5年に一度の財政健康診断、年金制度の今後を検証し見えてきた事実
未来の年金制度、本当に大丈夫か徹底的にシミュレーションを実施
7月3日、厚生労働省は年金財政検証結果を公表しました。これは、5年に一度、国の年金制度の将来見通しをシミュレーションしたものです。年金制度は、経済見通しや雇用状況、少子化や長寿化などの影響を受けますので、これらの変化を踏まえて未来の予測を行い、必要に応じた改正の議論に役立てます。
今回の結果は、5年前の結果より安定的なものとなったことが話題となっています(あるいは、不安を煽れない内容なのでスルーされています)。
ライフプラン3.0世代あるいはZ世代の皆さんはあまり印象にないでしょうが、10年前には年金不安を煽るニュースが溢れていました。日本の年金制度はお先真っ暗で破綻も避けられない、という印象が植え付けられたものです。
それに比べると今回は「不安はあっても、あまり大きくなさそうだ」というような断り書き付きの記事が出ていたり、不安ばかり煽る報道が減っています。
もちろん、不安を訴える記事もありますが、政府のやることの全てを否定的に捉えるメディアの記事だったりするので、あまり気にしなくてもいいでしょう。
制度全体としての維持には全く問題なし
まず、若い世代に理解してもらいたいことがあります。それは「年金破綻はもうない」ということです。
「少子高齢化が進展するので、制度が支えられない」という意見は昔からずっとありますが、女性と高齢者が国の予想以上に働く社会になったことで、「現役1人が老人1人を肩車で支える」ようなことにならないことが分かってきました。
ざっくり言えば、現在の「現役世代(働き手):年金世代」の割合はこれ以降大きく変化しないので、現状で維持できている制度(特に大きな赤字というわけではない)が将来維持できないはずがない、ということになります。
また、「年金積立金は枯渇する」のような脅しも10年位前にはありましたが、現実には全ての年金積立金を足すと300兆円を遥かに超えています。こんな巨額の積立金を持っているのは日本とアメリカ位です。これでもし不足というなら世界中のほとんどの国は年金制度が潰れることになってしまいます。しかしそうはなりません(むしろ先進国でも積立金ほぼゼロという国が多かったりします)。
多くの場合、年金破綻論を煽っているのは視聴率競争に晒されているメディア(個人の配信も含む)か、政府や与党の批判を目的としている人達か、何らかの金融商品セールスを行いたい金融機関です。
私たちが政府に対してどちらかといえば懐疑的であることもあって、こうした批判は人気がありますが、そこに悪質な金融商品のセールスを混ぜ込む人達がいますので、安易に年金破綻論を語る人については注意した方がいいでしょう。
むしろ若い世代の年金額が増える可能性も!?
一般的には「若い世代は年金が減る」というイメージが強いと思います。いわゆる世代間の不公平といわれる問題です。
ところがこの世代間不公平も現実とズレてきていることが分かってきました。というのは国民年金だけをもらう人達、すなわち自営業者、専業主婦の立場にある人が大きく減ってきているからです。
特に女性の年金水準はこれからどんどん向上する見込みが示されています。例えば今年金を受け始める世代の女性は「専業主婦の時代が長い」という人が多く、老後の年金も国民年金のみ(あるいはわずかな厚生年金が上乗せ)という人が中心です。よく「保険料負担ゼロでお得」と言われますが実は年金は多くなかったのです。
しかし、現状ではほとんどの女性が会社員として働いています。パートや非正規でも多くの人が厚生年金の対象となり始めています。つまり厚生年金をしっかりもらえる女性が増えていくわけです。これを年金額で試算すると、はっきりします。
1959年生まれの女性(現在65歳)の年金額のボリュームゾーンが月7~10万円(平均12.1万円)だったのですが、2004年生まれの人たち(今20歳)の将来予想では、月20万円以上年金をもらう人たちがほぼ3分の2になるというのです(平均22.5万円)。
男性は女性ほど急激な変化はないものの、それでも長く会社員をしている人が増える要素もあって(60歳代以降の仕事の影響がある)、年金額は今の世代より増えると試算されています。
おそらく、多くの人の抱いているイメージ「若い世代の年金が減る」が変わる数字ではないでしょうか。
従来の年金に対するイメージを変えてみよう
同じ制度だけで比較すると少し減らされていくはずの年金制度なのに、今の高齢者とこれからの働き盛りの世代では、制度への加入状況が異なるため、もらう年金額は全く違ってくるのです。
なんとなく騙されているように思えますが「厚生年金に入っていること」「長く働き、長く保険料を納めること」「(できるなら)多くの年金保険料を納めること」は、いずれも個々人の年金額を大幅にアップさせる選択肢で、それが試算にもちゃんと現れているのです。
これからの時代は「自分の年金額が昔より多い女性」がたくさん増えますし、「国民年金しかもらえない男女」は少数派になります。
同じ理屈では「会社員の夫と専業主婦」という夫婦が減少し、「会社員の夫と会社員の妻という夫婦」も増えることになります。これも2人分の厚生年金、2人分の国民年金分をもらう夫婦が増えるので大幅な年金増になります(夫婦で厚生年金をもらうことは、それだけで「老後に2000万円」を準備する位の価値があります)。
実のところ、日本の年金制度は世界的にもよく工夫されています。世界的にはトップクラスの長寿国でありながら、むしろ世界的には早期に支給開始される制度をうまく維持しているのです。
例えば、アメリカは健康寿命*67歳なのに、年金受給開始年齢は67歳に引き上げています。日本の健康寿命は74歳ですが年金は65歳からもらえます。体が満足に動くうちから年金をもらって老後を楽しむ時間があると言えます。
*「健康寿命」とは日常的・継続的な医療・介護に依存しないで、自分の心身で生命維持し、自立した生活ができる生存期間のこと。
年金制度と言うと、とりあえず悪口を言いたくなるものです。またSNSやYouTube等ではネガティブなことを言う内容がたくさん流れてくるかもしれません。しかし年金制度を疑ってかかるばかりではなく、むしろポジティブに捉えてみたいものです。
「日常生活費は死ぬまで国が支えてくれるから大丈夫(制度は潰れない)、旅行や趣味やゆとりのための予算は自分でリタイアまでに資産形成しよう(会社員の多くは退職金ももらえる)」と整理すれば、それほど老後は怖いものではないのです。