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個人の副業にも影響あり!インボイス制度、登録は来年3月まで

そなえる 内山 貴博

個人の副業にも影響あり!インボイス制度、登録は来年3月まで

【画像出典元】「Tetiana Yurchenko/Shutterstock.com」

「インボイス制度が始まる」というフレーズを、最近見聞きすることが多くなっていませんか?企業の総務・経理部門の方は既にご存じで準備を進めていると思いますが、他部門で一般社員の方は、特に自分たちには関係のないことだと思われているかもしれません。しかし、副業をしている方には他人事ではないかもしれませんよ。今回は2023年10月からスタートするインボイス制度について、仕組みや個人の副業に与える影響についてお伝えします。

インボイス制度とは

インボイス制度とは「適格請求書保存方式」のことを言います。
例えばみなさんが文房具屋を営む店主だとします。300円のボールペンを消費税率10%上乗せして330円で販売した際に、店主として納税する消費税額は30円でしょうか?実は違います。店主もボールペンを仕入れる際に消費税を払っているので、その分を差し引いた額が納税額となります。

もしボールペンの単価を100円、税込110円で仕入れていた場合、既に10円消費税を負担しているため、30円-10円=20円が納税額となります。そしてここで差し引くことができた10円を「仕入税額控除」と言います。この仕入税額控除である10円を正確に把握するためにインボイス制度が導入され、2023年10月から運用が開始されます。

この制度の下、発行される「適格請求書」がインボイスであり、このインボイスを保存することで仕入税額控除が認められます。そしてこのインボイスを発行するためには事前の登録申請が必要となります。この登録は2023年3月までが期限となっています。

消費税の基本を整理

私たちは日頃の買い物で消費税を払っていますが、1人の消費者として消費税を税務署に納税する手続きを行うことはありません。消費税は間接税のため、消費者などからお店がいったん預かり、お店が納税をするという流れになっています。よって、今回の話は会社員で給与をもらって生活をしている人は特に大きな影響はありませんが、個人・法人問わず、商売をしている人には大きく関係してきます。

消費税の納税については、通常の課税業者に加え、簡易課税制度を導入している業者と免税業者の大きく3つに分けられます。簡易課税と免税について以下で説明します。

簡易課税と免税の説明

上の表からも分かるように、簡易課税か免税のどちらかに該当していれば、細かく仕入税額控除を把握する必要がないため、2023年10月以降もインボイスを保存する必要はありません。

では、今回の大きなテーマである「個人の副業」について目を向けてみましょう。

例えば会社勤めをしながら副業で1000万や5000万円以上稼ぐ人はそれほど多くないでしょうから、インボイス制度が導入されてもそれほど影響がないように思われますが、実際は影響するケースも考えられます。影響の有無、それぞれに分けて解説していきます。

会社員の副業とインボイス制度

交渉決裂
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会社員の副業でインボイス制度の影響があるケース

副業の収入が免税または簡易課税に該当すればご自身はインボイスの保存は必要ありませんが、影響があると想定されるケースは「企業などとの取引」です。

例えば企業(取引先)からウェブサイトの作成を依頼され副業で担っているとします。その企業は一般的な消費税の課税業者です。その取引先からすれば、消費税の仕入税額控除を行うためにはインボイスを保存する必要があるのです。つまり「副業をしているご自身としてインボイスを保存する必要がなくても、取引先が必要となる場合がある」という点が大きな影響です。

こういうやりとりが今後想定されるのです。この場合、取引先の消費税額の負担が増えることになります。

制度実施後も当面は免税業者との取引で一定の仕入税額控除が認められるような配慮がなされていますが、取引先がAさんに対して、インボイスに対応していない分、値下げを強要したり、場合によっては取引を停止したりといったことも考えられます。しかしこれは、大きな会社が小さな会社などに対し「優越している地位を利用している」などとして、「下請法」や「独占禁止法」に抵触する可能性があります。

インボイス制度開始後、どれだけ副業をしている人に影響が及ぶか未知数ですが、副業で企業(課税事業者)と取引している場合は注意が必要で、できれば事前に取引先とインボイスについて打ち合わせをしておくことが大切です。お互いが不利益とならず、気持ちよく今後も取引ができるような価格交渉や取引内容の見直しがなされる可能性は十分に考えられます。

会社員の副業でインボイス制度の影響がないケース

自身が免税または簡易課税で取引先も同様の場合は特に関係ありません。取引先も保存義務が無いため、インボイスを求められることはないでしょう。

また、雑貨を作ってネットで個人に販売しているという場合も同様です。購入している個人は一消費者であり、仕入税額控除を把握する必要がないためです。ただし、同じように販売していても企業から大きな注文を受注する可能性もあります。そういった際は先に紹介したような影響が生じる可能性があります。

これからの施行スケジュールは?

このインボイス制度は2023年10月1日に始まります。既に登録申請は始まっており、2023年3月31日までに登録申請書を提出すれば、10月1日の開始日よりインボイスが発行できます。つまり、2023年4月1日以降に申請書を提出した場合は開始日に間に合わず、登録されるまではインボイスが発行できないことになります。

まとめ~インボイス制度が事業展開の見直しにも~

インボイス制度
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小規模の会社や事業主にとっては消費税の申告が不要でも、インボイス制度が取引先との関係に影響を与える可能性があることが分かりました。

インボイスを発行できるようにと登録手続きを行えるのは「課税業者」です。つまり、1000万円以下の規模で事業を行っている場合、今後も消費税の免税業者であり続けるのか、インボイスを発行できる課税業者となるのか、こういった判断を迫られることになります。これは消費税・インボイス制度だけではなく、今後の事業全般について考える機会になるとも言えます。

会社員の副業も同様です。将来、この副業を本業にしたいと考えているのかどうかなど、目先の損得だけではなく、じっくり先を見据えながらインボイス制度と向き合ってください。また、雇用ではなく、業務委託などで仕事をしている人も同様です。特に免税の範囲内(売上1000万円以下)の場合が一番悩ましいところですが、じっくり検討し、必要と感じれば登録申請を行ってください。

なお、申請書は国税庁のホームページから入手でき、e-Tax(電子的な送付)または郵送でも申請可能です。