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病児保育って何?誰がいつ利用できるの?広がらない背景とは

経済とお金のはなし 織瀬 ゆり

病児保育って何?誰がいつ利用できるの?広がらない背景とは

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共働き家庭にとって仕事と看病の両立は深刻な課題のひとつです。働く親を支援する制度として病児保育は注目されていますが、実際の利用率は低迷しています。その理由には、利用のしづらさや施設数の不足などが挙げられます。本記事では、病児保育の利用率が上がらない理由や、抱えている課題についてまとめてみました。

病児保育の利用率が3割に留まっている理由

日本医師会の調査によると、年間の保育施設開所日数を250日と仮定した場合、定員に対する利用率は47.6%という結果が出ています。この結果から分かるように、利用率は施設の定員の半分程度であり、十分に活用されているとは言い難い状況です。

その背景には、病児保育の存在は知っているものの、「手続きが面倒」「予約が取りづらい」など利用におけるハードルの高さが障壁になっていると考えられるでしょう。具体的には、利用にあたって事前登録や医師の診断書の提出、当日の詳細な体調チェックなどが必要となることが挙げられます。

体調不良の子どもを抱えながらの手続きは負担が大きいと感じる親も少なくないでしょう。実際、私も登録手続きが面倒に思い、病児保育の利用を断念した経験があります。

病児保育の運営側と利用者側が抱える課題

スマホを見る母親と子ども
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ここでは、病児保育が抱える問題について運営側と利用者側でそれぞれまとめてみました。

運営側の課題

病児保育施設の課題には、主に以下の3つがあります。

病児保育は子どもの病気の発生状況に応じて利用者数が大きく変動するため、経営が不安定になりやすいといえます。また、病児保育には看護師や保育士といった専門スタッフが必要であり、人材確保が困難であることも原因のひとつです。さらに、感染症対策や安全管理に配慮しなくてはならず、人件費の負担や施設運営のコストが高くなる傾向にあります。

利用者側の課題

病児保育を利用する側にも、以下のような課題があります。

病児保育施設の数は年々増加していますが、需要に対して十分とはいえません。特に都市部では施設数が不足しており希望通りに利用できないケースがあり、地方では施設自体が少なく近くに利用できる施設がないという問題を抱えています。

また多くの病児保育施設では、前日夕方までに予約を入れる必要があり、子どもの突発的な病気に対応できないケースも少なくありません。他にも通常の保育料に加えて病児保育料が必要となるため、経済的な負担が大きくなることも利用率が上がらない要因といえるでしょう。

そもそも病児保育とは?

病児保育とは、病気やケガのために通常の保育施設に通えない子どもを一時的に預かるサービスです。共働き家庭の増加や核家族化が進む現代社会において、病児保育の需要は年々高まっています。子どもの急な発熱や体調不良は働く親にとって大きな悩みの種であり、中には仕事を辞めざるを得ないケースも珍しくありません。そこで、病児保育はワークライフバランスを支える重要な役割として注目されています。

全国の病児保育施設数と種類

2022年の調査結果(※)によると、全国の病児保育施設の数は約1898施設です。この中で、体調不良児対応型のみを実施する施設は除外されています。

病児保育事業の運営状況及び地域支援の取組に関する調査研究報告書|三菱UFJリサーチ&コンサルティング

また、病児保育施設は以下の3種類に分類されます。

またこれらの施設型とは別に、訪問型の病児保育サービスも存在します。これは看護師や保育士が自宅を訪問して保育を行うものです。

利用条件や費用

病児保育の利用条件は自治体や施設によって異なりますが、一般的に共働き家庭や保育が必要な子どもが対象となります。利用料金は自治体ごとに定められており、1日の利用で2000~2500円程度が一般的です。

病児保育の今後の展望 

病児保育
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病児保育は現代社会において欠かせない支援サービスのひとつですが、施設の運営側と利用者それぞれに課題が多く存在します。しかし、より多くの人が利用できるようになれば、子育てと仕事の両立が可能となり、急な子どもの病気による休職や離職を防ぐことができます。

最近では、病児保育の利用体制改善に向けた具体的な動きがみられます。例えば、こども家庭庁では令和6年度保育関係予算概算要求において、病児保育におけるICT化の推進を盛り込みました。これにより、管内の病児保育施設の70%に予約システムを導入した自治体への補助率が引き上げられる予定となっており、利用者の利便性向上と施設の運営効率化が期待されているほか、事業の安定的な運営を図るための支援強化も計画されています。

さらに、厚生労働省は病児保育施設の職員配置について、一定の条件下で常駐を要件としない柔軟な対応を認めています。これにより、利用児童がいない時間帯には連絡を受けた保育士や看護師が迅速に出勤できる体制を整えることができるでしょう。

病児保育の利用体制が整備されることで親が働きやすくなる一方、子どもの健康を優先できる環境が整うこともまた大切です。社会全体が今一度この問題と向き合い、家庭と仕事のバランスを考慮した支援体制が構築されることを願っています。