初任給30万円以上の企業が続出!一方で就職氷河期世代からは恨み節
監修・ライター
少子高齢化で深刻な人手不足となる中、優秀な人材を確保するため、初任給を引き上げる企業が増えています。ユニクロや大和ハウス工業といった大手企業では、初任給を30万円以上に引き上げる企業も少なくありません。景気のいいニュースの一方で改めてクローズアップされたのが、就職氷河期世代。就職氷河期世代は初任給30万円以上の企業が続出というニュースをどのように受け止めているのでしょうか。
東京海上日動は最大で41万円
このところ、新卒社員の初任給を上げている企業が続出しています。衣料品店「ユニクロ」や「GU」を展開するファーストリテイリングは2025年3月以降に入社する新卒社員の初任給を30万円から33万円に引き上げることを発表しました。また、大手住宅総合メーカー・大和ハウス工業は1月20日、今年の4月から入社する新卒社員の初任給を従来の25万円から35万円に引き上げると発表しました。
これまで他業種の大手企業と比べると初任給が低く抑えられてきた金融業界でも初任給の引き上げラッシュが起きています。2022年までの大卒初任給は、メガバンクを含む大半の銀行が20万5000円でした。しかし、三井住友銀行が2023年4月入行の大卒初任給を25万5000円へと引き上げると他のメガバンクも追随。みずほ銀行は2024年4月入行からの大卒初任給を26万円へ、三菱UFJ銀行も25万5000円に引き上げています。
さらに、三井住友銀行は2026年4月から、大卒初任給を一気に4万5000円上げて30万円とすると発表。大手日系銀行としては初めて30万円の大台に乗せています。
また、一定の条件をクリアすると初任給が上がる制度を取り入れた企業もあります。例えば、明治安田生命では転勤の可能性がある職種の初任給は最大33万2000円。東京海上日動は、引っ越さなければならない地域に赴任する場合には、最大で41万円まで初任給を引き上げるとしています。
深刻な人手不足、就職市場は空前の売り手市場
こうした動きの背景にあるのは、深刻な人手不足です。少子高齢化に伴い学生の数自体が減少していることに加えて、バブル時代に大量採用した世代の退職に備えた新卒採用数が各社増えていることが人手不足の主な理由です。
現在の新卒採用市場は完全に売り手(学生側)に有利な局面にあります。リクルートワークス研究所の「ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)」によると、2025年3月卒業予定の大学生・大学院生の求人倍率は1.75倍。求人総数は約79.7万人だったのに対して、学生の民間企業就職希望者数は約45.5万人。約34.2万人の需要超過という売り手市場となっています。
学生向け就職情報サイトを運営する株式会社マイナビが行った「マイナビ 2025年卒企業新卒採用予定調査」によれば、76.6%の企業が2025年卒の新卒採用は「厳しくなる」と予想しています。
実質賃金が1%増加すれば消費は0.5%増加すると言われており、新卒社員の初任給が引き上げられることは基本的に良いことだと筆者は考えています。初任給が上がれば上の世代の給与も上げなくてはならないでしょう。実際に大和ハウス工業は初任給の引き上げと同時に現行の給与水準も見直し、正社員の年収を平均10%引き上げる方針を示しています。
賃金が増えれば可処分所得も増えるため消費も拡大。消費の拡大→企業収益のアップ→さらなる雇用や賃金の増加という経済の好循環が、賃金アップによって期待されるところです。
就職氷河期世代への支援は必須
初任給アップのニュースは、喜ばしいことである一方で、ある問題を社会に思い出させるものでもあります。それは、就職氷河期世代の問題です。
就職氷河期とは、1990年代から2000年代にかけて、雇用環境が厳しく就職難が社会問題化した時期のことです。そして、この時期に就職活動をしなければならなかった世代のことを就職氷河期世代と言います。2024年時点では30代後半から50代前半が就職氷河期世代にあたります。
大学卒業者に占める就職者の割合は、1990年は81.0%でしたが、90年代後半から2000年代初頭にかけて低下していき、2003年には過去最低の55.1%を記録しています。大学を卒業しても半分近くの人が企業に正社員として就職できなかったのです。筆者も就職氷河期世代の一人でしたが、数名の採用枠の企業に対して、数百人、数千人が応募するといった話は決して珍しいものではなかったと記憶しています。
初任給30万円以上の企業が続出しているというニュースに対して、就職氷河期世代からはSNS上で恨み節のような投稿が相次いでいます。
「羨ましい。未だに(30万円)超えないし、超えるまで何十年かかるんだ?」
「いまや面接で学生が『初任給を引き上げましたか』『定時に帰れますか』と質問する時代。そんなこと口が裂けても言えませんでした。」
「口だけの新入社員に多くの金を払い氷河期世代を大事にしない企業は潰れたら良い」
「初任給が30万円とかニュースで言っているけど、ウチら氷河期世代はその金額になるまで何十年もかかってんだよ。」
「私は初任給17万円で代わりはいくらでもいる、昇給は雀の涙という時代だったので違う世界線な感じです」
国民民主党の玉木雄一郎代表は、就職氷河期世代に対して次のように話しています。
「若い頃に十分に納められなかった彼らの年金をどうするか。政治が作り出した世代。政治が責任を取らなければならない。就職氷河期世代の問題にアプローチする政策を出したい。」
自民党は専門的な知識やスキルを学ぶことができる体制を強化する方針を打ち出し、立憲民主党は充実した教育体制と正規雇用で働ける制度改革を掲げています。
2030年代には就職氷河期の始めの世代が65歳以上の高齢者となります。就職氷河期世代の貯蓄額は他の世代と比べて圧倒的に少ないと言われています。このままこの問題を放置していると生活に困窮した高齢者が続出ということにもなりかねません。世代の一人だから言うわけではありませんが、この問題に対しては与野党が協力してできるだけ早く解決策や支援策を導き出してもらいたいところです。