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相続なんてまだ当分先の話、、ってことにはならない現代事情とは

山崎俊輔のライフプラン3.0時代を生きるルール 山崎 俊輔

相続なんてまだ当分先の話、、ってことにはならない現代事情とは

ひとりっこ、おひとりさまの時代、若者が意識するべき「相続」問題

今回は「相続」の話をしてみたいと思います。

「20歳代に相続の話なんて関係ないでしょう?」と思うかもしれませんが、実はそんなことはありません。むしろ、これからの時代は若い世代が相続をちゃんと考えておくべき時代になっています。

理由のひとつは「ひとりっ子」世帯が増えていることです。あなたが、ひとりっ子であれば、親に何かあったらそれはあなた自身が相続について考えなければならないことを意味します。逆もそうで、あなたにもしものことがあったら、兄弟姉妹がいないため年老いた親は苦労することになります。

もうひとつは「晩婚化」の影響です。あなたの両親があなたを生んだ時、30歳代あるいはそれ以上であった場合、あなたが社会人になったばかりでも、親はリタイア間近かリタイア済みということがあります。仮に親が40歳の時にあなたが誕生したとすれば、あなたが30歳になった時、親は70歳ですから、相続の問題が起きてもおかしくないわけです。

あなた自身が、現在シングルであり、将来もおひとりさまを意識し始めているとしたら、あなた自身に何かあった場合、配偶者がいないわけですから、相続の問題が生じます。

もし両親ともにすでに亡くなっていておひとりさまであったなら、これも大変です。相続順位は配偶者、子、親、兄弟姉妹ときて誰もいなければ甥や姪まで広がります。そうなった時どうするか、自分の相続について考えておく必要があります。

まずは親の相続問題を少し考えてみよう


まず考えてみたいのは「親の相続問題」です。相続の問題、親が体調を崩してから考えるものというイメージがありますが、実は逆で、元気なうちに考えておく方がいいものです。

これは実際にあったケースですが、父親が体調を崩してしまったら、逆に相続の話はしにくくなってしまいました。「もう、オレが死んだ後のことを話しているのか?」とは言われたくないですし、内緒で話をしたとしても耳に入って父親が元気をなくしては、と心配してしまいます。本当は余命もわずかとなっていて本人の意思をしっかり確認し反映するべきタイミングなのに、話し合えなくなるのです。

それでも両親がふたりとも元気であれば、最初の相続問題はシンプルに片付きます。「とりあえず、父の財産は母が全部相続しておいて」とすることで課税の問題がほとんど解決するからです(配偶者の相続は1億6千万円まであるいは相続財産の半分まで非課税となる)。

しかし、いつかは子が親の財産を相続することになります。兄弟姉妹がいる場合、遺産の分割について悩みが生じます。単純に金額を分けるだけでいいのか、介護の面倒を見た兄弟姉妹が多くもらうべきなのか、主たる資産が家のみという場合、そこに住んでいない兄弟姉妹は金銭的にどうするのか、など考えるときりがありません。

しかし、元気なうちに「こうしてほしい」という親の意向を聞いておけば、話し合いが円満に進む可能性が高まります。遺言を作らなくても、家族がみんなで納得すれば、相続はできるのですが、そのための地固めは必要です。

夏に実家に帰って、兄弟姉妹が揃うことがあれば、お墓参りのあとのタイミングを見計らって少し話題にしてみてはどうでしょうか。

もちろん理想的には、遺言証書を作成できればいうことはありません。司法書士等の相談相手を決めておいたり、財産管理について信託銀行に相談するなど(遺言信託)、早めのうちから準備できるステップを進められるといいでしょう。

次に、自分の相続問題を少し考えてみよう

次に考えてみたいのは「自分の相続問題」です。若い世代の場合、相続税が生じるほどの高額の資産を保有していることはあまりありません(またそういう場合は税理士などの相談相手も既にいることでしょう)。

それでも、自分にもしものことがあった時、どうして欲しいのかを何かの形で示しておくことは意義があると思います。

遺書を書く、というと大げさに感じるかもしれませんが、できるだけ軽く考えてみましょう。最近では百円ショップにエンディングノートが売っていて、連絡して欲しい友人の名前や連絡先、スマホの暗証番号やSNSのアカウントなどを書く欄があります。

今の時代、交友関係が家族に分かりにくくなっています。また本人認証ができないとスマホやSNSにはログインできないため、もしものことがあった時、家族は友人に連絡を取りたいと思っていてもそれが叶わず、葬儀が終わってしまうことがしばしばあります。

これまた実際にあったケースですが、趣味系の友人のSNSがパタッと更新されなくなり、電話番号を交換していた友人がひとりだけいたので掛けてみたら訃報を初めて知ったということがありました。家族は趣味のつながりでたくさんの友人がいる、ということを知らなかったのです。

20~40歳代で不慮の事故や病気での突然死が起きる可能性は高くはありません。しかし、もしもの時に備えておく意義はあると思います。

いきなり「オレにもしものことがあったら、このメモの連絡先に連絡して」と話し出すと、親もびっくりするでしょうから、「ネットでコラムを見て気になった」とか「一緒にエンディングノートを作ろう」とかうまく話をしながら、親と情報共有をしてみてください。

自分の財産をすべて寄付する「遺贈」というやり方もある

最後に、相続のお金の話をします。まず、基本的な非課税枠の考え方ですが、基礎控除として3600万円が設定されています。これに法定相続人1人ごと600万円が上乗せされます。ひとり残された親があって、兄弟姉妹が2人だとしたら、親から子への相続は4800万円まで非課税ということです。

不動産については相続のための評価はややこしいので、不明な点があれば税理士や司法書士の力を借りながら手続きをすることになります。相続税が生じない場合も、不動産登記の変更などが必要になることが多々あり、これも司法書士などにお願いします。

2024年4月から、不動産を相続した場合、「相続を原因とする所有権移転登記」の義務化が定められています。所有者不明の土地が増えているという社会問題への対策ですが、放置したことで数十年後の相続がさらに複雑となったり、売却時にも大きな手間が生じるなど、ほったらかしておくメリットは全くありません。きちんと手続きをしておきましょう。


また、相続財産を寄付にするという選択肢もあります。最近注目されている仕組みですが「遺贈」と呼ぶものです。これは亡くなった後の財産について、特定の団体(あるいは個人)に与える仕組みです。遺言(公正証書遺言が望ましい)に明記することで、法定相続より優先して行うことができます。公益法人等への遺贈は相続税の対象外となります。

ある人は「自分にもしものことがあった時、ほとんど交遊のなかった遠い親戚に相続がされるのはどうもスッキリしない。それなら葬儀代等を引いた残りの財産は、世界の貧困問題に取り組む○○に寄付しちゃいたい」と思いつき、遺言をしっかり作ったそうです。

自分自身に寄付の希望があればそうした意思表示をしてみたり、親にそうした寄付の意向があるようならそのための準備をしておくのも、相続についての事前準備です。相続について考える時、合わせて検討をしてみてはどうでしょうか。