退職後の健康保険、任意継続と国民健康保険ならどっちが得?
退職すると、職場の社会保険制度から脱退して新たに加入手続きをする必要がありますが、社会保険のうち健康保険は、これまで通り加入し続けることもできます。
今回は、退職時に選べる任意継続とはどういうものか、保険料はどう変わるのかを紹介。さらに、国民健康保険とどっちがいいのか、メリットやデメリット、保険料を比較していきます。
任意継続とは
日本の健康保険制度は国民皆保険制度のため、何らかの形で公的医療保険への加入が義務付けられています。退職後に加入する健康保険は、その後の立場や状況によって、いくつかの選択肢が考えられます。そのひとつが任意継続です。任意継続とは、退職前まで加入していた健康保険に退職後も継続して加入することです。それ以外の選択肢と合わせて詳しく見ていきましょう。
退職後は、次のような選択肢が考えられます。
① 転職先の健康保険に加入する
② 加入していた健康保険を任意継続する
③ 国民健康保険に加入する
④ 家族が加入している健康保険の扶養に入る
①の「転職先の健康保険に加入する」というのは、退職してすぐに転職先で働くことが決まっているケースです。こういった場合は、すぐに次の職場で社会保険の手続きをして健康保険に加入することができます。それ以外の場合は、②~④から選択しなければなりません。
まずは④の「家族が加入している健康保険の扶養に入る」を検討してみると良いでしょう。会社勤めをしている家族の健康保険に被扶養者として加入しても保険料は掛からないのでお得です。ただし、扶養に入るためには、今後の年収見込みが130万円未満(60歳以上や障害者は180万円未満)かつ、家族である被保険者の収入の2分の1以下である必要があります。
退職して失業中なら130万円未満はクリアできそうですが、ここで注意しておきたいのは、失業手当を受け取る場合です。失業手当も収入と見なされることから、日額3611円を超える手当を受け取る場合は、1年間に換算して130万円超となると見なされ扶養に入れません。
その場合、今回のテーマである②「加入していた健康保険を任意継続する」または、③「国民健康保険に加入する」という選択肢になります。
任意継続の期間や保険料はいくらか
任意継続は最大2年間加入でき、好きな時に脱退できます。ただ、退職の翌日から20日以内に申し出る必要があり一度脱退すると、再び入ることはできません。なお、国民健康保険は14日以内に手続きを行う必要があります。
話が少し外れますが、実は、2022年9月末までは、一度任意継続をすると、転職するなどの理由がない限り、2年間は脱退できないのが原則でした。また、任意継続で納める月々の保険料は2年間同額と決まっています。そこで悩ましいのは、国民健康保険の保険料との差です。
国民健康保険料は、前年の所得によって判定されます。そのため、1年目は仕事をしていた時の所得をもとに決まった保険料を払わねばなりません。しかし退職後は仕事をしない、または、アルバイト程度という場合、2年目の保険料は1年目よりずいぶん安くなります。ですので、1年目に任意継続で加入し、2年目は国民健康保険に切り替えたいと思っても仕組み上できませんでした。
ただ、裏技として、任意継続は保険料の滞納があると脱退しなければならないため、あえて保険料を支払わず脱退となり、その後、国民健康保険に加入するケースが見受けられていた実情がありました。そういった背景もあり、2022年10月から自分が好きなタイミングで脱退できるよう改正されました。今は、任意継続の加入期間中に、国民健康保険に切り替えたい時はいつでも届け出できるようになっています。
次に、任意継続の保険料について見ていきましょう。
給与所得者が加入する健康保険には、いくつかの種類があります。多くの方が加入しているのは全国健康保険協会(協会けんぽ)です。その他に、大企業が独自に運営している健康保険組合や、公務員の共済組合があります。今回は、協会けんぽについて見ていくことにしましょう。
任意継続の保険料は、退職時の収入(標準報酬月額)を基に保険料率を乗じて計算します。保険料率は、都道府県ごとに定められており40歳以上は介護保険料も加わることから保険料率が上がります。居住地が福岡県の場合を例に見ていくことにしましょう。
全国健康保険協会(協会けんぽ)の任意継続被保険者の方の保険料額(令和5年4月~)
(福岡県)
例えば、標準報酬月額が20万円(年収240万円)の場合、40歳未満は、介護保険料の加入対象ではないため図表にある①10.36%が保険料率です。これを基に計算すると、
(標準報酬月額)20万円×(保険料率)10.36%=(保険料)20,720円
つまり、毎月の保険料は、20,720円ということになります。40歳以上の計算も同様です。介護保険料が加わるため保険料率は②12.18%で、
(標準報酬月額)20万円×(保険料率)12.18%=(保険料)24,360円
毎月の保険料は一覧表のとおり、24,360円です。
なお、協会けんぽでは、退職時の標準報酬月額が30万円超の場合でも任意継続の時には30万円として計算するようになっています。そのため、高収入の人は、任意継続で全額自己負担となっても、標準報酬月額が大きく下がることによって今までより保険料が安くなるケースもあります。
任意継続と国民健康保険、どちらが安い?それぞれのメリットとデメリット
気になるのは、任意継続と国民健康保険はどう違うのか、保険料の負担が少ないのはどちらか、ではないでしょうか。ここではメリット・デメリットも合わせて紹介していきます。
まず、それぞれの違いですが、協会けんぽは、平成20年に国から引き継ぎ設立された公法人で、都道府県がそれぞれ保険料率を設定しています。主に中小企業で働く従業員が被保険者となりその家族も被扶養者として加入できます。
病院にかかった際の医療費負担が3割で済むなどの保障に加え、産前6週、産後8週の間に受け取れる「出産手当金」や、傷病で欠勤が4日以上続いたときに支給される「傷病手当金」の給付もあり、働く従業員を守る手厚い保障が揃っています。
一方で、国民健康保険は、「出産手当金」「傷病手当金」は基本的にありません。そうなると任意継続の保障内容が有利に感じますが、実は、任意継続ではこれらは保障されないため、この点は国民健康保険と同じになります。
なお、国民健康保険は、医療保険制度に加入していないすべての人が対象です。市区町村が窓口になります。別途、業種ごとに組織されている国民健康保険組合もあります。
それでは、任意継続と国民健康保険、それぞれのメリットは何でしょうか。
任意継続のメリットは、扶養親族がいても保険料が変わらないという点です。また、退職時の一連の流れで健康保険の手続きも合わせて行えるため仕事の引き継ぎでバタバタする時に助かります。
国民健康保険のメリットは、2年目に保険料が下がるという点です。国民健康保険は、前年の所得を基に保険料が決まるため、退職して収入が少なくなると、2年目の保険料は1年目より安くなります。さらに、非自発的失業者といって、会社の倒産やリストラによる場合は保険料が軽減されるようになっており、失業や倒産、災害などで保険料の納付が難しくなった時は保険料の減免を受けられることもあります。
次に、任意継続のデメリットは、これまで労使折半で払っていた保険料が全額自己負担となるため支払いが2倍となることや、国民健康保険のように保険料が途中で下がることはなく2年間同額ということです。また、減免や軽減措置もありません。
一方、国民健康保険は、任意継続と違い扶養という概念がないため、妻や子供を扶養しているという場合は、それぞれが健康保険に加入する必要があり、保険料が増えていきます。また、自身が時間を見つけて市区町村の窓口に出向き加入の手続きが必要な点もデメリットと言えるでしょう。
年収別・扶養家族有無別でシミュレーション
任意継続と国民健康保険のどちらが安いかは、実は、収入や扶養の状況によって違います。以下でいくつかシミュレーションを紹介します。
ここでは、福岡県福岡市に居住、介護保険料がかからない40歳未満を例に比較していきます。任意継続の保険料は前述の通りですので、ここではまず国民健康保険料をみてみましょう。
〈福岡市 令和5年度国民健康保険料の保険料率〉
(※注)算定基礎となる所得とは令和4年中(1月~12月)の総所得金額等から基礎控除(43万円)を除いた金額です
国民健康保険料は、図表のように、(1)医療分、(2)支援分(3)介護分と3つで構成されており、それぞれ(ア)所得割、(イ)均等割、(ウ)世帯割に分けて計算されます。また、任意継続では月の給与である標準報酬月額が基になりますが、国民健康保険では、前年の1年分の収入が基になるため、賞与を含めた年収から「算定基礎」という金額を出して計算を進めます。算定基礎の説明をすると複雑になるため、ここでは、福岡市が提供している試算シートを使って、試算します。
(試算シート)
福岡市HP 保険料の計算方法「国民健康保険料の試算について」よりダウンロード
例1) 標準報酬月額20万円(年収300万円・賞与含む)、扶養なし
任意継続保険料・・20,720円
国民健康保険料・・18,217円 ←安い
例2)標準報酬月額20万円(年収300万円・賞与含む)扶養あり(配偶者35歳・収入なし、子8歳)
任意継続保険料・・20,720円 ←安い
国民健康保険料・・21,250円
例3)標準報酬月額35万円(年収550万円・賞与含む)、扶養なし
任意継続保険料・・31,080円 ←安い
国民健康保険料・・34,433円
例4) 標準報酬月額35万円(年収550万円・賞与含む)、扶養あり(配偶者35歳・収入なし、子8歳)
任意継続保険料・・31,080円 ←安い
国民健康保険料・・39,458円
試算では、年収300万円で扶養なしの場合は、国民健康保険が有利、それ以外は任意継続が有利ということになりました。ただ、賞与の有無や金額によっては国民健康保険の方が安くなる場合もありますので一概に言えません。また、給与や賞与以外の収入、例えば賃貸収入が別途あるという場合は、それも所得となり国民健康保険料に影響するため、やはり個別要因でどちらが得かは異なります。
まとめ
今回は、任意継続と国民健康保険のどちらが良いかについて見てきました。
要点をまとめます。
・任意継続とは、勤め先の健康保険を最大2年間延長して加入するもの
・任意継続になると、保険料がこれまでの2倍になる
・国民健康保険は、家族を扶養していると追加の保険料が必要
・国民健康保険は、2年目から安くなり、減免・軽減措置もある
・人によってどちらの保険料が安くなるか異なるため計算が必要
1年目は退職時の任意継続と国民健康保険の保険料を比較して加入、任意継続が割安だった場合は、2年目にもう一度、国民健康保険と比較し必要に応じて切り替えると良いでしょう。
任意継続についてのQ&A
Q.任意継続や国民健康保険料は社会保険料控除の対象になりますか?
A.対象になります。いずれも確定申告で手続きします。
Q.保険料はこれまで会社から給与天引きされていましたが、任意継続だとどのようになりますか?
A.協会けんぽから毎月郵送で届く納付書で支払うか、銀行からの口座振替が選べます。まとめて支払う前納制度もあります。