扶養控除の廃止論、実質増税となる子育て世帯の年収は?
監修・ライター
昨今、ニュースでよく取り上げられている「扶養控除の廃止論」、特に子育て世帯は気になる方も多いと思います。今回の記事では扶養控除とはどんな制度なのか解説し、さらに扶養控除がなくなった場合、具体的に負担が増えるのはどれくらいの年収の子育て世帯なのか、どんな影響をうけるのかについて解説します。
岸田総理が廃止を検討する「扶養控除」とは?
扶養控除とは子や両親など、親族を養っている場合に受けられる控除のことです。また、扶養控除の対象者は配偶者以外(※1)で以下の条件を満たす親族に限られます。
1. 納税者の扶養親族であること
2. 年間の合計所得金額が48万円以下であること
3. 青色事業専従者、または事業専従でないこと
4. 他の人の扶養親族、控除対象配偶者になっていないこと
参考:国税庁|扶養控除
また、上記に該当するかどうかは毎年12月31日時点の情報で判断されるほか、原則として16歳以上の人が対象です。16歳未満の子どもについては、扶養控除の代わりに児童手当が支給されます。
【扶養控除の金額について】
※1)配偶者は「配偶者控除」や「配偶者特別控除」といった制度を利用することで税金が軽減できる
※2)老人ホーム等に入居している場合は別居として扱う
扶養控除の廃止が検討されている理由
岸田総理は「異次元の少子化対策」の素案として、児童手当の拡充を掲げています。具体的には、現在中学卒業までとされている児童手当の対象を、2024年以降、高校卒業までに広げるというものです。その一方、児童手当の拡充に伴い、これまで税優遇されていた16歳以上19歳未満の扶養控除は廃止されるのではないかというのが、今回の議論の発端です。
2010年には「年少扶養控除」の廃止も
現在、16歳未満には扶養控除の代わりに「児童手当」が支給されていますが、かつては「年少扶養控除」といった制度がありました。0~15歳の親族を養っている納税者に適用され、具体的な控除額は所得税が38万円、住民税が33万円でした。しかし、2010年の税制改正に伴い、年少扶養控除は廃止となっています。
扶養控除と「103万円の壁」との関係や他の控除との違い
ここでは、混同しやすい他の控除・手当との違いについて紹介します。
配偶者控除との違い
配偶者控除と扶養控除の大きな違いとして、納税者が養う対象が配偶者か否かといったところが挙げられます。また、配偶者控除には納税者の所得制限(1000万円以下)がある一方、扶養控除については、納税者の所得制限は設けられていません(人数に関する制限もなし)。
とはいえ、いずれの控除も養う対象の身内が給与収入のみである場合、103万円(所得が48万円以下)がボーダーラインとなります。よって、配偶者控除も扶養控除もいわゆる「103万円の壁」があるといえるでしょう。
児童手当との違い
児童手当は先述した年少扶養控除の廃止に伴い、2011年に創設された制度です。児童手当では3歳未満の子どもに対して月額1万5000円、3歳以上で月額1万円(第3子以降は1万5000円)が支給されます。
廃止されると増税となる子育て世帯も
報道によれば、年収850万以上の世帯(※)は、扶養控除の廃止により、今よりも負担が増えるのではないかと懸念されています。また、厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、児童のいる世帯(児童は18歳未満の子を指す)の1世帯あたりの平均所得は813.5万円です。そのため、実質増税が予想される世帯とほぼ同じ所得であることがわかります。
(※)配偶者が専業主婦(夫)で配偶者特別控除有り、子供1人の場合
国税庁の「民間給与実態統計調査」によれば、男性の平均給与は545万円、女性は302万円となっていることから、単純に計算しても大半の世帯で該当することになるでしょう。
たとえ月1万円の児童手当に置き換わり、年間12万円が支給されたとしても、年収が850万円を超えてくると、差し引きでゼロになるか、むしろマイナスになることが予想されます。
また、世帯主が年収800万円の家庭では年12万円の児童手当を受け取ったとしてもほぼプラマイゼロになるのではないかとの懸念もあります。その理由として、所得税の累進課税が挙げられます。
たとえ同じ年収であっても、個々の家庭事情によって課税所得金額は異なりますが、高校生の子ども1人分の扶養控除がなくなったと想定して税額のシミュレーションを行ってみました。
なお、所得税の税率は以下のようになっています。(令和4年4月1日現在)
前述した年収800万円の人は多くの場合、所得税率20%のラインに該当します。その場合において、38万円の扶養控除廃止(住民税では33万円)に伴う税負担は以下のようになるでしょう。(※住民税については課税所得金額の約10%の税額とする)
所得税:38万円 × 20%=7万6000円の増税
住民税:33万円 × 10%=約3万3000円の増税
上記より、合計で年間10万9000円の増税となり、たとえ年12万円の児童手当が出たとしても実質ほとんどプラスになりません。また、1000万円、1200万円と年収が増えた場合、扶養控除の廃止によって実質増税となってしまいます。
岸田総理は異次元の少子化対策と銘打っていますが、このように捉えるとあまり効果のある改革と考えることは難しいでしょう。
まとめ
今回の記事では扶養控除廃止論について、取り上げました。とはいえ、野党からは「せっかく児童手当を増やすのに、扶養控除を廃止にしたら(制度の拡充の)意味がない。子育て世帯の負担を減らすことを考えるべきだ」といった批判の声が多く見受けられます。扶養控除の廃止に関する議論はまだこれからですが、今後の動向に注視する必要があるでしょう。