お金

17年ぶりのマイナス金利解除、預金・住宅ローン・物価への影響は?

経済とお金のはなし 山下 耕太郎

17年ぶりのマイナス金利解除、預金・住宅ローン・物価への影響は?

【画像出典元】「MeshCube/Shutterstock.com」

3月19日、日本銀行(日銀)は、2016年から続けてきたマイナス金利政策を解除し、17年ぶりに政策金利を引き上げることを決定しました。これにより、株式市場や為替市場、私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか。金利上昇が預金金利や住宅ローン、物価や賃金に与える影響を見ていくとともに、過去の利上げの経験から、今後の日銀の金融政策の行方を探ります。

日銀がマイナス金利を解除

日銀は2016年、2%の物価上昇目標達成のため、マイナス金利政策を導入しました。金融機関の当座預金にマイナス金利を適用し、お金の流通を促進することが狙いです。しかし、企業への貸出金利や住宅ローン金利は低下したものの、なかなか物価上昇につながらず、金融機関の収益圧迫や年金運用への悪影響という副作用もありました。

ところが、2024年3月19日、物価上昇目標2%の達成が視野に入ったことを背景に、2016年から続けたマイナス金利政策を解除し、政策金利を0~0.1%程度に引き上げることを決定しました。

株式市場や為替市場などマーケットへの影響は?

日銀の金融政策の方針転換により、日本経済は新たな局面を迎えることになります。金利の正常化が進めば、株式市場や為替市場、私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか。まず、株式市場や為替市場など、マーケットへの影響について解説します。

日銀が3月19日にマイナス金利政策の解除を決定したことで株式市場は一時的に下落しましたが、日本経済の基盤がまだ弱いため、金利の大幅な上昇は見込まれていません。このため、低金利の環境は今後も続くと予想され、株式市場への影響は限定的でしょう。

金利が上昇すると債券の魅力が高まり、株式への投資からの資金引き上げが促される可能性がありますが、日本では金利上昇幅が小さく予想されるため、株式市場からの大規模な資金流出は起こりにくいと考えられるからです。

一方、為替市場では円の価値が上がり、円高になる可能性があります。これまで、海外との金利差を目的としてお金が海外に流れ込んでいましたが、金利差が小さくなることで、そのお金の流出が減ると予想されるからです。

日銀の決定は私たちの生活にも直接関係してくるため、今後の動きを注意深く見守っていかなければなりません。日銀は今回のマイナス金利解除を皮切りに、今後も金利を徐々に引き上げていく可能性があります。物価上昇率が目標の2%に近づいてくれば、日銀は金融緩和の縮小を検討せざるを得なくなるでしょう。

ただし、急激な金利上昇は経済の悪化を招きかねないため、日銀は慎重に金融政策を運営していくと考えられます。

生活への影響(預金金利や住宅ローン、賃金など)

住宅ローン
【画像出典元】「Monster Ztudio/Shutterstock.com」

私たち一人ひとりも、日銀の動きに注意を払いつつ、自身の家計や資産運用を見直すことが重要です。金利の変動が我々の生活に与える影響を正確に把握し、対策を練る必要があります。ここからは、預金金利や住宅ローン、賃金がどうなっていくのかについて解説します。

預金金利は上昇

マイナス金利政策の解除により、多くの金融機関は預金金利を引き上げるようです。例えば、三菱UFJ銀行や三井住友銀行、みずほ銀行は普通預金の金利を0.001%から0.02%にし、20倍引き上げることを決定しました。他行も追随する可能性が高いと考えられます。100万円を1年間銀行に預けた場合、これまでの利率では利息10円(税引前)でしたが、利上げ後は200円(税引前)になります。ただし、その影響は限定的であり、大きな利息収入は期待できないでしょう。

マイナス金利政策解除で住宅ローンの金利はどうなる?

日銀の金融政策変更による影響として、住宅ローン金利の上昇が予想されます。金融機関が長期金利などを基に設定する固定型の金利は、すでに引き上げの動きが見られます。一方、利用者の大半が選択する変動型は、企業向け貸出の基準金利である「短期プライムレート」を参考にしていますが、主要銀行のレートは2009年以降、変更されていません。

ただ、短期プライムレートは、短期市場金利の影響を受けます。今回の日銀の政策金利引き上げを受け、金融機関は変動型住宅ローン金利の引き上げも検討することになるでしょう。

これにより、住宅ローンの借り入れコストが上昇し、家計の負担増加が懸念されます。金利動向を注視しつつ、適切な借入計画を立てることが大切です。

たとえば、3000万円の住宅ローンを金利1%で35年払いにした場合の毎月返済分は8万4685円です(変動金利・元利均等方式)。元利均等方式とは、金利が同じという条件の場合に、元金と利息を足した月々の返済金額が、返済期間の最初から終わりまで、一定で変わらないという返済方法です。そして、総返済額は3556万7804円になります。

金利が0.1%引き上げられて1.1%になった場合は、毎月8万6091円、総返済額は3615万7985円になります。このように、わずか0.1%の引き上げでも総返済額は約59万円の差になります。

そして、金利が1%上昇して2%になると、毎月9万9378円、総返済額4173万8968円となり、約617万円もの差になります。日銀のマイナス金利解除によって金利は上昇傾向にあるので、今後の動向には注意が必要です。

物価や賃金への影響

コインの上を歩く男性
【画像出典元】「stock.adobe.com/jirsak」

日銀がマイナス金利政策を解除したことは、日本経済にとって重要な転換点を迎えたことを示しています。この政策の変更は、物価や賃金への影響も予想されます。

物価への影響

マイナス金利政策の解除が金利の上昇をもたらす可能性があるため、円高が進めば、輸入品の価格低下が見込まれます。これは輸入食品やエネルギーの価格に特に影響し、家計にとっては物価上昇の抑制効果が期待されます。

賃金への影響

日銀がマイナス金利政策を止めると、企業がお金を借りるときの利息が高くなるかもしれません。しかし、物価上昇が続く中、日本の企業は従業員の賃上げを実施する動きがでてきました。

家計の収入が増えると、みんなもっと買い物をしたくなるでしょう。これは、日銀が目指している、給料と物価が一緒に上がっていく良い流れを作り出すことにつながるかもしれません。

過去には利上げ後に景気低迷も

景気低迷
【画像出典元】「stock.adobe.com/kora_sun」

日銀は2000年以降に2度、景気回復を理由に利上げを行っています。しかし、2000年と2006年の利上げは、ITバブル崩壊やリーマンショックによる景気低迷で、すぐに利下げに転じざるを得ませんでした。これらの利上げは拙速な判断だったと批判されてきました。

日銀は、賃金と物価の好循環が見通せるかを慎重に見極めた上で、2007年以来17年ぶりとなる利上げを決定しましたが、個人消費の弱さも指摘されています。このような状況の中、日銀の想定通りに物価や景気が推移していくかどうかが、今後も金利を上げていくかどうかの判断材料になるでしょう。