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離婚後の養育費問題、ここだけは押さえておきたいポイントを指南

そなえる 中村 賢司

離婚後の養育費問題、ここだけは押さえておきたいポイントを指南

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縁あって結婚した二人でも、さまざまな理由で別々の道を歩む選択をすることもあるでしょう。夫婦二人だけならまだいいのですが、二人のあいだに子どもがいる場合はそう簡単には行きません。子どもの養育費をどうするかは離婚協議の大きなテーマになるでしょう。

どれくらいのカップルが離婚しているの?

1980年の離婚件数はおよそ14万件でしたが、2019年の離婚件数は約21万件となりました。この数値を見ると40年で約1.5倍の件数になっています。ちなみに婚姻件数は1980年に約78万件、2019年で約60万件となっており、結婚した夫婦の約3分の1は離婚しているイメージです。


生命保険文化センター:https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifeevent/mariage/10.html

1986年に施行された男女雇用機会均等法により女性の社会進出が促され、経済的に独立した女性が増えた影響もあり、離婚の数も増えているように見えます。

養育費はどうやって決まる?

養育費
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(1)そもそも養育費とは?

離婚により父親と母親は夫婦ではなく他人になりますが、親子関係は消滅しません。そのため父親もしくは母親のもとで暮らすお子さんの生活や進学のための費用をもう一方の親も準備する必要があります。この費用を養育費と呼びます。養育費は主に衣食住・医療費・教育費に充てられます。また養育費はお子さんを引き取っていない方の親から支払われるものです。そのため誤解されがちですが、仮に父親が子どもを引き取って育てていくケースでは母親に養育費の支払い義務があります。

(2)養育費の決め方、養育費はいつまでもらえる?

さて離婚という選択をし、お子さんのための養育費をどうするかがテーマになった場合、どのような流れになるのでしょうか?ここでは一般的な流れを紹介します。
養育費に関しては法的にいくら支払うのかなどは決まっておらず、夫婦で自由に決めることができます。離婚協議で養育費に関して決める項目は以下の内容があげられるでしょう。

  • 支払い始期   → いつから支払うのか?
    支払い始期は離婚が成立した月もしくは翌月からスタートすることが一般的です。
  • 支払い終期   → いつまで支払うのか?
    子どもが成人を迎える20才になるまでか大学を卒業するまでのどちらかが多いようですが、高校卒業までとしている場合もあります。
  • 毎月の支払い額 → いくら支払うのか
    法的な定めはありませんので基本的には夫婦間の話し合いで決まります。支払い額の基準となるデータはありますが、ポイントとしては現実的に支払える額であることです。詳しくは後述します。
  • 支払い日
    一般的には、給料の支払い日から一週間以内などが多いようですが、夏冬のボーナスに合わせて支払い日を決めることもあるようです。
  • 振込先
    引き取った子どもが複数の場合は親名義が多いようですが特に決まりはありません。

(3)養育費の相場は?

ここでは厚生労働省がまとめた平成28年度全国ひとり親世帯等調査から見ていきましょう。いちばん気になる点は「養育費はいくらなのか」だと思います。

まずは母子世帯、父子世帯、子どもの数により、養育費にどの程度の違いがあるのかをまとめてみました。

出典:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188147.html
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11920000-Kodomokateikyoku/0000188168.pdf

母子家庭の平均で4万3707円となっており、子ども一人の場合で3万8207円です。子ども二人の場合で4万8090円ですので単純に倍にはなっていません。父子家庭では、子ども一人の場合で2万9375円となっており、一般的には母子家庭よりも金額的に少なくなっています。これは男性の方が一般的に女性よりも収入が多いことが関係していると思われます。

(4)年収により金額が決まる?

離婚時の養育費に関する目安を定めた標準算定方式・算定表を家庭裁判所が公開しています。養育費は一般的に支払う側の収入が多ければ多いほど金額が高額になり、また受け取る側の収入が多ければ受け取る養育費の金額が低くなる傾向があります。
ここでは0才~14才の子ども一人のケースで、支払い側の年収別に、毎月の目安を比較してみます。

出典:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告に基づき著者が作成

https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file5/youiku-1.pdf

いかがでしょうか?
上記の養育費の額が多いか少ないかは考え方がありますので論評は避けますが、裁判所で調停をする際は上記の数値を目安に話し合いが行われることが多いようです。ただし実際に重要なのは支払いを続けることが可能な金額です。金額によっては継続ができない可能性もあります。相手にも自分の生活があり、最終的には事前に考えていた金額よりも少ないケースが多いようです。

(5)子どもが一人と二人以上の場合の金額は?

上述しましたが母子家庭の場合、厚生労働省の調査によれば子ども一人の場合は3万8207円、子ども二人で4万8090円でした。離婚後に扶養する人数が多ければ生活費や教育費などの費用もたくさん必要になりますが、だからといって養育費が比例して増えるかというと現実問題として難しいという現状があるようです。

(6)養育費に所得税はかかるの?

子どもに対する養育費は原則非課税です。子どもが成人するまでの扶養義務は離婚して親権を持たない親にも発生し、法律上では「養育費は扶養義務に基づき支払われるもの」という取り扱いになります。そのため養育費は生活費や教育費という扱いであれば所得税・贈与税などの対象にはなりません。注意点としては一時金でまとめて養育費を受け取り、その資金で金融商品を購入したりすると生活費とは見なされず贈与税の対象になる可能性もあります。

養育費を払ってもらえない場合には?

離婚の話し合い
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(1)ほかの家庭では養育費をもらえているの?

厚生労働省が発表している平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告によると、調査時点で養育費を受け取れている母子家庭は全体の23.4%であり、4人に1人しか受け取れていません。また全体の56%が養育費を受け取ったことがないという結果になっています。ちなみに父子家庭では86%の世帯で養育費を受けたことがないという結果になっています。かなり衝撃的な数字ではないでしょうか?

(2)なぜ養育費を支払わないの?

厚生労働省の調査結果では「養育費を支払わなさそう、支払う気持ちがなさそう」・「支払うことは難しそう」という諦めともとれる回答も目立ち、離婚時に養育費の取り決めができているカップルが全体の4割程度でした。

相手の所得が多くない場合はそもそも支払い能力が欠如していることが多く、所得が多い場合は再婚して新しい家庭での新生活を優先していることもあるようです。また勤務先からの給与が下がり当初の金額を支払えないなど経済状態の変化も考えられます。

いずれにしても日本では養育費に関して公的な定めはなく、婚姻関係にあった二人で解決するという風潮があり、子どもを引き取った親権者に経済的な負担を強いるケースが多かったのです。

(3)養育費を支払わないことに対して罰則はないの?

養育費を支払う約束をしたにも関わらず、離婚してしばらくすると支払いがストップする、または結果として一度も支払ってもらえていないというケースが見受けられます。

もし養育費の支払いがなければ子どもを引き取った親にとっては経済的に厳しい状況になり、子どもにとって不利益な状況が予想されますが、養育費の不払いは前科がつくような刑事罰の対象ではありませんでした。そのため、親権者が不払いになっている養育費を求めても、支払ってもらうことは容易ではありませんでした。しかし、この状況が2020年4月に大きく変わりました。

(4)払ってもらえない場合にとれる対処法は?

養育費を巡る現在の状況に対して国が動き、2020年4月に改正民事執行法が施行されました。この改正により養育費を支払わない相手の財産差し押さえを求めることが容易になりました。

これまでも財産の差し押さえを求めることはできたのですが、相手の預貯金なら金融機関名や支店名、給与なら勤務先がわからないと手続きに入れませんでした。また相手が虚偽の報告をしていたとしても罰則が軽いため、養育費の支払いを求める有効な手段になっていませんでした。

今回の改正の結果、第三者からの情報取得手続きを利用することで相手の勤務先や資産状況を調べることが可能になり、結果として給与の差し押さえなどの強制執行などが容易になりました。

また支払い義務を守らなければ刑事罰(前科がつきます)が課され、罰則も6カ月以下の懲役・または50万円以下の罰金となり、これまでと比較して重い罪を負うことになります。法改正の結果、以前よりも養育費の回収がしやすい環境が整えられたといえるでしょう。

(5)養育費をきちんともらうには公的な手続きを活用するのがポイント

現状では養育費が支払われている家庭の割合や支払いの継続率は低くなっています。そのため、養育費をきちんと受け取れるように、公証人が作成する公正証書を活用するケースが増えています。

公証人は裁判官、検察官、弁護士あるいは法務局長や司法書士など長年法律関係の仕事をしていた人から法務大臣が任命します。公正証書に、相手が約束通りに養育費を支払わない場合には強制執行もやむを得ないとの内容の条項(強制執行認諾条項)を入れることができます。

この条項を入れることで、裁判を行わなくても強制執行=差し押さえが可能です。また公正証書は金銭にまつわる契約全般に用いられるので養育費のほかに財産分与や慰謝料などを盛り込むことができます。

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