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米国の信用格付けがついに最上位割れで黄信号?—米現地報道は

N.Y.発、安部かすみの今気になる最新マネートピック 安部 かすみ(あべかすみ)

米国の信用格付けがついに最上位割れで黄信号?—米現地報道は

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アメリカの大手格付け会社、ムーディーズ・レーティングスは5月、アメリカの信用格付けを最上位から1段階引き下げたと発表しました。これによりアメリカは、大手格付け3社のいずれの最上位格付けも失ったことになり、日本でも広く報じられました。アメリカ現地の報道はどうだったのでしょうか(情報は2025年6月末時点)。

大手格付け3社のすべての最上位失う

【画像出典元】「Hamburg /Germany - April 11, 2015: AAA - triple A rating concept image - credit rating sign - symbol for a financial credit notation/Shutterstock.com」

米大手格付け機関のMoody's Ratings(以下ムーディーズ)は5月16日、財政赤字の拡大への懸念などを理由にアメリカ政府に対する信用の格付けを最上位から1段階引き下げたと発表しました。

これは事実上、アメリカ国債の格下げを意味します。債券などの国際的な信用格付けと金融リサーチをする同社が、アメリカの長期国債格付けを最上位の「Aaa」から1ノッチ引き下げ、上から2番目の「Aa1」に変更したことにより、米国債は大手格付け3社(S&P、Fitch、Moody's)のいずれも最上位格付けを失いました。日本のメディアや専門機関でも報道されていて、「揺らぐ米国債の安全神話」(第一生命経済研究所)、「米国離れ再燃のきっかけにも」(野村総合研究所)などと指摘されています。

米格下げの余波はさらに広がりました。ムーディーズは3日後の19日、米銀大手5行の預金の信用格付けなどを一段階引き下げ、上から3番目の「Aa2」にしたと発表しました。大手5行とはJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン、ステート・ストリートです。日本では『政府支援「能力低下」』(日本経済新聞)などと報じられています。

アメリカ現地の報道は

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アメリカの現地メディアでも大きく報じられました。ムーディーズが1世紀以上にわたり維持してきた我が国の最高格付けを剥奪した(伝統が途切れた)「歴史的な動き」として報じられているのが印象的です。ほか大手2社、S&PとFitchがすでに格下げをしていた中で、ムーディーズが最後の主要機関であったため、その意味合いは大きいのです。

例えばこのような報じられ方です。
◾️「ムーディーズの米信用格付けの引き下げは、国家債務増大のリスクを浮き彫りにした」、(主要3格付け機関の判断は)は「アメリカの債務と赤字の増大に対する深い懸念を反映。(中略)アメリカの持続不可能な財政路線に対処する必要性について強いメッセージを送るものになるだろう」(共にピーターGピーターソン財団)

◾️「ムーディーズは増大する36兆ドル(約5200兆円)の国家債務への懸念を理由に信用格付けを引き下げ。この動きはトランプ大統領の減税政策を複雑にし、世界の市場に波紋を広げる可能性がある」(ロイター)

◾️「ムーディーズは、2017年の減税・雇用法が延長されれば、今後10年間で連邦政府の基礎財政赤字(利払いを除く)が4兆ドル(約580兆円)増加するとの見通しを示した」(CBSニュース)

一方で、現政権や関係者は不満を募らせています。ムーディーズの今回の発表後、トランプ氏の側近からは批判が出ました。この報を受けたホワイトハウスのクッシュ・デサイー副報道官は、トランプ政権と共和党は前政権の混乱を収拾するため、政府の無駄遣いや不正などを削減して、国の再建に集中しているとし「ムーディーズに少しでも信頼性があれば、過去4年間の財政破綻が進む中、沈黙を守ることはなかっただろう」と反論。

トランプ氏の元上級経済顧問でヘリテージ財団エコノミスト、スティーブン・ムーア氏もムーディーズの発表内容をとんでもないと非難しました。「アメリカが保証する国債がトリプルA格付け資産でないなら、ほかにいったい何がそうだろうか」とロイターに語っています。

CBSニュースは、米信用格付けが引き下げられたことで「政府の債務増大に対する投資家の懸念が浮き彫りになった」と報じました。また「(ムーディーズは)トランプ大統領の貿易優先事項の変化によって政策の不確実性が高まっている環境も強調。(中略)連邦政府の財政赤字は2024年のGDPの6.4%から2035年までにGDPの9%に拡大すると予想」と述べています。

その予想の主な要因として「債務に対する利払いの増加、社会保障などの義務的支出の増大、そして比較的低い歳入水準」を挙げています。またCBSニュースが報じた米議会予算局の予測として、現在のGDPの約100%に相当する連邦債務(累計赤字)が2035年には118%に増加すると予測。戦略国際問題研究所(CSIS)は、改革が行われなければ債務は2055年までにGDPの156%に達すると予測。これは1946年の106%という過去最高値をさらに上回る数字です。

南米コロンビアも格下げに

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ちなみにムーディーズとS&Pは6月末に、南米コロンビアの信用格付けも1段階引き下げています。同国の財政悪化などを理由に、ムーディーズはこれまでの「Baa2」から投資適格等級でもっとも低い「Baa3」に、S&Pは「BB+」から「BB」にそれぞれ引き下げられています。