お金

日本の外貨準備高が7月末に93億ドル減少、放置すると何が起きる?

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

日本の外貨準備高が7月末に93億ドル減少、放置すると何が起きる?

【画像出典元】「Andrii Yalanskyi/Shutterstock.com」

財務省によると、2025年7月末時点の日本の外貨準備高は、1兆3044億ドル。前月と比較すると90億円以上が減少した計算になります。ただ、外貨準備高という言葉はニュースでもあまり一般的ではないため、どんなものかよくわからないという方も多いでしょう。そこで今回は、外貨準備高の役割とは?不足するとどうなるの?という点について、この記事で詳しく解説します。

日本の外貨準備高は右肩上がりに増加

外貨準備高は右肩上がり
【画像出典元】「stock.adobe.com/Takeshi」

財務省は8月7日、今年7月末時点での日本の外貨準備高が1兆3044億ドル(約191兆円)だったと発表しました。6月末と比べて93億ドル以上減少しました。

1980年時点の日本の外貨準備高は、約380億ドルほどでしたが、バブル経済最盛期の1988年には1000億ドルを突破。その後は、多少の変動はあれ長期的に見れば一貫して増加傾向にあり、2008年には初めて1兆ドルを超えました。ここ10年ほどは、1兆2000億ドル~1兆4000億ドルあたりを行ったり来たりしています。

そして、日本の2024年時点の外貨準備高は中国(約3兆4000億円)に次ぐ世界第2位です。「中国に次ぐ世界第2位」と聞くと、「この分野でも中国に勝てないのか…」と思う方もいるかもしれませんが、それは違います。外貨準備高の多寡がその国の経済規模を表すわけではないからです。

現に、世界最大の経済大国であるアメリカの外貨準備高は約9000億ドル、GDP(国内総生産)世界第3位の座を日本から奪ったドイツは、約3800億ドルと日本より相当少ない額となっています。

日本は40年以上、一貫して外貨準備高を増やそうとしてきました。実際に40年あまりの間に、日本の外貨準備高は30倍以上に増えています。さて、GDPなどと違い、国の経済規模を図るための指標ではない外貨準備高を日本はなぜ、ここまで増やそうと努力してきたのでしょうか。

外貨準備の役割とは

外貨
【画像出典元】「stock.adobe.com/Heng」

外貨準備とは、各国政府や通貨当局の管理下にある外貨建て資産のことで、外貨準備高はその保有量のことを指します。預金や証券、金などが外貨建て資産にあたりますが、日本ではほとんどを米国財務省証券(米国債)で保有しています。つまり、日本はアメリカの国債を大量に保有しているということです。

それではなぜ、日本円をアメリカ国債に変えて保有する必要があるのでしょうか。外貨準備は、対外債務の返済や緊急事態における物資輸入への備えのほか、外国為替相場の安定を図る時にも使われます。直近では2024年4~5月に円安の抑え込みを目的に為替介入が行われたと言われていますが、その原資は外貨準備です。簡単に言えば、外貨準備高が大きければ大きいほど、国際的な信用が高まるのです。

個人間のやり取りでも同じことが言えます。たとえば、あなたが何らかのお店を経営していたとしましょう。そのお店に外国から来たお客さんが、あなたが見たこともない通貨で支払おうとしたとします。当然、あなたは断るでしょう。なぜなら、その通貨にどれ位の価値があるか分からないし、その通貨の信用度合も分からないからです。

例えば、今はその通貨に1000円相当の価値があっても、明日には500円相当に暴落してしまう。そんなこともあるかもしれません。実際にはそんな乱高下は、歴史的に見てもほぼないのですが、心配になってしまう気持ちはわかりますよね。

これが「ドルで支払う」「円で支払う」となったら、どんな印象を持つでしょうか。どこかの国の価値がよくわからない通貨より、安心してモノを売れるとは思いませんか。この場合のドルや円が、国で言うところの外貨準備なのです。

外貨準備が不足すると起きることとは

チェスの駒
【画像出典元】「stock.adobe.com/Qeeraw」

それでは、外貨準備高が不足するとどうなるのでしょうか。まず考えられるのが、自国通貨の安定が図れなくなる恐れです。前述のように、外国為替市場で自国通貨が急激に変動した場合には為替介入を行うことになるのですが、その原資は外貨準備です。外貨準備が不足すると充分かつ効果的な介入が難しくなり、通貨の安定が図れなくなる可能性があります。

さらに恐ろしいのは、外国の資本が一斉に日本から引き揚げていく可能性です。外貨準備の不足と、それに伴う円の不安定化によって、日本との取引に不安を覚える国が出てこないとも限りません。

1997年に起こった「アジア通貨危機」では、自国通貨の暴落を外貨準備高の不足で止めることができず、対外債務は急激に増加。アジア各国では、外資の大量かつ急激な国外への資本逃避が起きました。その結果、タイ・インドネシア・韓国は、経済に甚大な打撃を受け、IMF(国際通貨基金)の管理下に入りました。

さて、今年7月末の外貨準備高が6月末と比べて減少した日本ですが、これは心配しなくてもいいのでしょうか。結論から言えば、現時点で心配する必要はないでしょう。前月から減ったと言っても、その額はわずか。誤差と言ってもいいでしょう。ただし、外貨準備高が急激に減少する場合は、注意が必要です。外貨準備高は毎月財務省のホームページに掲載されています。急な経済危機に備えるためにも、ぜひ定期的にチェックしてみてください。