働きながら年金をもらう「在職老齢年金」、損しないための注意点は
今回の「FPに聞きたいお金のこと」は、50代女性からの「在職老齢年金」に関する質問です。年金受給を開始する65歳以降も働く人が増えていますので、「在職老齢年金」は多くの人に知っておいてもらいたい制度です。
50代女性の相談内容
老後のことを考える時に「在職老齢年金」という言葉をよく見聞きするのですが、どのような仕組みなのでしょうか?また、なるべく損をしないようにしたいのですが、どのような働き方をすると得になるのでしょうか?
在職老齢年金と支給停止の仕組み
年金をもらいながら働くと年金の一部または全額が支給停止になるというのが「在職老齢年金」制度です。よって、「なるべく損をしたくない」「できれば得をしたい」という気持ちはよく分かります。ぜひ制度をしっかり理解して、より良い働き方を模索してください。
まず在職老齢年金の仕組みについて確認します。年金は2階建ての制度になっていますが、以下の2階建て部分「老齢厚生年金」が支給停止の対象となります。つまり、基礎年金部分である「老齢基礎年金」は在職老齢年金の対象ではないため全額支給されます。
在職老齢年金による年金支給月額の計算式は以下のようになります。
基本月額と総報酬月額相当額との合計が50万円を超える場合
基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)÷2
※50万円は令和6年度の支給停止調整額
少し分かりにくいので一つずつ見ていきます。
基本月額は年金の2階建て部分で、老齢厚生年金を月換算した金額です。総報酬月額相当額というのは1カ月あたりの給与です。ただし、賞与が支給されている場合は賞与も1カ月あたりに換算します。例えば月額給与が30万円で賞与が120万円の場合、賞与を1カ月あたりに換算すると120万円÷12=10万円となりますので、総報酬月額相当額は30万円+10万円=40万円となります。
在職老齢年金による調整が入るのは、「基本月額と総報酬月額相当額との合計が50万円を超える場合」です。50万円を超えた場合は超えた金額のうち1/2が支給停止となります。
例えば、基本月額が15万円、総報酬月額相当額が40万円の場合は合計が55万円となりますので、5万円超えたことになります。この超えた額の1/2、つまり2万5000円が支給停止となります。
よって、この場合における月額の老齢厚生年金は下記の計算で12万5000円となります。
基本月額が15万円、総報酬月額相当額が40万円の場合
15万円-(15万円+40万円-50万円)÷2=12万5000円
50万円を超えない場合は調整が入らず、年金に影響はありません。つまり働きながら全額年金を受け取ることができます。
9月1日を基準日に1年毎に行われる「在職定時改訂」
年金額と給与を合わせて50万円を超えなかった場合、年金の支給停止はありません。ただし、その間も厚生年金の被保険者として働くと、毎月の厚生年金の保険料を払うことになります。つまり、「年金をもらいながら働く」ことに加えて「同時に厚生年金の保険料も払う」という側面もあります。
2階建ての厚生年金は「保険料を払った分だけ年金額が増える」となっていますので、ここで払った保険料はいつ反映されるのでしょうか?
以前は退職時または70歳に到達した際に年金額が見直されていました。つまり65歳以降、年金をもらいながら働いている間に払っている保険料分は、しばらく年金の受取額に反映されなかったのです。
ただし、2022年4月から「在職定時改訂」という仕組みが導入されたため、毎月9月1日時点で、年金額が見直されるようになりました。つまり、「働きながら払っている保険料分」が年に1回見直され、反映されるようになったのです。
まとめ~損をしない・得をする働き方は?~
在職老齢年金は50万円が1つの基準となりますが、この額は毎年の年金額の改訂が影響します。よって、年金を受け取るタイミングになった際は、まずこの基準となる金額がいくらなのか、自分は在職老齢年金の対象になるのかを確認してください。基準以下であれば全額年金は受け取れますので、損をすることはありませんよ。
また、一つ覚えておきたいのが、「在職老齢年金は厚生年金の被保険者」が対象となることです。厚生年金保険の被保険者ではなくなる70歳以降も厚生年金適用事業所に勤務する場合は在職老齢年金の対象となります。
つまり、自営業であれば一切在職老齢年金のことを考える必要はありません。年金は全額もらえます。
例えば、近年増えていますが、会社を辞めてフリーランスとしてそれまで勤務していた会社と業務委託契約を結び、業務を受注して働くことになれば、在職老齢年金は気にせず年金は全額もらえることになります。これは「得をする働き方」になるかもしれません。もちろん、会社員ではなくなることにより、税金や健康保険なども大きく変わるため、必ず有利というわけではありませんので、その点ご注意ください。
今回のご相談者様は50代でまだしばらく年金受給までには時間があると思います。こういった制度を理解することはもちろん、年金受給後も生き生きと仕事や趣味などを満喫できるよう、ぜひ今のうちからできる準備をしておきたいですね。