福岡は本の街。今、九州の出版事情がアツいってホント?
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監修・ライター
福岡は地方都市の割に、出版社が多いと聞きました。福岡はもちろん九州を見渡した場合、地元ならではの動きやヒット作ってあるのでしょうか? 普段なかなか知る機会がないので、ブックスキューブリックの大井さん、教えてください!
Q1 地元の出版業界で話題に上がった印象的な出来事はありますか?
A1 2015~2016年にかけて、文芸誌の発行が相次ぐという現象が起きました。九州発信の文芸誌が3冊、しかもミニコミではなく、商業出版物として文芸誌が続出するのは異例のこと。新聞でも取り上げられるほど話題になりましたよ。
東京では本が売れないとよくいわれていますが、九州はそんなのは気にせず、書き手も出版社も自分たちのペースでやるようなムードがありますね。きっとこの3冊も「売れる売れない関係なく、自分たちが出したかったから出した」という感じなのでしょうか。そういうシンプルな考え方が地元ならではというか、素直で良いですよね。それにしても、3つの文芸誌の発行タイミングが同じだったのは、ここ最近の興味深い動きだと思いました。
Q2 それは知らなかった! その話題の3冊について教えてください!
A2 まずは、全国的に有名な熊本の橙(だいだい)書店が発行する文芸誌『アルテリ』。地元の思想史家・評論家の渡辺京二さんの「熊本から雑誌を出そう」という一言をきっかけに昨年創刊され、1号目は重版するほどヒットしました。昨夏出た2号目も執筆者が豪華で、責任編集者であり橙書店を営む田尻久子さん、小説家・詩人の石牟礼(いしむれ)道子さん、小説家・建築家の坂口恭平さんなど、橙書店にゆかりのある11人。熊本以外だと、雑誌・SWITCHの編集長、新井敏記さんも寄稿しています。短編小説、短歌、訳詩文など読み応えがありますし、2号目は熊本の震災を受けての作品が多く、自分の中で心を動かされるものがあるかもしれませんね。
次も熊本の出版社で、伽鹿舎(かじかしゃ)が出した文芸誌『片隅』です。現在は3号目が出ていて、私のお気に入りの画家・田中千智さんが装画を担当。谷川俊太郎さんなどの大御所から新人作家まで、ノンジャンルの作品を楽しめます。タイトルは“日本の片隅から発信”という意味合いを込めているそうですよ。この出版社はとてもユニークで、地元の書店を元気にするという壮大な目標と、“九州だけしか流通させない”という強いポリシーを掲げています。スタッフはそれぞれ本業のある勤め人ばかりで、出版業は副業なんです。すなわち、人件費をあまりかけずに贅沢な本づくりが実現できて、販売価格も抑えられるというわけ。これも本をより多く買ってもらうための取り組みで、書店の活性化へと繋げているのです。
そして、福岡の出版社・書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)から出た文学ムック『たべるのがおそい』です。これも有名な執筆家が参加しています。創作や短歌、エッセイのほか、円城塔さん×やくしまるえつこさん、西崎憲さん×穂村弘さんといった共作も注目ポイント。ちなみに、1号目に収録した今村夏子さんの作品「あひる」は芥川賞候補にノミネートされ、全国的に話題を呼びました。同誌は年2回、4月と10月に刊行を予定しているので、今年の春の新刊も楽しみです。
3冊とも有名・無名の執筆家をミックスさせているところがおもしろくて、人気作家に惹かれて読んでみたら別の無名作品に惚れ込む、なんて予期せぬ出会いも期待できそうですよ。そんなに本が分厚くなくサイズも小さめ。装丁もしゃれているので、気軽に読み始められると思います。
Q3 へぇ~。出版社の特徴もさまざまなんですね! 福岡の出版業界について、もっと知りたくなってきました!
A3 実はこんな本があります。我々が作った『本屋がなくなったら、困るじゃないか 11時間ぐびぐび会議』という分厚い本です!
「なぜ本屋が街から次々と消えていくのか」という素朴な疑問から、業界内の構造的問題、未来に向けた改善策などについて、2日間、のべ11時間にわたり、書店・取次・出版社で働く12人の車座トークをまとめたもの。これは、私も発起人として関わっている福岡の本のお祭り「BOOKUOKA」の実行員会が設けた座談会で、福岡以外に東京や大阪などで活躍する業界人もゲストに招き、東京では話せないような本音や熱い論議を繰り広げています。
日本そして福岡の書店業界・出版業界を知るための参考書としても読めるし、読み物としてもおもしろいと好評で、うちの書店でもよく売れています。オススメですよ!
文芸誌はあまり読む機会がなかったのですが、未体験だからこそ興味がわいてきました! 知識を深めたり、心を豊かにするために読んでみたいと思います。これが九州の出版社を元気にする役割にもなりますよね!