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相続した不動産、空き家ならすぐに登記し売却した方がいい理由とは

そなえる 中村 賢司

相続した不動産、空き家ならすぐに登記し売却した方がいい理由とは

【画像出典元】「beeboys/Shutterstock.com」

昨今、遺産として相続した家の取り扱いに困っている人が多いことをご存じでしょうか?空き家は管理せずに放置すればするほど事態が悪化するものです。法改正によって、空き家に対する措置も厳しくなっています。今回は空き家に関する話題を取り上げます。

増え続ける空き家

近年、少子高齢化や地方における人口減少などの要因により、社会問題として空き家数の増加が取り上げられています。総務省統計局が実施した「平成30年住宅・土地統計調査」によると、空き家数は約848万戸。全国の住戸数の13.6%に相当し、これは過去最高の水準となりました。

空き家の内訳をみると、「賃貸用の住宅」が 432 万7000戸(空き家全体の50.9%)となっており、「売却用の住宅」が 29 万3000戸(同3.5%)、別荘などの「二次的住宅」が 38万1000戸(同4.5%)となっています。これらは、賃貸や売却用に管理されていたり、実際に別荘として使われていたりする空き家です。

一方で、特に問題になっているのが「その他の住宅」で、その数は348 万7000戸(同41.1%)となっています。相続などで引き継いだが、長期にわたって人が住んでおらず管理が不十分な状態の家屋が多く含まれているといわれています。

引用:政府広報オンラインから一部抜粋

空き家でも土地の固定資産税が安くなる

空き家
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では、なぜ空き家は増え続けているのでしょうか。高度成長期以降、人々の持ち家志向のもと新築住宅や分譲マンションが建てられ続け、郊外に多くの住宅地が開発されました。その結果、少子化が進む現代では、全国的な人口減少や都市部への人口集中が進み、それらの住宅が空き家になるケースが増えています。このように空き家になる原因の1つには相続が関係しています。現役世代の子どもは実家を離れ、都市部に住んでいる場合が多いため、相続しても住めないケースが多く、その結果、空き家が増えるという状況なのです。

また、土地や家屋には固定資産税がかかりますが、「固定資産税等の住宅用地特例」によって、住宅が建っている土地は税金が安くなります。実家を相続した際に古い建物を解体して更地にすると、特例の軽減措置がなくなり税額がそれまでの6倍になります。そのため解体せずに放置された空き家が増えることにつながっているのです。

空き家が抱えるリスクと問題

メンテナンスされていない空き家は、外壁材や屋根材の落下、家屋の倒壊などの恐れが出てきます。壁材や屋根材の落下・火災などによって通行人や近隣の家屋に損害を与えてしまうと、損害賠償責任を負う可能性もあります。

それだけではなく、ごみの不法投棄や雑草の繁茂、野良猫や害虫の繁殖などにより衛生面や景観が悪化し、周辺住民の生活環境にマイナスの影響を与えることにもなりかねません。

また、適切に管理されていない空き家が存在するだけで、近隣の不動産の資産価値が低下する恐れや、不審火や放火、不審者の出入りのリスクを抱え、地域の防犯性が低下する可能性も指摘されています。

切っても切り離せない空き家と相続登記の問題

空き家となる一因は相続にあるとお伝えしましたが、空き家と相続登記というのは密接な関係にあります。

亡くなった人が所有していた不動産の名義を相続した人に変更することを相続登記といいます。相続登記にはこれまで変更期限がなかったため、いつ登記の変更をしても良く、登記の変更をしていなくても罰則はありませんでした。

そのため、時間が経つほど相続人が増えたり相続関係が複雑になったりして、登記の変更をしないまま放置されている空き家や所有者不明の土地が増えているのが実情です。登記が変更されておらず所有者が明確ではない場合、不動産の有効活用が妨げられるばかりでなく、放置された空き家は社会問題の原因になります。

所有者不明土地問題:土地の相続登記が適切に行われないまま相続が繰り返され、誰が実際の相続人なのかが明確にならない状態が続き、所有者と連絡がつかない土地が増える。公共工事が必要となっても、用地買い取りの交渉ができず、有効活用ができない

空き家問題:住宅の相続登記が行われずに被相続人(亡くなった人)名義のままだったり、登記が適切に行われないまま相続が繰り返されたりして、放置された空き家が増える

2024年4月1日から相続登記が義務化に

このような状況を改善するため、相続登記が2024年4月1日から義務化されます。登記によって不動産の所有者や担保権の有無が公に示されるため、不動産取引や債務の担保に関する信頼性が高まります。今後は相続登記の義務化によって所有者が明確になり、土地や建物の管理や利用が促進されることが期待されています。

義務化により不動産を取得した相続人は、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。また正当な理由がないにも関わらず申請をしなかった場合、10万円以下の過料が科されることがあると定められています。なお、現段階で相続登記が終わっておらず、2024年4月以降も未登記のままであれば、過料の対象になる可能性があります。もし登記が終わっていないのであれば早めに登記の変更を済ませておいた方が良いでしょう。

管理義務や遺産分割…相続登記していないと起こるリスク

不動産の売却
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これまでもそうですが、相続登記をしないことによるデメリットやリスクがあります。
ここでは代表的なものを例に挙げてみます。

1)不動産を売却できない

不動産の売却をするには、相続人への名義変更が済んでいる必要があります。

2)権利関係が複雑になる

時間の経過とともに新しい相続が発生し、相続の関係者が増える可能性があります。

3)認知症などで遺産分割が困難になる可能性がある

相続人の認知・判断能力がなくなった場合、成年後見人をつけないと遺産分割協議に参加できません。

4)相続した不動産を差し押さえられる可能性がある

相続登記をしていないと他人から不動産を差し押さえられ、不動産の所有権を得られなくなる可能性があります。

5)必要書類の入手が難しくなる

相続発生から時間が経過するほど必要書類を準備するのが難しくなります。
早めに相続登記を行わないと、お金も手間も余計にかかるでしょう。

相続した空き家は売却した方がいい理由

読者の皆さんが不動産を相続した場合、住む予定がないのであれば速やかに売却することをオススメします。主な理由は以下の通りです。

1)空き家の管理上のリスク

空き家は適切なメンテナンスをしないと建物や設備の劣化が進み、屋根や外壁の傷み・配管の漏れ・給排水設備の故障などが起こりやすくなります。また防犯上の問題や公衆衛生の問題など、空き家は管理上のリスクもコストも高くなりやすいことが特徴です。

2)空家対策特別措置法改正で税金が上がる可能性がある

住宅がある土地の固定資産税は住宅用地の特別措置により通常の6分の1に設定されています。そのため更地にせず、お化け屋敷のような空き家をそのままにしているケースも目立ちます。このような状態を改善することを目的に、2015年に空家等対策特別措置法という法律が施行されました。

この法律により、そのまま放置し続ければ倒壊などの危険性や衛生面で有害性が高く、周辺の生活環境に影響を及ぼすような空き家は「特定空き家」に指定されます。特定空き家に指定されると、固定資産税における住宅用地の特別措置の対象外となり、固定資産税がそれまでの6倍に増えてしまいます。

また2023年6月の国会で空家等対策特別措置法が改正され、「特定空き家」に加えて「管理不全空き家」という新たな区分が導入されました。この改正法により、放置されることで特定空き家となる可能性のある物件を「管理不全空き家」と指定し、その状況が改善されない場合、特定空き家と同じように固定資産税の減額措置が解除されるようになりました。

3)相続した空き家の3000万円特別控除の期限が間近

「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」という空き家売却時の特例があります。この特例では、相続または遺贈により取得した被相続人の空き家とその土地を、2018年4月1日から2023年12月31日までの間に売り、一定の要件に当てはまった場合は、譲渡所得の金額から最高3000万円まで控除できます。この特例を使えば相続した空き家を売却した際の所得税を抑えられますが、前述のように2023年12月31日までに売却手続きが終わっている必要があります。

4)不動産市場の動向、解体業者の不足予測

ここ数年、都心部の不動産価格は上昇傾向にあり「もっと価格が上がってから売却しよう」と売却時期を遅らせている人もいると思います。一方、地方では需要と供給の関係で売却したくても買い手がつかないことも珍しくありません。人口が減少していく日本では、一部の地域を除き、不動産の売却は年々厳しくなっていきます。また建物を解体する解体業者の数も限られ、解体料金が今より上昇していくと考えられます。そのため手放す・解体、いずれにしても早い方が良いでしょう。

まとめ

この先、空き家を相続する人は今よりも増えてきます。また、すでに空き家の処理に困っている人も多いでしょう。まずは相続登記を行い、諦めずに売却を目指すことが重要だと思います。

一方で、2023年4月から相続土地国庫帰属法という法律の運用が始まりました。この法律は「相続または遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に土地を手放して国庫に帰属させることができる」というものです。建物を解体し更地にするなどの条件がありますが、相続した土地を手放すことができます。

ご興味がある方は法務局にお問い合わせください。また相続した空き家に対する3000万円の特別控除の期限も近づいています。もし特別控除を使いたいという場合はお急ぎください。