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なぜ2%物価上昇を目指すのか?その目標の本当の目的とは?

経済とお金のはなし 竹中 英生

なぜ2%物価上昇を目指すのか?その目標の本当の目的とは?

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2%の物価上昇の目標を導入して10年超となりました。2023年11月、日銀の植田和男総裁は目標達成に向けて「見通し実現の確度が少しずつ高まってきている」との認識を示しています。

このニュースを聞いて、皆さん不思議だと思いませんでしたか?物価が上がったら生活が苦しくなるのにどうして政府は躍起になって物価を上げようとしているのでしょうか?また、その目標が1%でも3%でもなくどうして2%なのでしょうか?

本日は、インフレターゲットの果たす役割とその目的についてお話しします。

経済政策のうち最も重要なのは「失業率を下げること」

ビジネスマンと感嘆符
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世界中のどの国も、その国の事情に即した経済政策を打ち出し、一定の範囲内での景気循環を作り出そうとしています。発展途上国であれば道路などの社会インフラ整備の重要度はかなり高いでしょうし、先進国であれば少子化対策や環境問題対策など達成すべき目標は目白押しです。こうしたさまざまな経済対策の中で、国家にとって最も大切な経済政策とは何でしょうか?

答えは「失業率を下げること」です。実はこれは、どの国にも共通している国家の最重要課題なのです。とりあえず失業率さえ下げておけば、国民に最低限の暮らしを提供することができます。もちろん賃金は高ければ高いほど良いに決まっていますが、まずは職に就かなければ話になりません。国家が破綻したり大混乱したりしている時は、必ず失業率が数十パーセントになっています。したがって、失業率を下げることが国家の経済対策にとって最も大切な事なのです。

中央銀行の役割とは

中央銀行は、政府と連携して金融政策を行っています。日本ではその役割を日本銀行が担っていますし、アメリカ合衆国の場合はFRB(米連邦準備理事会)がそれに相当しています。

FRBは、「物価の安定」と「雇用の最大化」を目標にしているため、失業率やインフレ率、賃金上昇などの景気指標をもとに通貨供給量や金利の誘導目標を決め、積極的に市場に介入(公開市場操作)しています。

では、日銀の目標は何でしょうか?日銀のホームページをのぞいてみると、日本銀行の目的は、『「物価の安定」を図ることと、「金融システムの安定」に貢献すること』と書かれています。つまり、FRBが掲げている「雇用の最大化」は日銀の目標にはなっていません。少し意地の悪い見方をすると、「国民の失業率がどれだけ上がろうとも、それは日銀の仕事ではない」というスタンスなんですね。

そこで政府が重い腰を上げ、毎度毎度日銀総裁とインフレターゲットについての話し合いを行うわけです。

インフレ率と失業率の関係

下降する雇用グラフ
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では、総理が日銀総裁とインフレ率について話し合うことが、失業率といったい何の関係があるのでしょうか?

金融緩和と失業率について

日銀が政策金利を引き下げたり、資金供給量を増やしたりすることを「金融緩和」といいます。金利が下がれば企業や個人がお金を借りやすくなるため、市中に資金が出回るようになります。また、政府が国債を発行して日本銀行がそれを買い取ると、同じように市中に大量の資金が出回ります。このように、世の中に出回るお金の量が増えた結果、緩やかに物価が上がっていくことをインフレといいます。

インフレになると、たとえば昨年100円で買えていたものが今年は102円になります。もし給料が昨年と同じであれば、買えるものの量が少なくなってしまいます。つまり、実質賃金が下がるわけです。

実質賃金が下がると、企業にとって労働コストが下がって「お得・お値打ち」な状態になります。その結果、「雇用を拡大してガンガン増産していこう!」という経営判断がされるため、失業率は低下していくのです。

失業率はどこまで下がる?

インフレにして失業率をどんどん下げていくとすると、いったいどれくらいまで下がると思いますか?残念ながらゼロになることはありません。なぜなら、転職に伴い一時的に失業期間が発生したり、就きたい職業と募集している求人のニーズが合わなかったりするため、失業者がどうしても一定割合生じてしまうからです。ちなみに、これらの理由で発生する失業を「摩擦的失業」といいます。

下図をご覧ください。


出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構作成『完全失業率、有効求人倍率1948年~2020年 年平均』より一部抜粋

1948年から2020年までの完全失業率を見てみると、1970年代には1%台前半という驚異的な数字を叩き出している時もありましたが、90年代以降は最も低くても2%台です。このように、過度のインフレを引き起こさない程度の失業率の下限(自然失業率)のことをNAIRU(ナイル:Non-AcceleratingInflation Rate of Unemployment)といいます。

NAIRUと失業率は一定の相関関係があり、失業率がNAIRUを割り込む(=失業率がめちゃめちゃに下がる)と急激にインフレが加速するといわれています。

ここまでのまとめ

少し話が難しくなってきましたので、ここまでの話をまとめてみます。

  • 中央銀行の役割の一つは、金融政策によって失業率を下げること(ただし日銀を除く)
  • 金融緩和を行うとインフレになって失業率が下がる
  • 日本では、失業率は下がっても2%程度
  • 失業率が2%台前半を達成しても金融緩和を続けると過度のインフレになる恐れがある

インフレ率と失業率と給料の伸び率について

失業者たちのイラスト
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最後に、インフレ率と失業率と給料の伸び率の関係についてお話しします。

インフレ率2%だと失業率はどれくらい?

インフレ率と失業率には一定の相関関係があることは先ほど述べたとおりですが、ではインフレ率が2%だったら失業率はどれくらいになると思いますか?これは今までのデータとさまざまな計算などから、だいたい2.5%前後だといわれています。つまり、これが失業率の下限です。

冒頭でお話しした物価の上昇目標がどうして2%なのかと言うと、そのあたりが日本のNAIRUだからです。ですから、1%でも3%でもなく2%なのです。

インフレ率2%で失業率2.5%だったら給料の伸び率はどれくらい?

インフレ率が2%で失業率が2.5%程度まで落ちてくると、労働市場は売り手市場になります。つまり、人手不足になるわけですね。人手不足になると賃金を上げてでも人が欲しい状態になるわけですから、自然と賃金は伸びていきます。この時の伸び率は、だいたい3%前後といわれています。

ちなみに、5月18日にオーストラリアの中央銀行(オーストラリア準備銀行)が公表した5月の理事会議事要旨でも、「インフレを生むためには賃金の伸びが持続的に3%を超えることが必要になる」と述べられています。

人件費を下げるために外国人労働者を使うって強引過ぎやしませんか?

インフレ率と失業率は密接に関係しています。失業率が改善すればやがて賃金も上がるわけですから、「どんどん金融緩和をして頑張れ!」と政府を応援したくもなりますが、残念ながらそういうわけにも行きません。

経済界は、何としても人件費を上げたくないので、外国人労働者の規制緩和と海外からの移民を政府に要望しています。移民によって日本国内にどのような影響が将来及ぶのかを、果たしてどれくらい真剣に考えているのでしょうか?

外国人労働者規制緩和の前は、労働者派遣の緩和を強く望んでいました。日本では、もともと人材派遣は許されていませんでしたが、今ではご存じのとおり、ほぼ何でもありの状態です。その結果人件費は安く抑えられましたが、日本人の平均賃金はあっという間にビックリするほど下がり、今では先進国中で下から数えた方が早くなってしまいました。

このような状況の中でも、若い起業家たちはソーシャルベンチャーを立ち上げ、社会貢献や社会問題の解決を目的とした事業を行おうとしています。周囲の人たちと共感し、つながるための努力や、寄付・献金などを惜しまない社会を作ろうと奔走しています。

小手先だけの政策のツケを将来とらされるのは、いつも若い世代です。政府には、次の世代の人たちが希望をもってこの国で暮らしていけるように、彼らにも配慮した政策の実現を望みます。なぜなら、いつの時代も世界を変えていくのは彼ら若い世代だからです。