話題のトラックGメン、物流の2024年問題で“送料無料”がなくなる!
監修・ライター
2023年7月18日、国土交通省が新たな制度を創設することを発表しました。その名も「トラックGメン」。Gメンとは、アメリカ連邦捜査局(FBI)特別捜査官の通称で、日本では「麻薬Gメン」や「万引きGメン」といったように、警察官以外で犯罪を取り締まる人の通称として使われています。麻薬Gメンは麻薬取引を、万引きGメンは万引きを取り締まっていますが、それではトラックGメンはトラックの何を取り締まるのでしょうか。そして、この制度が創設された背景にある2024年問題とはなんなのでしょうか。分かりやすく解説します。
荷主企業・元請事業者を取り締まるトラックGメン
トラックGメンが取り締まるもの、それは「適正な取引を阻害する荷主企業・元請事業者」です。トラックドライバーは、ほかの業種と比べて労働時間が長く、低賃金であると長年指摘されていました。
国土交通省の調査によると、トラックドライバーの労働時間は全産業平均と比較して、大型トラック運転者で約1.22倍、中小型トラック運転者で約1.16倍に上ります。にもかかわらず、トラックドライバーの賃金は相対的に低く、年間所得は全産業と比較して、大型トラック運転者で約1割低く、中小型トラック運転者で約2割低いことが分かっています。かつては、仕事はきついけれど稼げる仕事だったトラックドライバーですが、現在ではきつくて稼げない仕事になってしまっているのです。
この主な原因と考えられているのが、「適正な取引を阻害する荷主企業・元請事業者」です。物流業界は現在、多重下請け構造になっています。元請けが下請けに仕事を発注し、下請けが孫請けに仕事を振り、最後にトラックドライバーが運ぶという構造です。
この過程で下に行けば行くほど、手数料が差し引かれるため、実際に荷物を運ぶトラックドライバーに支払われる金額が低くなってしまうわけです。トラックドライバーがきちんと利益を確保できるように、元請けや下請けが配慮してくれればいいのですが、そうした良心的な企業ばかりではありません。「適正な取引を阻害する荷主企業・元請事業者」によって、トラックドライバーの利益が搾取されているのが現実です。
低賃金な仕事をわざわざ選ぶ人など少なく、ただでさえ少子高齢化で日本全体が人手不足の中、物流業界の人手不足はより深刻度を極めています。この深刻な人手不足のため既存のトラックドライバーが長時間労働になり、人が集まらないだけではなく離職によって、さらに人手不足に拍車がかかるという構図になっているのです。
この構図を打破するための一策がトラックGメンです。トラックGメンが荷主企業や元請事業者を監視し、是正措置を強化。最終的には、トラックドライバーの労働条件を改善することが狙いです。
物流業界の2024年問題とは
物流業界をめぐる最近のニュースはトラックGメンばかりではありません。たとえば、トラックの速度規制緩和。現在、高速道路を走行する大型トラックの最高時速は80kmに規制されています。警察庁は7月13日、高速道路の大型トラックの速度規制について、現行の時速80kmから引き上げる方向で検討すると発表しました。
トラックGメンもトラックの速度規制緩和も背景にはある一つの問題があります。それは、物流業界の2024年問題です。働き方関連法の成立によって、時間外労働の上限は原則として⽉45時間、年360時間となり、これを超える時間外労働は違法となりました。働き方関連法は2019年に成立しており、多くの業界で⽉45時間、年360時間が時間外労働の上限となりましたが、すぐに適用すると社会的影響が大きすぎるということで、一部の業界で適用が猶予されています。
物流業界も適用が猶予されている業界の一つです。物流業界で時間外労働の上限が設定されるのは、2024年4月1日からです。2024年からトラックドライバーの時間外労働の上限は、年間960時間に設定されます。このことに端を発するさまざまな問題の総称が物流業界の2024年問題です。
2024年問題でさらに深刻化する人手不足
これまでドライバーの時間外労働の上限が実質的になかったことによって成り立っていた物流業界の業界構造が崩壊する可能性が指摘されています。たとえば、労働時間が減少することによって、ドライバーの収入は減少するでしょう。それによって、ドライバーを志望する人の数が減ったり、離職者が増えたりといったことが懸念されています。
また、ドライバーの総稼働時間に制限をかけることにより、輸送リソースは大きく減少するでしょう。たとえば、これまで1日11時間稼働していたドライバーが8時間しか稼働できなくなると、輸送リソースは3割も減少することになります。
政府は、何も対策を講じなければ2024年度に14%、2030年度に34%の輸送力不足が生じる可能性があると推計しています。その結果、モノが運べなくなることはもちろん、モノを作るための資材も運べなくなるため、モノを作ることもできなくなります。これが物流業界の2024年問題の概要です。
トラックGメンも速度上限の規制緩和も、この問題に対応するための対策です。政府はトラックドライバーの労働環境を改善することでドライバーのなり手を増やし、速度上限を引き上げることで輸送の効率性を高めようとしているのです。
送料無料はなくすべき
さて、物流業界の2024年問題ですが、「自分は物流業界じゃないから関係ない」と思っている方もいるのではないでしょうか。しかし、物流業界の2024年問題に関係のない人は、日本に1人もいないと言ってもいいでしょう。
身近なところでは、2024年問題によって送料が上がると考えられています。というよりも、すでに送料は値上がりしています。大手だけに絞っても、ヤマト運輸、日本郵便、佐川急便が今年に入ってから送料の値上げを発表しています。ヤマト運輸は値上げの理由として「労働力減少による賃金や時給単価の上昇」を挙げています。2024年問題を前にした2023年の段階で、労働力不足が顕著になっているのです。
さらに考えられるのは、2024年を機に「送料無料」がなくなることです。送料無料と言っても、タダで運んでいるわけではありません。一定の金額以上を購入した場合、荷元が送料を負担するケースもありますが、物流業界の構造で最も立場の弱い孫請け会社やトラックドライバーにそのしわ寄せが及んでいるケースも少なくありません。
全日本トラック協会の馬渡雅敏副会長は、6月23日に行われた消費者庁との意見交換会で、「送料無料という表現によって業界の地位が著しく低下している」と発言しました。政府も、運送業者がコストに見合った料金を受け取れない一因として送料無料を挙げ、「送料無料」表示の見直しに取り組む方針を打ち出しています。送料無料は確かに消費者にとって魅力的ではありますが、この機会に見直すべきだと筆者は考えます。皆さんはいかがでしょうか。