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コーヒー各社が今夏一斉値上げ、その背景には何が?2050年問題とは

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

コーヒー各社が今夏一斉値上げ、その背景には何が?2050年問題とは

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「コーヒーは仕事の相棒」「朝1杯のコーヒーがないと1日が始まらない」といったように、日常生活にコーヒーが欠かせないという方は多いのではないでしょうか。そんなコーヒーが将来、気軽に楽しめるものではなくなるかもしれないということはご存じですか?

コーヒー製品で相次ぐ値上げ

このところ、コーヒー製品が相次いで値上げしています。売上高世界最大の食品メーカー、ネスレの日本法人・ネスレ日本では、今年5月1日納品分より一部の商品を値上げしました。この時の値上げ率は、「ネスカフェ エクセラ」で約 25%、「ネスカフェ ふわラテ」、「ネスレ ふわラテ」 シリーズで約13%でした。

さらに、ネスレ日本は6月6日、今年9月以降、ペットボトル入りのコーヒー製品8品目を値上げすることを発表。具体的な値上げ幅は、「ネスカフェ ゴールドブレンド」で1ミリリットルあたり約10%となる予定です。

コーヒー製品の値上げに踏み切っている飲料メーカーは、ネスレ日本だけではありません。UCC上島珈琲は今年7月1日出荷分から一部を除く家庭用レギュラーコーヒー製品の、今年9月2日出荷分からペットボトル入りコーヒー製品の値上げを発表しています。店頭での販売価格は、20~30%上昇する見通しです。

UCC上島珈琲の値上げもネスレ日本と同様、今年に入ってから2回目で、今年5月1日出荷分から家庭用インスタントコーヒー製品を約10~25%ほど値上げしています。

コーヒー製品の値上げをしているのはメーカーだけではありません。コーヒーチェーン大手・スターバックスでは今年2月以降、4~28円(税抜)の値上げをしています。また、手軽に本格的なコーヒーを楽しめると人気のセブンイレブンの「セブンカフェ」でも、レギュラーサイズコーヒーを3月4日から10円値上げしています。

値上げの理由はコーヒー豆価格の高騰

コーヒー豆価格の高騰
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値上げ幅や値上げのタイミングは各社さまざまですが、その理由は共通しています。「コーヒー豆価格の高騰」です。表現に多少の違いこそあれ、値上げを発表するプレスリリースでは各社、この点を値上げの主な理由としています。

モノの価格というものは、需要と供給のバランスによって決まりますが、コーヒー豆の場合、まず供給量が不足しました。

猛暑や干ばつをはじめとする世界的な天候不順で、コーヒー豆は深刻な不作に陥りました。昨年はエルニーニョ現象によって主要生産地の一つである東南アジアでコーヒー豆が不作に。一昨年は、コーヒー豆生産大国・ブラジルを寒波が襲い、記録的な不作でした。つまり、世界的に見ると、コーヒー豆は2年連続で不作だったわけです。

コーヒー豆の不作による供給量の低下に伴い、価格は上昇。コーヒーの2大品種のうちの一つ「アラビカ種」の国際価格指標であるロンドン先物での2023年1月の価格は1トン2329ドルでしたが、今年5月には一時1トン4386ドルをつけました。それに加えて、円安による輸送コスト、梱包コストの上昇もコーヒー製品の値上げの要因となっています。

さらに、主にアジア諸国の人口増と経済発展での中間層の広がりにより、コーヒーを日常的に楽しむ人が増え、需要が急拡大したこともコーヒー豆の価格高騰の一因として挙げられます。2023~24年度の世界のコーヒー需要は10年前と比べると2割ほど大きくなる見込みです。

コーヒーの2050年問題とは? 

コーヒー豆を手ですくう
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現在のコーヒー豆価格の高騰の主な理由が不作にあると聞くと、多くの方が「天候が安定してたくさん作れるようになれば価格も下落するのでは」と思うのではないでしょうか。それに、遠因の一つである円安もある程度のところで落ち着くかもしれません。しかし、他の農作物とは違い、コーヒー豆の生産には特有の大きな問題があることが指摘されています。

皆さんは、コーヒー豆がどのようなところで作られているかご存じでしょうか。コーヒー豆の生産量が多い国は、ブラジル、ベトナム、コロンビア、エチオピア、インドネシア。この5カ国で全世界の生産量の70%を占めています。

これらの国を眺めていると、「コーヒー豆は熱帯気候の中で育つの?」と思う方もいるでしょう。しかし、そうではありません。コーヒー豆の生産に適しているのは、年平均20℃ほどの地域。イメージとしては、夏の避暑地のような場所です。具体的には、北緯25度から南緯25度の「コーヒーベルト」と呼ばれる地域に限られます。

現在のペースで地球温暖化が続いた場合、今は年平均20℃ほどの地域でも気温は大きく上昇するでしょう。その結果、「2050年にはアラビカ種の生産地が現在の50%にまで減少する」と、コーヒーに関する国際研究機関「World coffee Research(WCR)」は警鐘を鳴らしています。

生産できる地域が減少すれば「コーヒー豆の生産量と品質が低下」→「品質の低下と出荷量の減少で収入が減ったコーヒー農家が離農」→「需要と供給のバランスが大きく崩れ、コーヒー豆価格がさらに高騰」という負のスパイラルが起きることが考えられます。この「コーヒーの2050年問題」を放置すると、コーヒーはいずれ一般人が気軽に口にできるものではなくなってしまうかもしれません。

この問題を根本的に解決するためには、地球温暖化を止める必要があります。そのために一人ひとりにできることは少ないのかもしれません。しかし、少なくとも筆者は、エアコンの設定温度を見直す、できるだけ公共交通機関を使う、エコバッグを利用するなど、地球温暖化の原因である二酸化炭素の排出量を少しでも抑えられる生活を心がけたいと思います。