ゲームだけを続けてきた。 本気で遊び続ける「プロ」としての執念。【MONEY TALK CASE.06 ガチくん】
さまざまな分野の「プロ」に、仕事やお金についての話を聞く「MONEY TALK」。今回はプロゲーマーの「ガチくん」にインタビュー。2018年にレッドブルとスポンサー契約を交わした選手で、同年12月にはアメリカ・ラスベガスで開催された格闘ゲームの世界大会「カプコンカップ2018」では見事優勝。25万ドルもの優勝賞金を手にした。
国内でも「eスポーツ」という名称で競技としての理解が深まりつつあるとはいえ、ともすれば「遊んでいる」だけと思われることもあるゲームの世界。そうした世界でプロとして闘っていくことを決めたきっかけとは何だったのか、また「プロ」になったことで彼をとりまく環境はどのように変化したのか。
故郷・広島でゲームに没頭していた時代を振り返りつつ、現在にいたるまでの話を聞いた。
(こちらの記事は、2019年4月にTHEO[テオ]サイトに掲載された文章です。)
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格闘ゲーマーとしての目覚め
―― 現在プレイされているのは「ストリートファイターV(以下ストV)」ですが、このゲームとの出会いはどんなものだったんですか?
もともとは、中学生のころからゲームセンターで「DrumMania」などのリズムゲームをよくプレイしていたんです。ですが高校生になる頃には、ただひたすら自分のスコアを上げていくだけのゲームに飽きてしまって。そんなときに制作発表されたのが「ストリートファイターIV(以下、ストIV)」。ストリートファイターシリーズは知っているし、小さいころには「ストII」で弟と一緒によく遊んでいたので、アーケードでプレイできるならとチャレンジしたのがきっかけです。
―― 当時から強かったんですか?
いやいや、全然(笑)。波動拳の出し方くらいしかわからないし、連携技? そんなのわからん! というくらい弱かったです。でもゲームがとにかく好きだったので、練習しているうちにどんどん手に馴染んできて、実力が上がっていきました。
―― ゲームの大会に出るようになったのは?
当時は高校生で、広島に住んでいました。広島は地方都市なので、同じくらいの情熱をもってゲームをプレイするような友達はいなかったんです。でも市内なんかにはやっぱりうまい人がいて、コミュニティができていたりして、その輪に入りたくて周りをチョロチョロしていました(笑)。そうするうちに、その中の一人から「お前、やる気あるんか?」って。
―― ゲームの世界で「やる気」っていうワードが出るところに本気度を感じます……。たかがゲームとは言えないですよね。
そうですね(笑)。その人に「はい!」って即答して、「闘劇」という格闘ゲームの全国大会があることを教えてもらい、さっそくエントリーしました。こんな大会があるんだって、このとき知ったんです。
くすぶった思いを抱えながら過ごす日々
―― 大学への進学や就職についてはどんなふうに決断されたんですか?
僕、バカなんですよ(笑)。ゲームが好きだからこれは続けたい、楽しいことだけやっていられたらいいっていう考え方だったんです。中学も高校もそんな感じで過ごしてきて、ゲームができればいいし、家業の手伝いでもしようかなと考えていました。
家族から「大学には行け」と言われたので、あまり深く考えずに大学には入りました。でも結局、やる気がなかったり通学が面倒だったりで辞めてしまって。大学の近くにゲーセンがなかった、っていうのが大きな理由なんですけどね(笑)。正確に言うと、強いプレイヤーがいなかったんです。強い人と闘いたいっていうのはずっと考えていたので、そうすると大学の近くのゲーセンよりも、広島市内にある大きなゲーセンのほうが合っていた。
―― そのときから、ゲーム中心の生活になっていたんですね。
どうでしょう。やっぱり趣味でしかなくて、プロになれるなんて思ってはいませんでした。ときどさんやウメハラさんのような一部の有名ゲーマーは別格の存在だと思っていたし、僕は「広島では強い」けど、東京に行けば自分レベルのプレイヤーはごまんといることも知っていました。だからこそ、「プロになる」と思ったことはなかったんです。ただ好きだったので、ゲームを続けたいなとは思っていました。
―― 大学中退後は、どんな生活を?
21歳頃から、ゲーム関連で知り合った福岡在住の人に誘われて福岡に2年間住みました。広島よりも大きい都市なので強い人も多くて、ゲームの環境としては整っていましたね。広島に戻ってからは、家業を手伝いながらゲーム、ゲーム、ゲームの日々でした。
―― ぶっちゃけ、お金に困ったことはなかったですか?
基本的にずっと困ってましたよ!(笑)でもゲーム以外にこれといった趣味もなかったので、お金を使うことも少なかったし、実家に住んでいたこともあって衣食住に困るようなこともなくて、「お金がなければゲームしてればいいや」って。計画性もありませんでした。
東京でレベルの差を痛感。25歳の上京。
―― プロになりたいとは思っていなかったというガチくんですが、上京を決めたのはどんないきさつがあったのでしょうか。
実はここにはゲーム側の事情もあって。僕がプレイしていた「ストIV」に続く新作が出ることになりました。これがストVですが、ストVはPS4のような家庭用ゲーム機かPCのみの対応で、ゲーセン(アーケード機)でプレイできなくなってしまったんです。
これはファンの間ではかなり大きな出来事で、ゲーセンが好きでゲーセンに来てストIVをプレイしていた人のなかには「VではなくIVで続ける」と新作に手を出さない人も多かったんです。僕も最初はそう感じていましたが、ストVをプレイしたい、もっと強くなって続けていきたいという気持ちがどんどん大きくなって、思いきってゲーセンから家庭用にシフトしました。
そうすると何が起こるかというと、今まではゲーセンに集まってみんなでプレイしていたのを一人で黙々とやることになるんです。日々オンライン対戦で鍛えていましたが、筋トレみたいなもので……。あるとき東京の大会に招待されて、そこで打ちのめされました。レベルが違いすぎたんです。
―― 東京はレベルが高いんですか?
そうですね。東京にはプレイヤーも多いので、オンラインで相手を見つけなくてもみんなで集まってオフライン対戦ができるんです。同じようにして練習もできる。「そんなの、誰だって強くなるだろ!」って、すごく悔しかった(笑)。でもそれで、やっぱりもう一段上をめざすなら東京に行こうと気持ちが固まり、当時付き合っていた彼女と一緒に東京へ引越しました。
また、その頃から格闘ゲーム関連のイベントやリーグ運営、配信を行っている「TOPANGA」のプレイ配信に出演するようになり、出演料をもらえるようになったので、少しずつゲームが生活の糧になっていった感じですね。
―― 2018年11月にはレッドブル社とスポンサー契約、プロの世界に入ることになりましたが、変わったところはどんなところですか?
遠征費などの金銭面ももちろんですが、大会でのサポートが思っていた以上に助けになっています。大会ではスペースの移動も多く、アマチュア時代には自分で全部調べて移動したり、手続きをする必要があったんです。ですが、レッドブル所属になってからはスタッフが同行してくれて、会場内の案内などのサポートをしてくれるんです。ノドが渇いたらレッドブルもくれますしね(笑)。こうしたサポートのおかげで、より試合に集中できるようになったと実感しています。
それから、アスリートとしてのプロモーション活動に必要な費用も負担してくれます。何か実現させたいイベントやプロジェクトがあれば、それにも協力してもらえます。一人ではできないようなことも、力を借りて実現できると思うとワクワクしますね。
25万ドル。賞金の使い道は「正直、悩んでる」
―― そんな折、2018年に開催されたカプコンカップでは数多のトッププレイヤーを倒して優勝に輝きましたが、賞金25万ドル(約2700万円)の使い道は決まりましたか?
今までの人生で手にしたこともなければ、想像したこともなかったような金額なので、いざもらえるとなると正直悩みます。今までは「お金がないなら、ないなりに」と節約したり工夫しながらの生活だったのに、25万ドルって、だいたい僕がやりたいと思っていたことはできてしまう金額なんですよね。
そこで、ほかの先輩方に「どうしましょう」って聞いてまわっています(笑)。ある人は「このeスポーツ業界をもっとよくするために使う」とか、またある人は「自分磨きのために使う」とか、不動産を買うという人もいます。僕自身はそういった話を聞かせてもらいながら、まだ考えている途中かな。
―― 余裕があるとはいえなかった地元時代と比べて、金銭感覚が変わったと感じることはありますか?
一緒に上京した彼女と結婚したので、お金をきちんと貯めなきゃ、という気持ちは以前よりも強くなりました。家庭を守るというと大げさですけど、ちゃんとしようって思うことは増えたと思います。
ただ、昔なら「いいな」と思った服があっても「こっちの方が安いし、まぁ悪くないし、こっちでいいか」と、ワンランク下げた別のものでよしとしていたのを、最近は高くても「いいじゃん! 買っちゃえ」とそのまま買うようになっているのも事実なんです……。これは、ダメな傾向での変化かもしれない。
―― プロゲーマーになるといい服が着られる、と夢を持ってくれる人がいるかも。
だといいですね(笑)。大会やメディアに出るときにはレッドブルの企業ロゴが入った指定のパーカーなどを着るようにしていますが、私服も昔よりきちんとしたものを選ぶようにはなりました。これも「自分磨き」のための投資といえるのかな。とはいえ、気を抜かずに貯金も続けていきたいですけどね。
新しいプレイヤーにどんどん"乱入"してほしい
―― それまで趣味の一環として打ち込んでいたゲームの道で「プロ」になりましたが、「プロとして自分のプレイで対価を得る」という点から、意識していることはありますか?
言動は気をつけるようになりました(笑)。レッドブルからは「気にしなくていい」と言われていますが、悪い印象をつけてもいいことはないと思うので意識していますね。
それから、一方的にスポンサーとして支援してもらうだけでなく、僕自身もレッドブルのプロモーション方法を常に考えています。ロゴの入ったウェアを着ることもそうですが、例えば今度挙げる結婚式では「シャンパンタワー」ならぬ「レッドブルタワー」を計画中なんです。レッドブルを知らない人でも楽しんでもらえるし、一緒に名前を知ってもらえる。僕の方からもレッドブルのブランディングに力を貸せる方法はないか、と考えるようになりました。
―― いま、ゲームは"仕事"ですか?
全然! 感覚が鈍らないように毎日コントローラを触るようにはしていますが、気づけば6時間や7時間経っていることもよくあります。ストリートファイターってシリーズも多くて完成されたゲームだけど、キャラ一人とってもいろんな闘い方があって、プレイヤーみんなが攻略法を考えたり、その対策をまた考えたり、と日々進化し続けています。だからこそ大会でも実力が拮抗していて面白い。毎日そんなことを考えながらプレイしていますが、これは仕事で強制されてたらきっとできない(笑)。好きだからこそ続けられるんだと思います。
―― プロをめざす人に向けて、アドバイスなどはありますか?
僕らは最初からプロになりたかったわけじゃないんです。ただゲームが好きで、ほかの何かよりも優先してゲームに没頭してきた。だから強くなるのは当たり前で、強い人はどんどん増えるはずです。これからは「強い」だけじゃ一歩抜け出すのは難しくなるはず。
下の世代を見ていると「自分のアピールポイントがあるとすごく強いな」と思います。トークが上手だったり、配信が人気だったり、そういったプレイ技術以外で目立てる部分があると企業の目にもとまりやすいし、プロへの道も開きやすいのかな。
僕たちがプレイしている格闘ゲームの世界についていえば、上の年代の人がとにかく強いんですよ。僕は現在26歳で中堅くらいの年齢ですが、格闘ゲーム界では30代の選手がたくさん活躍しています。一方、下の世代は……というと、まだまだこれから。
ゲームって若い人のほうが上手くて強いというイメージがあるかもしれませんが、格闘ゲームについては別で、経験や技術がモノを言うんですよね。でも大会でいつも同じ顔触れだと観ている人もプレイしている選手もつまらなくなってしまうだろうし、若いプレイヤーにもどんどんチャレンジしてもらって、新しい風を吹かせていきたいですね。
ガチくん / プロフィール
1992年4月23日生まれ。広島県出身のプロゲーマー。「これだけはずっと続けてきた」というゲームの道を突き詰めるため、2017年に上京。2018年にレッドブルと契約。プロゲーマーとしてのキャリアをスタートし、米国で開催されたカプコンカップ2018では国内外の強豪を破り、優勝を果たした。
毎週水曜日 21時~ TOPANGA TV https://www.openrec.tv/user/topangatv にて配信中
毎週金曜日 21時~ ガチくんに! https://www.twitch.tv/impresswatch にて配信中
<提供>THEO byお金のデザイン
interview&writing:藤堂真衣
photo:きるけ。
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