「みなし残業」だと何時間働いても残業代が出ない?違法の場合もあるの?
目次
在宅ワークが定着化する中、仕事の時間とプライベートの時間を明確に分けるのが難しいという声を良く聞くようになりました。通勤の必要も無く、気付けば夜遅くまで仕事をしていたという経験がある人もいるのではないでしょうか?
働き方が変わることで勤務時間や残業などの在り方も変わってきています。今回のテーマ「みなし残業」もその1つです。
残業代の在り方
そもそも残業代については「サービス残業」が問題となっていました。「ブラック企業」としてメディア等で取り上げられる会社もありました。夜遅くまでほぼ強制的に業務をしても残業代をもらえない。過酷な労働環境で自殺者が出るなど社会問題にもなりました。
もしかすると、今なおこういった状況の会社が存在しているかもしれません。少しでも改善されることを願うばかりです。そういった点ではみなし残業制度が残業代の在り方、ひいては働き方自体を改善してくれる可能性があります。特に今後就職活動や転職を予定している人は、みなし残業制度の概要を把握しておいてください。
みなし残業、みなし残業込み給与とは何か
みなし残業制度は「固定残業制度」とも呼ばれます。あらかじめ月に20時間や30時間といった一定の残業を見込み給与として支給される制度です。実際に残業を行うかどうかは関係ありません。あくまで一定時間の残業が生じることを踏まえてお給料と一緒に支給するのです。
例えば、本来の給与が30万円で、みなし残業代が5万円の場合、35万円が「みなし残業込み給与」となります。裁量労働制の職業の人を中心に導入されています。
裁量労働制とは?
働く人の裁量によって労働時間などが管理される制度です。良く知られている働き方は9時~17時勤務、お昼は12時から1時間休憩といった固定時間制度ですが、この働き方が馴染まない職業があります。例えば大学教員などがその一例です。
大学教員は一見、授業時間などが決まっており固定時間制度での運用が適しているように見えますが、例えばゼミ生の卒業論文の指導で夜遅くまでメールのやりとりをする、ゼミ合宿で数日間学生と一緒に過ごす、研究のため土日に海外出張をするなどより良い教育を提供するために「先生の裁量」で動くことが多いのです。
一方、夏休みなどは授業も無く、通常シーズンよりは忙しくないという先生も多いでしょう。午前中は授業が無く、授業は午後だけという日もあるでしょう。こういった労働環境の場合、出勤時間や終業時間などを定めず、各自の裁量で動けるようにしていた方が合理的ですよね。
またゼミでの合宿時や海外出張時などに細かく勤務状況を報告するのも負担になります。業務とそれ以外の違いも曖昧となりがちです。報告する側のみならず、管理する側にとっても細かく残業時間や残業代を管理するのは非常に煩雑となります。こういった場合、一定のみなし残業代が付与されていると働く側、管理する側、双方にとってメリットがありそうですね。
裁量労働制以外でも社外で働くことの多い、外回りの営業社員や旅行の添乗員などもみなし残業制度の対象となります。直帰することも多いイメージがありますし、固定時間で働く制度が馴染まないですよね。
外回りの営業社員は顧客の都合で夜や週末に客先を訪問することも多いでしょう。このような職種の人が法定の労働時間(1日8時間、週40時間)以内に収まるとは限りません。また、固定時間制度で働く職業に比べ、時間内・時間外といった線引きをすることや管理も難しいといえます。そこで、あらかじめ一定の残業が生じることを見込み、みなし残業代を給料と一緒に支給しておくのです。
みなし残業制度は労働者、会社側それぞれにとってメリットあり
みなし残業制度の導入によって、働く側と会社側、それぞれにどのようなメリットがあるのでしょうか?
「終業時間後、数十分程度の残業だったし、それほど長い時間でもないので残業申請するのが心苦しい」といった経験をしたことがある人も多いと思いますが、みなし残業制度のおかげで毎月確実に一定の残業代が支給されるのは大きなメリットです。
会社側にとっても、従業員それぞれの就業時間や残業時間の管理という業務を簡素化できるため、その分、他の部署などに人材やリソースを充てることができます。
また、それぞれにとって生産性の向上に寄与するという見方もあります。例えば、「残業代が欲しいから」と定時で終わる仕事をだらだらと行うようなケースを回避できます。
「できるだけ定時に帰れるように効率よく仕事をこなそう」となってくれた方が、従業員のアフターファイブも充実しますし、翌日の仕事にも精力的に向かうことができるでしょう。オフィスの電気も早く消すことができ、良いことばかりです。
みなし残業の注意点
ただし、みなし残業制度はメリットばかりではありません。ここでは事例を取り上げながら注意点について紹介します。
<事例> 内定をもらったA社とB社。給与条件は以下のようになっています。長期間勤務するとどのような違いが生じる可能性があるでしょうか? |
※簡易な事例のためみなし残業代の妥当性は考慮していません
B社はA社より基本給が少ないですが、みなし残業代があるため総額は同じとなります。ただし、残業の有無などで給与面の有利、不利が生じることになります。
ほぼ定時で帰社できる場合は、A社・B社ともに給与面の差や、税金や社会保険上の違いは生じません。一方、ある程度残業が生じる場合は、A社は基本給以外に残業代がもらえますが、B社は既に20時間を見込んで残業代を支払っているため、別途残業代をもらうことができません。よって、入社する前に残業の実態について確認しておく方が良さそうです。
また、A社とB社で基本給が違う点にも注意してください。例えば、一般的に夏季と冬季に支給される賞与について「基本給の○か月分」と定めている会社も多いです。つまり基本給の低いB社は同業他社や同程度の規模の会社と比べて賞与が少ないという状況になる可能性があります。
同じことが退職金制度にもいえます。現在は確定拠出年金を導入している会社が増えており、同制度では将来受け取る退職金を会社が毎月給与とは別に支給してくれ、その拠出額を自分で運用することになります。この場合は基本給の違いによる退職金の影響はそれほどありません。
一方、「基本給×勤続年数×○ポイント×○倍率」など、役職や貢献度に応じて一定の計算式を設けて退職金を支給している会社もあります。このように、退職金の計算式が「基本給」がベースになっている会社も多いため、仮にA社とB社が同じ退職金ルールを導入している場合、やはりB社の方が不利となります。
みなし残業は違法の場合もあるの?
社会保険労務士など労務の専門家によりますと、みなし残業制度を適切に運用できていない会社が多いということです。
例えば、上記のB社のように「20時間分残業代が含まれているから必ず20時間は残業をしなさい」と残業を強要するケースもあるようです。あくまで「残業が発生した場合」を見込んでみなし残業代を支払っているという位置づけであり、必ず残業してもらうという意味合いではありません。
同じように、残業代が払われているということで残業が常態化し、指定の時間(B社の場合20時間)以上に残業をしているというケースもあるようです。
また、A社のような給与体系からB社のようにみなし残業制度が導入され基本給が減少するような給与体系の改正が行われる場合もあるようです。この場合、先に紹介したような不利益が生じる場合があるため、労働者への明示、事前説明が必要となります。どうしても納得できないような場合は会社側に確認する、または社会保険労務士や弁護士等に相談してください。
みなし残業でみなし時間を超えたら超過分の残業代は出るのか
みなし残業制度でいくつかトラブルとなるケースも考えられますが、ではみなし時間を超過して働いた場合、残業代は支給されるのでしょうか?
結論から言うと、支給されます。上記B社の例ではあくまで20時間分が前もって支給されているため、20時間を超過した分については別途残業代をもらうことができます。
ただし、実際の残業代の計算はやや複雑です。同じ残業でも状況によって割増率が異なるのです。
・時間外労働(法定労働時間を超えた場合):25%割増 ・法定休日労働:35%割増 ・深夜労働(22時~5時):25%割増 ・時間外労働+深夜労働:50%割増 |
夜中まで働いた場合や休日出勤をした場合は割増率が高くなります。よって「みなし残業20時間相当で3万円」をどれだけ超過したのかということを管理するのは容易ではありません。
その結果、「みなし残業代をもらっているから」と超過した分をもらえていない人も多いと思われます。そもそも「法定時間を超えた労働時間に対して残業代を支払っていればよい」のではなく、健康を害するような残業時間というのは残業代の有無に関わらず認められていません。厚生労働省も以下のように指摘しています。
時間外・休日労働はあくまで必要の限度において認められるものですので、過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を月45時間以内にするなどしていただくことが重要です。 (厚生労働省HPより) |
よって、みなし残業代を超過しているようなケースでは「過重労働」に該当している可能性があるため、そのような状況だと感じた場合も一度専門家等に相談してください。
みなし残業制度~まとめ~
・みなし残業制度とは、事前に一定の残業を見込み残業代を支給する制度
・必ずしも残業をしなければならないわけではない
・みなし残業を超過して残業をしていると感じた場合は一度相談を
冒頭で触れた、サービス残業が当たり前という働き方と比べれば、必ず一定の残業代がもらえるみなし残業制度はとても素晴らしいと思います。ただし、運用方法を間違えると結果として仕事をし過ぎることにつながりかねません。
みなし残業代が何時間分の残業に相当するのか?夜遅くや休日出勤が増えていないか?など定期的にご自身の残業状況を確認し、みなし残業代が妥当でなければ会社へ改善の申し出をする、または専門家等に相談するということを覚えておいてください。
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みなし残業についてのQ&A
Q.会社を辞めて失業手当を受給しています。在職中の未払い残業がありますが、失業手当受給中でも未払い残業を請求することは可能ですか?
A.可能です。失業手当は「求職者給付」という位置づけで、次の就職先を探している間の手当という位置づけです。前職で残業代が支払われていないことと関係性はありません。失業手当受給中でも未払いの残業代があれば、きちんと前勤務先に主張してください。
Q.残業代が増えることで手取りにどのような影響がありますか?
A.残業代も課税対象のため、所得税や住民税の負担は増えることになります。また、社会保険料も同様です。特に4月から6月の残業代が多いと社会保険料を算出する「標準報酬月額」の等級が上がる可能性があります。その場合、健康保険料や厚生年金保険料の負担額が増え、結果、手取りに影響することになります。