自宅が被災、住宅ローン返済どうなる?火災・地震保険の補償範囲は
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災害の多い日本。念願のマイホームを購入した後、災害で自宅が大きな被害に遭遇したら…あまり想像したくありませんし、そうならないことを祈るばかりですが、いざという時に備えて皆さんはしっかりと対策できていますか?
「保険に入っているから大丈夫」と思う人も多いでしょう。ただ、その保険がどれだけ補償してくれるのか、また住宅ローンの残債がある場合はどうなるのか。そこまでしっかりと把握している人は少ないかもしれませんね。
今回はマイホームが被災した際の住宅ローン返済の取り扱いについて詳しく紹介します。保険のみならずあらかじめ知っておきたい制度もあります。ぜひ1つ1つチェックしてみてください。
被災して自宅が全半壊、住宅ローン返済は続くのか?
火災で自宅が全焼、地震や津波で半壊や全壊となった場合、大きなショックと共にこれからのことを考えると不安にも襲われ、筆舌に尽くしがたい状況だと思います。そんな状況で気になるのが「住宅ローンの残債はどうなるのか?」ということですが、基本的には残債が免除されることはなく、引き続き返済しなければなりません。
よって、大事な自宅に被害が生じた場合、火災保険や地震保険である程度補償してもらえる状況にしておかなければ、「自宅という資産を失い住宅ローンという負債だけが残る」という大変な状況が想定されます。
ただし、当面の間ローン返済を猶予できる制度などもありますので、できるだけ早く金融機関に相談してみてください。
災害時の公的支援は?「被災者生活再建支援制度」
公的な支援制度として「被災者生活再建支援制度」があります。住宅の被害の程度に応じて、また再建方法に応じて最大300万円支援されます。
また住宅金融支援機構が被災された人向けの「災害復興住宅融資」を取り扱っています。原則として被災した日より2年間が対象となり、一般の金利より低い水準で融資手数料も無料となるなど住宅再建を後押ししてくれる内容になっています。
火災保険・地震保険の補償範囲
災害の際のローン残債対策として保険は心強い存在です。保険金が給付されれば、その保険金をローン返済に充てることもできます。ここで火災保険と地震保険の順にそれぞれの特徴を整理します。
火災保険
火災や台風などの自然災害で、建物、家財に被害が生じた場合、被害額に応じて補償されます。生命保険の場合は、「死亡保険金3000万円」で契約した際、被保険者が亡くなると、契約通り3000万円支払われます。一方、火災保険などの損害保険の場合は、実際の被害額に応じて支払われることになります。そのため、保険金額3000万円で契約していても、実際の被害額が2000万円であれば、支払われる保険金額は2000万円となります。この点が生命保険との大きな違いです。
よって「保険価額」をベースに火災保険に加入することになります。保険価額とは想定される被害額の上限です。「時価」と「新価」2つの考え方があります。例えば、現在住んでいる自宅が築10年で2000万円程度の価値だったとします。この場合、2000万円が時価となり、想定される被害額でもあります。よって「建物2000万円」の火災保険に加入するというものです。これが「時価」の考え方です。
車が事故などによって廃車となった場合、「20××年式のAメーカーの〇〇」というように中古車を探し購入することはできますが、住宅の場合はどうでしょうか?火災で全壊した後の土地の上に「築10年程度の建物でお願いします」というわけにはいきません。
つまり、新たに建物を建築することになります。よって、現在の自宅と同等のものを新しく建築した場合に想定される金額が「新価」となります。現在はこの新価で火災保険に加入するのが一般的です。
なお火災保険というと建物をイメージする人が多いのですが、家財もしっかり契約しておきたいところです。家財には、家具や家電だけでなく、洋服や靴なども含まれます。日頃生活で使っている家財を合計するとそれなりの金額となります。
建物と家財、最大被害を想定して適正な保険価額を把握し、その保険価額を目安とした保険金額を設定してください。なお、地震・噴火・津波による被害は補償の対象外であるため、別途地震保険に加入しておく必要があります。
地震保険
2011年の東日本大震災、2024年の能登半島地震などもそうでしたが、地震そしてそれに伴う津波の被害は非常に甚大となるため民間の保険会社のみでは対応できない場合が想定されます。これが火災保険で地震や津波が補償の対象外となっている理由です。
とはいえ、地震の多い日本。地震や津波の被害を受けて一切補償されないということでは私たちは安心して生活を送ることができません。そこで政府が民間の保険会社に関与するかたちで地震保険を運営・管理しています。ただし、地震保険単体では加入できないため、火災保険とセットで加入しなければなりません。補償額は以下のように定められています。
また保険金の支払い基準が4パターンに分けられていることも大きな特徴です。多くの被害が同時に生じる中、1つ1つ細かく被害額を算定することが難しく、またそれによって保険金の支払に時間を要してはいけません。そこで以下のように4つの基準に従って保険金が支払われます。
地震保険は火災保険金額の最大50%、建物の場合は5000万円が上限となります。火災の場合は被害額相当が保険金として支払われても、地震や津波の場合は半分までしか補償されません。よって地震保険だけで十分な補償を得られないのです。
地震保険は「地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的」とされています。当面仮設住宅での生活も想定され、仕事もできない状況が長く続き収入が大幅に減ることも考えられます。地震保険はそういった際の助けになればという位置づけなのです。
よって、近年は「地震保険上乗せ特約」など地震保険では足りない部分をカバーできる特約を取り扱っている損害保険会社も増えています。例えば全損や半損など被害が大きい時に火災保険金額の50%を補償するという特約もあります。この場合、通常の地震保険で50%、上乗せ特約の50%と合わせて100%補償されるため、いざという時に安心です。とても魅力的ですが、その分、保険料が高くなりますので、地震リスクの高いエリアかどうか、建物の耐震性などを考慮し、慎重に検討したいところです。
住宅ローン返済を軽減する「自然災害保障特約」とは
ここまで見てきましたように、被害状況によっては公的支援や火災保険、地震保険だけでは十分な備えとはいえません。そこで住宅ローンに「自然災害保障特約」を付けるのも1つの方法です。金融機関によっては「自然災害時支援特約」など名称は異なりますが、いずれも自然災害で全損や半損など大きな被害に遭った場合、住宅ローン返済の負担を軽減してくれるものです。
大きく2つのタイプがあり、1つは「約定返済保障型」です。これは、一定期間分のローン返済額が保障されます。状況に応じて半年や24カ月など、予め決められた期間分のローン返済額が保障されます。つまり、その期間は実質、ローンを負担する必要がありません。もう1つは「残高保障型」タイプです。自宅が全壊した場合、ローン残高の50%が保障されます。つまり、ローン残高が半分になります。
それぞれ通常の住宅ローン金利に0.1~0.5%程度上乗せすることになります。例えば元利均等方式の35年ローンを金利1%で3000万円借りた場合、月々の返済額は8万8944円です。この条件に0.1%金利を上乗せすると月々の返済額は9万392円となり、1448円の負担増となります。月々では1500円程度ですが、35年間での支払利息総額は約61万円の差が生じます。
不確定な将来への備えであるため、特約を付けるべきかどうかはそれぞれの価値観次第だと思います。ただ、何となく心配だからと特約を付けるのではなく、このように具体的に計算し、その金額に対して保障内容が見合っているかどうか、必要性が高いかどうかを事前にじっくり検討することが大切です。
被災ローン減免制度とは
公的な支援金や火災保険などで一定の金額が見込めても、住宅を購入したばかりのケースなど住宅ローンの支払いが重い負担となることもあるでしょう。その場合は「被災ローン減免制度」を検討してください。
被災ローン減免制度は「自然災害による被災者の債務整理」という位置づけです。支援金や義援金は全額、それとは別に地震保険などから支払われる金額を500万円まで手元に残し、それ以外の財産をローン返済に充当し、残ったローンは免除されるというものです。
被災した後、それまでのローンを払いながら、かつ建物を再建し、できる限り被災前の生活環境を取り戻したいと考える人も多いと思いますが、長期的に経済面で非常に厳しい状況が続く可能性もあります。
被災ローン減免制度を活用すれば、建物は被害に遭っても土地は資産として残るため、それらをローン返済に充て、残りを免除してもらうことで、大きなローン返済という負担から解消され、別の場所でアパートを借りるなど新しい生活をはじめることも可能です。
被災ローン減免制度を利用する場合、まずは、住宅ローン借入先である金融機関に相談をしてください。その後、登録支援専門家弁護士に依頼することになります。弁護士費用は一切かかりません。
まとめ
今回の記事の要点をまとめます。
・被災後も住宅ローンは返済しなければならない
・いざという時に備え、損害保険や公的制度を理解しておきたい
・もし被災した場合は「被災ローン減免制度」も視野に
行動ファイナンスという分野において、私たちは自信過剰になりやすいという指摘があり、「自信過剰バイアス」ともいわれています。例えば「今日、車で通勤します。何らかの事故やトラブルに巻き込まれると思いますか?」と尋ねられると、皆さんはどう回答しますか?ほとんどの人が「自分は大丈夫」と答えるそうです。しかし、ニュースになるような大きな事故は限られていたとしてもちょっとした自損事故やトラブルは日々、数多く発生しています。
住宅でも同じことがいえるでしょう。自宅はいつでも落ち着ける場所として在り続けてくれて、ローン返済も特に困ることはないのでは。こう考えている人が多いかもしれません。今回は地震などに被災したケースを取り上げましたが、災害以外にも失業、病気など、住宅ローンの返済に困るような状況はいくつも想定されます。
念願のマイホーム、一生に一度の買い物とあって、こだわりはじめるとどんどん購入額が上がり、結果として住宅ローンも予定していた額を大幅に上回ってしまったというケースは少なくありません。
住宅を購入する段階から「自分は大丈夫」という考え方を取り除き、適正な判断をしていくことが何より大切です。そして災害に対して今回紹介しました経済的な知識はもちろん、避難場所や方法といった命を守るためのリスク管理についてもこの機に向き合ってみてください。
火災保険に関するQ&A
Q:持ち家ではなく賃貸の場合、どのような補償内容が必要でしょうか?
A:賃貸の場合、物件そのものは大家さんが火災保険に加入するため、賃借人は家財の被害に備えて火災保険に加入するのが原則です。ただし、火事を起こした場合、賃借人に重大な過失がなくても大家さんに対しては損害賠償責任を負うことになります。「借家人賠償責任補償特約」などと一緒に加入しておくと安心です。
Q:火災保険の補償内容をいくつか提案されています。それぞれ保険料も違い迷っています。どのあたりに注意してプランを決めるべきでしょうか?
A:本文中にありますように「保険価額」に対して適切な保険金額が設定されていることが前提となります。加えて、水災も意識してください。プランによって水災補償の有無が分かれることが多く、それにより保険料も大きく異なります。「近くに大きな川もないので水災は大丈夫です」と考える人も多いですが、近年のゲリラ豪雨やそれに伴う土砂崩れなどの被害はどのような立地でも考えられます。ハザードマップを確認し、水災リスクを踏まえプランを検討してください。