024年の為替レートは1ドル150円台です。仮に2011年に外貨建て個人年金保険を契約していると、日本円での保険料の支払いは1.9倍程度に上昇しています。

このように外貨建て保険商品は円安になると毎月の保険料が高くなり、円高になると保険料が安くなるという特徴があります。ちなみに保険料の支払いが既に終了し、現在年金を受取中の場合は、円安の影響で日本円での受取金額が円高の場合よりも多くなっているケースが多いと考えられます。

毎月の保険料が円ベースのドル建て保険も

さてTさんが現在加入しているA社の個人年金保険ですが、実は他の外貨建ての個人年金保険とは異なる特徴があります。一般的な外貨建ての個人年金保険は「毎月の保険料は100ドル」という外貨ベースでの保険料が決まっている契約になっています。そのため為替レートの変動により、円換算の保険料が毎月変わります。

一方、Tさんが契約中のA社の個人年金保険では、毎月の保険料は円ベースです。仮に毎月の保険料が毎月1万円とすれば、1万円で可能な金額分のドルを積み立てます。「ある月は80ドル、またある月は72ドル」といったようなイメージです。毎月の保険料が変わらないので、やりくりもしやすいと思います。

ここで個人年金保険の違いをまとめてみましょう。

上記のように為替の影響やお金の増え方など、商品によってそれぞれの特徴があります。
為替レートの影響を受けたくなければ「円建ての個人年金」、為替レートの影響は受けるものの積極的に運用したければ「外貨建て」を選ぶということになりそうです。

ちなみに一般的な外貨建て個人年金保険とA社の個人年金保険、どちらが良いか比較するのは難しいところですが、毎月の保険料に変動がない方が良ければA社になると思います。

個人年金保険のメリット・デメリット

次に円建て・外貨建てに関係なく、個人年金保険の一般的なメリットとデメリットについて紹介していきます。

〇メリット

  • 将来の生活資金をコツコツと準備できる
  • 受取金額が契約通貨ベースで保障されている
  • 個人年金保険料控除を受けられる

個人年金は保険料が毎月引き落としされます。そのため貯金が苦手な人でも自動的に積み立てすることができ、将来の資金を準備することが可能です。また申し込む前の段階で、契約通貨による将来の受取金額が表示されている点はわかりやすいと思います。

生命保険の保険料は、年末調整や確定申告時に生命保険料控除の対象となります。なお個人年金保険に個人年金保険料税制適格特約という特約を付加することで、一般の生命保険料控除とは別枠の個人年金保険料控除を受けることができます。

ただし、個人年金保険料控除の対象となるためには、以下の4つの条件を全て満たす必要があります。

1.年金受取人が契約者またはその配偶者であること。
2.年金受取人が被保険者と同一人であること。
3.保険料の払込期間が10年以上であること。
4.確定年金または有期年金の場合、年金受取開始が60歳以降であり、かつ受取期間が10年以上であること。

これら4つの条件を満たしていれば、個人年金保険料控除を受けることができます。また条件を満たしていない場合は、一般の生命保険料控除の対象となります。

〇デメリット

  • 早期解約をすると元本割れする可能性が高い
  • インフレに弱い

個人年金保険は解約すると解約返戻金を受け取れます。ただし早期に解約すると元本割れをする可能性が高く、支払い済みの保険料に対して損をすることが多くなります。

また、個人年金保険は将来の受取金額が契約時に確定しているケースが多く、物価の上昇が個人年金の資金の増え方を上回る可能性もあります。そのため個人年金は一般的にインフレに弱いと言われます。ひょっとしたら途中で解約するかもという方や、積極的に運用したい人にとって個人年金保険は向いていないと思います。

契約中の個人年金保険、解約した方がいい?

困り顔の女性
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契約中の個人年金保険について、今後はどうするのが良いでしょうか?最終的にはTさんの判断になりますが、解約か継続の2パターンで考えてみましょう。

元本割れしても良いので解約する

2017年に契約ということなので早期解約にあたります。具体的な金額は分かりませんが、毎月1万円であれば70万~80万円ぐらいの保険料を支払っている計算になります。もし解約するとすれば、為替レートの影響もありますが、支払い済みの保険料の6~7割程度が解約返戻金として戻ってくると思われます(正確な解約返戻金額は保険会社へ問い合わせください)。元本割れを許容し、今後毎月の保険料分をつみたてNISAやiDeCoなどで運用するということであれば、解約するのも一つの方法だと思います。

継続する

個人年金保険は、保険料の中に保険会社の手数料が含まれています。そのため、保険料の全てが積み立てに回るわけではありません。こうした理由から「保険で貯蓄はできない」という言葉が出たりしますが、それでもコツコツと積み上げていくのは想像以上に効果的です。早めに解約すると元本割れしますが、そもそも個人年金保険は老後資金を準備するための商品です。このまま長期運用で継続するということも選択肢に入るでしょう。

解約して別の方法で老後資金を作るなら

Tさんは「もう個人年金はいいや」という気持ちなのでしょうか?で、あるとすれば、損失は出ますが解約して他の方法で老後資金を作る方向にチェンジしましょう。以下、筆者の考える方法です。

iDeCoは節税効果があり、60才まで取り崩しができないので、老後資金の準備に適しています。もし60才まで取り崩しができないことが不安であれば、つみたてNISAを活用するのも良いでしょう。いずれにしても現在30代ということなので、解約返戻金で一時的に損失が出ても挽回することは十分に可能と考えます。

まとめ

個人年金保険は円建て・外貨建てを問わず、生命保険会社の手数料の関係で資金の増え方はゆっくりです。それでも貯金が苦手な人にとって、コツコツと貯まっていく個人年金保険は良い仕組みだと思います。

ただし少しでも多く増やしたいという人にとってはやや物足りないかもしれません。解約でマイナスが出るもののTさんは30代ということなので、このタイミングで運用効率の高い投資信託の積み立てに変更されるのも一つの選択肢だと思います。

※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。