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出生数70万人割れ?日本の出生率が急速に低下している背景とは

経済とお金のはなし 織瀬 ゆり

出生数70万人割れ?日本の出生率が急速に低下している背景とは

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日本の出生率が急速に低下し、2024年の出生数は70万人を割り込む可能性が高まっています。この深刻な少子化問題の背景には、様々な要因が絡み合っていますが、その中でも特に注目されているのが物価高などの経済的な問題です。本記事では、出生率低下の現状と要因、そして物価高が出産に与える影響についてまとめてみました。

日本の出生率の現状

日本総合研究所の予測では2024年の日本の出生数は68.5万人と、前年比5.8%減になる見込みです。これは国立社会保証・人口問題研究所によって示された将来人口推計の中位推移を7万人下回る水準となります。また合計特殊出生率も過去最低だった前年の1.20をさらに下回り、1.15を割り込む可能性が高いでしょう。

ただし出生率は地域によって大きな差があり、東京圏など大都市では特に低い傾向にある一方、九州・沖縄地域は比較的高い出生率を維持しています。

出生率低下の主な要因 

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出生率低下の要因として、主に以下の3つが挙げられます。

経済的な不安

若い世代の雇用不安や低賃金、高い教育費や住宅費など、経済的負担が大きいことが結婚や出産を躊躇させる要因となっています。将来の収入面への不安も、理想の子どもの人数を持てない主な理由として挙げられるでしょう。

このような経済的不安定さは、単に個人の問題だけでなく、社会全体の持続可能性にも影響を与える重要な課題となっています。若い世代の経済的基盤を強化し、将来に対する希望を持てるような環境づくりが、少子化対策の重要な一歩となるでしょう。

晩婚化・未婚化

厚生労働省の2023年人口動態統計によると、男性の平均初婚年齢は31.1歳、女性は29.7歳で、これは約30年前と比べると男性で2歳以上、女性で3歳以上も高くなっているのです。また、日本財団による少子化に関する意識調査では、結婚を希望しない人の理由として「自分は独り身が向いていると思うから」「結婚するメリットが思いつかないから」を挙げる人が多くなっています。こうした結婚に対する意識の変化も、結果として出生率低下に影響していると言えます。

仕事と育児の両立の難しさ

依然として女性の育児や家事への負担が大きく、仕事との両立が困難な状況が続いています。実際に家事と育児をこなしてから仕事に向かうため、睡眠時間が慢性的に不足しているという声も少なくありません。さらに子育ての責任が重いことで、長時間労働や転勤を伴う管理職への昇進を諦めざるを得ない状況も生まれています。このような環境下では、女性が自身のキャリアを思い描いたり、個人としての目標を追求したりする機会が制限されがちです。

価値観の変化

そもそも結婚や出産に対する若い世代の意識が変化し、多様な生き方を選択する傾向が強まっています。国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」(2021年6月実施)の結果によると、「いずれ結婚するつもり」と答えた未婚者の割合や、「結婚したら子どもを持つべき」と考える人の割合が減少しており、これらの価値観の変化が出生率低下に影響していると言えるでしょう。

物価高が出産に与える影響

物価高
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物価高が出産に与える影響は、主に以下の2つです。

子育てコストの増加

物価高により、子育てにかかる費用が年々増加しています。2024年に明治安田生命保険が発表した子育てに関する調査によると、子どもを持つ家庭の月平均子育て費用が4万1320円と過去最高を記録しました。特に食費や光熱費、日用品などの生活費への負担が大きくなっています。

将来への不安

物価高が続く現在、多くの若い世代が将来の収入や生活に不安を感じています。そのため、出産を躊躇するケースや、理想の子どもの人数を諦める夫婦も少なくありません。経済的な不安は子育てへの大きな障壁となっており、日本の出生率低下に拍車をかけているのが現状です。

政府の少子化対策と課題

政府は2024年度から3年間で、こども未来戦略「加速化プラン」として3.6兆円規模の予算を投じています。主な施策として、出産一時金を42万円から50万円に引き上げ、児童手当の拡充、育児休業取得促進などが挙げられるでしょう。

しかし、子どもたちを取り巻く環境に目を向けると、経済面以外にも大きな課題が見えてきます。今の子どもたちは、将来への不安感が強く、さまざまな生きづらさを抱えているのも事実です。子どもたちが安心して成長できる環境を整えることも、少子化問題の解決につながる重要な取り組みのひとつだと思います。