働き方の大変革が起こる?雇用保険の改正、私達にどう影響する?
監修・ライター
近年、働き方の多様化が進む中で雇用保険の役割はますます重要になっています。雇用保険は、失業時の生活を支えるだけでなく、再就職やキャリアアップのための支援も行っています。
しかし、コロナ渦を経てリモートワークやフレックスタイムなどの新しい働き方が広まったことに加え、キャリアアップや育児休暇などのニーズも高まった結果、現行の雇用保険は改正され、2024年10月からは段階的に新しい制度に移行していくことが決まりました。
そこで本記事では、雇用保険がどのように改正され、私たちの生活にどのような影響が及ぶのかについて解説します。
改正雇用保険法の概要
2024年5月10日に可決・成立した改正雇用保険法は、多様な働き方を支えるための大きな変革を含んでいます。主な改正点として、以下の項目が挙げられます。
- 雇用保険の適用拡大
- 自己都合離職者の給付制限の見直し
- 教育訓練給付の拡充
- 育児休業給付の給付率引上げ
- 育児時短就業給付の創設
- 就業促進手当の見直し
これらの改正は、働く人々にとってどのような影響を及ぼすのでしょうか。以下で詳細を見ていきましょう。
雇用保険の適用拡大
今回の改正で最も注目されるのが、雇用保険の適用範囲の拡大です。これまでは週20時間以上働く人が対象でしたが、2028年10月からは週10時間以上働く人も雇用保険の対象となります。これにより、多くのパートタイムやアルバイトの方々も雇用保険の恩恵を受けることができるようになります。
例えば、コンビニや飲食店でパートとして働く主婦や学生、ダブルワークをしている人達が、この適用拡大によって保護されるようになります。これまで非正規雇用の労働者は、失業時に十分な支援を受けることが難しかったのですが、今回の改正により、失業手当や育児休業給付などの各種給付を受け取ることができるようになります。
この変革は、特に非正規雇用で働く人々にとって大きな安心をもたらし、失業時にも経済的な支援が受けられるようになります。結果として、非正規雇用者の生活安定が図られ、働く意欲も向上するでしょう。
自己都合離職者の給付制限の見直し
自己都合で離職した場合、これまでは失業給付を受けるために2カ月の給付制限がありました。しかし2025年4月からは、自ら教育訓練を行った場合はこの制限が解除され、即座に給付を受けることができるようになります。また、特に教育訓練を行わない場合でも給付制限期間が1カ月に短縮されます。
これにより例えば、スキルアップのために自主的に離職した場合でも教育訓練を受けることで給付制限を受けずに失業手当を受け取ることができます。この変更は、再就職活動をスムーズに進めるための大きな助けとなり、経済的な不安を軽減することができます。
さらに給付制限期間の短縮は、離職後の経済的な負担を軽減し、再就職への道をより迅速に進めるための支援となり、離職後も安心して再就職活動に集中できる環境が整います。また、仕事を辞めてもすぐに失業給付を受けられるため、雇用の流動化が促進され人材と仕事のミスマッチが減ることも期待されます。
教育訓練給付の拡充
教育訓練給付も大幅に拡充されます。2024年10月からは、給付率が70%から80%に引き上げられ、さらに、教育訓練中の生活を支えるための給付も新設されます。具体的には、教育訓練を受けるために仕事を休む場合、その期間中の生活費を支援する「教育訓練休暇給付金」が2025年10月から支給されるようになります。
これにより、キャリアアップを目指す人達が安心して学びに専念できる環境が整います。例えば、ITスキルを身につけたいと考えている人が、フルタイムの仕事を辞めて専門学校に通う際に、この給付金を受け取ることで生活費の心配をせずに学業に集中できます。
また給付率の引き上げにより、受講費用の負担が軽減されより多くの人が教育訓練に参加しやすくなります。これにより労働者のスキルアップが促進され、結果的に労働市場全体の競争力向上に繋がります。
育児休業給付の給付率引上げと育児時短就業給付の創設
育児休業給付も改善されます。2025年4月からは、育児休業中の給付率が引き上げられ、育児時短就業給付も新設されます。育児休業給付の給付率引上げにより、休業開始から180日までは賃金の80%が支給され(現行は67%)、その後も67%が支給(現行は50%)されるようになります。
この改正により育児休業をさらに取りやすくなり、特に男性の育児休業取得が促進されることが期待されます。育児休業中の経済的負担が軽減されることで、家計の心配をせずに育児に専念できる環境が整います。
さらに2歳未満の子を育てるために時短勤務をする場合には、時短勤務中の賃金の10%が「育児時短就業給付金」として支給されるようになります。これにより育児と仕事を両立しやすくなり、特に共働き家庭にとって大きな支援となります。
例えば、保育園に通う子供を持つ親がフルタイムから時短勤務に切り替える場合、この給付金があることで収入の減少を部分的に補うことができ、安心して時短勤務を選択できます。
就業促進手当の見直し
就業促進手当については見直され、より現状に即した内容に変わります。現行では、雇用期間が1年に満たない有期契約の仕事などに早期再就職した場合の手当として、就業手当が支給されています。これが、2025年4月に廃止されます。
また、失業保険の給付を受けていた人がその期間中に就職し、6か月間以上雇用された場合において、賃金が離職前より低い場合に支給されていた就業促進定着手当が、現行の「基本手当支給残日数の40%」から「基本手当支給残日数の20%」に、2025年4月からは引き下げられます。
該当する人にとっては厳しい改正となりますが、教育訓練などは充実されるため、そちらを活用していけばそれほど厳しい状況にはならないでしょう。
働き方が変わる?私達のメリット
今回の改正は、会社員として働く人々に、たくさんのメリットをもたらします。まず、雇用保険の適用拡大により、多くの非正規労働者が保護されるようになります。これにより失業時の生活が安定し、安心して働くことができます。
また教育訓練給付の拡充により、キャリアアップのための学びがしやすくなります。例えば、資格取得を目指すために専門学校に通う際の受講費用や生活費が支援されることで、経済的な負担を軽減しながら学業に専念できます。
さらに育児支援の強化により、育児と仕事の両立がしやすくなり、働き方の選択肢が広がります。特に育児休業中の給付率引上げや育児時短就業給付金の新設により、育児を理由に仕事を辞めることなく家庭と職場のバランスを取りながら働くことが可能になります。
これらの改正は、働く人々が自分に合った働き方を選び、安心して働ける環境を整えるための重要なステップです。特に若い世代や女性労働者にとっては、柔軟な働き方が可能になることで、キャリアとプライベートの両立がより現実的なものとなるでしょう。
ただし、企業側の負担は大きくなります。これまで加入義務のなかったアルバイトやパートの人達の保険料も負担することになるため、経営状況の芳しくない中小零細企業の資金繰りは今以上に苦しくなることは避けられません。
こうした企業に対するサポートはまだ公表されていませんが、いずれ何らかの支援は必要となるでしょう。