日本で選択的夫婦別姓にすると困る事は?メリットデメリットを整理
私たちの生活の基盤となるルールを定めているのが民法。その民法において「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定められています。現在、この定めを改正し「選択的夫婦別姓にすべき」という流れにあります。
今の日本の現状において選択的夫婦別姓を選んだ場合、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?改正されれば今後私たちの生活が大きく変わるかもしれません。1つ1つ解説します。
選択的夫婦別姓について国連が勧告
2024年10月、国連の女性差別撤廃委員会が8年ぶりに日本の取り組みを調査し、その調査結果を公表しました。それによると、「日本では女性が夫の姓を名乗ることを余儀なくされることが多い」と指摘し、女性に対する差別的な制度であり、希望すれば結婚前の姓を名乗れる「選択的夫婦別姓」を可能にする法改正を行うよう勧告しました。この勧告は2003年から3回行われており、今回が4回目となります。
勧告を受けた法務省は「把握している限り、結婚後の夫婦どちらかの苗字を名乗らなければならないのは日本だけである(※)」という見解を示すなど、関係省庁で検討し対応していく等少しずつ法律の改正に向けて動き出しています。
(※)法務省が調査を行った19カ国において
夫婦別姓とは~成り立ちの歴史と変遷~
江戸時代の身分制度「士農工商」は有名ですね。この身分制度によって平民は名字が名乗れなくなったといわれています。明治に入って名字が義務化されましたが、その理由は兵籍取り調べの必要上から軍が要求したものといわれています。実は当時は夫婦が別の名字を名乗る「夫婦別氏制」でしたが、妻が夫の氏を名乗ることが慣習化していき、昭和時代に制定された民法でも「夫婦同氏制」が定められたという経緯があります。
このように、明治や昭和時代に制定や改正が行われた民法がベースとなり、現在は「夫又は妻の氏を称する」となったのです。これを同じ名字を名乗っても良いし、それぞれ別の名字でも良いと選択できるようにしようという動きにあるのです。
「選択的夫婦別姓制度」といわれていますが、民法等の法律では氏(うじ)と呼ばれていることから法務省では、「選択的夫婦別氏制度」と呼んでいます。やや混乱しますが、基本的にはどちらも同じ意味です。
厚生労働省等の調査によると、結婚後に夫の名字を名乗る割合は約95%です。現在は夫も妻もどちらも働く共働き夫婦が一般的です。女性が名字を変えることにより、仕事や生活での不便さや不利益、アイデンティティの喪失などが選択的夫婦別姓制度の導入を求める動きに繋がっています。
では、私たち日本人は夫婦同姓、別姓、どちらを望んでいるのでしょうか?令和4年に法務省が公表した「家族の法制に関する世論調査」では選択的夫婦別姓制度の導入を支持している人の割合は全体の28.9%となっています。
性別で見ると、女性の方がやや選択的夫婦別姓制度の導入を支持する人の割合が高くなりますが、男女合わせた全体の結果と比較して、明らかに異なる結果というほどではありません。
アンケート結果で一番多かったのが「旧姓の通称使用の法制度を設ける」でした。これは結婚を機に夫婦同姓になるものの、仕事の時などに旧姓が使用できることを法律で定めるというものです。今でも結婚で姓が変わっても旧姓で働いている人はいますが、社会保険の手続きや税金の手続きなどは実際の姓で行うことになるため、完全な旧姓使用は難しい状況です。
この結果から、「旧姓の通称使用」が法的に整えば改姓への抵抗感が減り、夫婦同姓制度を維持しても問題ないと考える人が多いと見ることもできます。よって、「夫婦同姓制度維持」の割合と合わせると、ある意味6割以上の人が今後、夫婦同姓でも良いという見方もできます。
夫婦別姓のメリット、デメリットは?
今後も法改正に至るまで様々な議論がなされると思いますが、既婚者も未婚者も、今一度、夫婦が別姓を選択できるメリットとデメリットを把握しておきたいところです。
選択的夫婦別姓制度のメリットとしてはやはり今の時代にマッチしていることが挙げられそうです。結婚を機に改姓となれば運転免許証はじめ、様々な変更手続きが伴いますが、それらが不要となります。
住所変更など改姓をしなくても必要な手続きはありますが、各種手続きの負担は軽減し、また結婚に抵抗を感じている人の心理的なハードルを下げることに繋がるかもしれません。
さらには結婚のみならず離婚も含め、改姓により個人のプライベート面を必要以上に知られることがないというのもメリットでしょう。例えば離婚をきっかけに銀行口座なども1つ1つ旧姓に戻すといったことも必要なくなります。
一方、デメリットは心情的な意味合いが大きいでしょう。家族全員が同じ姓を名乗っていることが普通だという感覚を持っている人も多いでしょうし、家族内で姓が異なることで家族の絆などに少なからず影響が出ると指摘する専門家もいます。中には子どもの教育や福祉にとっても悪い影響が生じるという意見もあります。
明治時代から長きに渡り続く制度は私たち日本人の根底にある価値観を形成してきたといえるかもしれません。これを根底から覆した時、何らかの不具合やネガティブな影響があっても不思議ではありません。
事実婚におけるデメリット
日本の現行制度では夫婦別姓を希望する場合、事実婚(内縁関係)という形が選ばれています。事実婚とは婚姻届を提出せず、それぞれが別姓を名乗るパートナーのような関係です。内縁関係とも呼ばれます。法律上の「夫婦」とは認められないため、様々なデメリットが生じます。
選択的夫婦別姓制度が導入されれば、夫と妻それぞれの姓が違っても法律上の夫婦となります。つまり別姓であるだけで同姓の夫婦と特段変わりはありません。
一方、事実婚は婚姻届を提出しないため、法律上は夫婦ではないのです。1つ屋根の下お互い支え合い、夫婦同然に生活をしていても、法律上の夫婦とはみなされないため以下のようなデメリットが生じます。
事実婚における主なデメリット
・税制面の不利益
・相続権がない
・医療同意が認められない
・子どもの法的地位(非嫡出子)
税制上は「配偶者控除」といった所得控除を受けることができません。相続が発生した際、配偶者は必ず法定相続人となりますが、事実婚の場合は相続権がありません。
また医療同意についても、事実婚の場合は一般的に認められません。例えば本人の同意が難しい状況で緊急手術となった場合など親族が同意を求められますが、その際、事実婚だと配偶者とみなされないため同意することができません。
また、事実婚の2人の間に生まれた子どもは「婚姻関係がない男女の間に生まれた子」、つまり法律上は「非嫡出子」という位置づけになります。よって実際に出産した母親と子どもの間では親子関係が成立しますが、父親と子どもの間には父親が認知をしなければ親子関係が生じないなど様々なデメリットがあります。
ただし年金制度では事実婚について国民年金法、厚生年金法それぞれに以下のように記されています。
国民年金法第五条 7
この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。
厚生年金法第三条 四-2
この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届け出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。
つまり事実婚であってもパートナーが亡くなった場合には、遺族年金を受給する権利が認められています。このように事実婚を夫婦同様に扱ってくれる場合もありますが、概して各種制度ではデメリットの方が大きいというのが現状です。
まとめ
今回の要点をまとめます。
・国連の女性差別撤廃委員会から選択的夫婦別姓に法律を改正するよう勧告されている
・世論はじめ選択的夫婦別姓に慎重な見方もある
・現状で別姓を選ぶ事実婚は社会制度上、不利となることが多い
同様の問題といえるかもしれませんが、「同姓での婚姻を認めないのは憲法違反である」と訴訟を起こすカップルもいます。自由や平等が私たちの社会は大前提であるべきですが、それぞれの概念も捉え方次第で不自由や不平等となりかねません。
初対面の人とハグをする国もありますが、日本ではまずありえません。「いただきます」や「ごちそうさま」を英語や外国語に直訳することはできないと聞いたこともあります。十把一絡げにすることはできませんが、日本らしい価値観を大切にしつつ、法整備を行ってもらいたいと期待しています。
選択制夫婦別姓に関するQ&A
Q:選択的夫婦別姓において、夫婦それぞれが別の氏を選んだ場合、子どもの氏はどうなるのでしょうか?
A:今後の法改正次第ということになりますが、現状では結婚時点であらかじめ子どもが名乗るべき氏を決め、子どもが複数いる時は、子どもは全員同じ氏を名乗ると考えられています。
Q:子どもが成長していく中で、もう片方の氏が良いと希望した場合、変更することはできるのでしょうか?
A:こちらも今後の法改正次第ですが、現時点での考え方では、両親が婚姻関係にある中、未成年の子どもが両親のいずれか一方の氏に変更するためには、特別の事情と家庭裁判所の許可が必要とされ、成人した際は特別の事情がなくても、家庭裁判所の許可を得れば変更することができるとされています。