東日本大震災から14年の月日が経った。

2011年の5月に訪れた時は、瓦礫がどっさりと山積み。異様な匂いが街に充満していた。その瓦礫のひとつをも動かせないワタシ（中村修治）に出来ることなどない。茫然とするしかなかった。

2014年の6月に訪れた時は、街が動き出していた。
復興の予算がインフラを整え直し、街に日常が戻りつつあった。

2025年2月に、再び気仙沼を訪れた。そのレポートをここに公開。読者のみなさんと一緒に『創造的復興』とは、何だったのか!?を一緒に考えてみたい。

高ーい防護壁から見えるものは!?

大津波の被害を受けた海沿いの街には、巨大防波堤となる防護壁が張り巡らされている。街から望む海の景観は、5～7ｍの壁に遮られていた。気仙沼市の震災後のテーマは「海と共に生きる」。"共に生きる"とはこういうことなのか!?なんとも皮肉な光景だ。

現地の方の話を聞くと、どうやら政府主導の復興策は、土木工事がセット。遠くに見えている壮大な三陸道も然り。街の一刻も早い復興を望むなら、この巨大防波堤を拒むことはできないという実情があったらしい。

東北の海と暮らしてきた人達は、そもそも震災の時って、自然の脅威って、人間の力ではどうしようもないくらい凄まじいな…って実感したので、防潮堤全般について、作ってもしょーがねーよ、とは何処かで感じていた。でも、街の復興が第一なら、巨大防波堤も承諾するしかない。

では、あの取ってつけたような覗き窓は!?という問いに、気仙沼に住む若者が答えてくれた。

「当然『巨大な壁で海が見えないこと』がむしろ危険ではないか？みたいな議論の中で生まれたのが覗き窓付防潮堤。少なくない人達が『そーゆーことじゃねーよ！』とずっこけつつ、住民参加とか、住民の声を聞きました的案件の酷さに度肝を抜かれたというか、逆に腰砕けというか…あれって、あきらかに『行政側の善意』なんですよ（笑）」

「防潮堤の利権もマクロで考えたら、元請け・下請けの違いとかも含めて利権なんでしょーけど、 明らかにこの14年、『公共事業』として機能しました。でも10年も経つとダンプカーとか目に見えて減って。借り上げだったアパートはガラガラとか、一気に地域経済ピンチです（笑）いや～難しい」

復興というお題目は、最高の善意だ。ヒトは悪いことより、良いことの方に積極的に加担する。根っから悪い人ではない者が集まって、根が深く絡み合った巨大な悪が出来上がっていく。善意という後ろ盾に、人間はエスカレートする。悪事は、善意を背負って千里を走り、迷走するのである。利権で固められた巨大防波堤の覗き窓から見えているのは、さまよえる善意だ。

やることはやったけど…。

気仙沼という街に、日常は戻っている。電気は灯る。水も蛇口を捻れば出る。下水道の心配もない。しかし、仮設の店舗は、そのまま営業中。各店舗の落ち着く場所は、まだ、定まっていない。仮設のままである。

復興のシンボルとなるような小規模な商店&飲食街も出来上がっている。その名も「Kesennuma Amway House」。資本に余裕がある民間企業が支援を行い、施設の冠になっている。

夜になると気仙沼港に隣接する復興予算が注ぎ込まれた商業施設には、煌々とイルミネーションが灯される。しかし、お客さまがいない。静か過ぎる。

創造的復興の名のもとに“やることはやった”結果がこれである。みんなで話し合い、予算を分け合い、ひとつひとつカタチにしてきた。でも、戻ったのは生きているという日常であって、大きな夢に向かっているという前向きな日常ではない。若い人達を街に留めることができる創造性は、ここにない。

誰かに文句を言える筋合いはない。受け止めるしかない。やることはやったと自分達に言い聞かせるような静けさだけが聞こえてきた。

“不自然さ”は、創造的か!?

2025年2月13、14日の一泊二日の気仙沼滞在。新たに見えてきたものは、とってつけたようなものばかりだった。総じて“不自然”なのである。この不自然さこそが“創造的”ということなのか!?えっ!?これでいいのか!?

今回、気仙沼を効率的に巡るアテンドをしてくれた友人がススメてくれた喫茶店があった。珈琲専門店「ヴァンガード」である。朝に行くと面白いですよと言われていたので、バレンタインデーの9時半頃に訪れた。朝の7時半～午後1時半の6時間だけ営業をする喫茶店。外装も内装も昭和のまんま。カウンターは、近所の爺さん達が陣取っていた。マスターも、フロアーを回すスタッフも、爺さんである。

聞くところによると、大震災の影響で休業、その後再開するもすぐにマスターも、雇われマスターも逝去。数年前に、常連さん達数人で復活させた自治喫茶店だというではないか!?行政の復興予算などアテにせずに自治で蘇った「ヴァンガード」は、しょーもない世間話と笑い声に包まれていた。カウンターの爺さん達は、10時ちょうどに立席。働く市場や工場へと消えていった。実に“自然”な光景だった。

お勘定をする時にレジを打つ爺さんから「どこから来られました!?」と声を掛けられた。福岡からだと答えるとひとしきり世間話となった。最後に「気をつけて」と別れの挨拶まで。気仙沼に来て唯一の声掛けだった。実に“ナチュラル”だ…。

“街じまい”という戦略も必要だろ!?

珈琲専門店「ヴァンガード」で美味しいサイフォン珈琲を頂きながら考えた。『最高の善意には最高の悪意が必要だ』。哲学者ニーチェの名言に従って問題提起するのなら、日本はそろそろ「街じまい」のような、実に“自然な”戦略を推進する必要があるのではないか!?と。

復興の名の下に、創造的という耳心地の良いキーワードの下に、実に“不自然”なものを量産するより、どうキレイに閉じていくのかの議論を地方の行政に推奨することも大事なことではないのか!?

さまよえる善意の果ての空虚ほど、
手に負えない。
不自然さを産み続ける。