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高額療養費制度の改悪で今注目、「医療保険」の重要性と必要性は?

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

高額療養費制度の改悪で今注目、「医療保険」の重要性と必要性は?

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今年の冬から春にかけて、ある政治的話題がテレビなどのマスコミを騒がせていたのを覚えていますか?その話題とは、高額療養費の改正です。人によっては、「高額療養費の大改悪」(全国保険医団体連合会)なんて表現する人もいました。

高額療養費制度とは、医療費の家計負担が重くなり過ぎないよう、病院や薬局の窓口で支払う医療費が1ヵ月で負担上限額を超えた場合、その超えた額を支給する制度のことです。1ヵ月での負担上限額は、年齢や所得に応じて定められています。

そんな高額療養費制度ですが、なぜ大きな話題になったのでしょうか。

高額療養費の自己負担上限額の大幅な引き上げ案 

療養費の引き上げ
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ことのあらましはこうです。政府は2024年末に高額療養費制度の負担上限額の見直しを閣議決定しました。「負担上限額の見直し」と言っても、要は「負担上限額の引き上げ」です。政府が出してきた案は、住民税非課税世帯などの低所得者を除く、すべての年代・すべての所得区分で負担額上限の引き上げというものでした。

たとえば、年収650万円~770万円の人の高額療養費の負担上限額は現行では8万100円ですが、段階的に引き上げられ2027年(令和9年)8月からは13万8600円となる案となっています。一気に月に5万円以上アップするのです。また年収1000万円を超えるとアップ額もより大きくなります。年収1040万円~1160万円の人の負担上限額は現行では16万7400円。それが、2026年8月からは22万200円に、2027年8月からは25万2300円に負担上限額を上げる案となっていました。

年収1000万円は世間的には高収入の部類に入ると思いますが、税金などを引いた可処分所得は700万円ほど。家賃の高い都市部で子どもを育てていたら、余裕のある暮らしはなかなか難しいという人もいるのではないでしょうか。それに加えて、がんなどの高額な医療費がかかる病気にかかってしまったら月に約25万円、年間にすると約300万円を自己負担で支払わなければなりません。そうなれば、治療をあきらめてしまう人が出てくることも想像に難くありません。

今年8月からの引き上げは一旦回避されたが… 

療養費の引き上げ
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その後、政府はがん患者団体や世論の反発を受けてか、当初、今年8月から行う予定だった高額療養費の負担上限額の引き上げを見送ることを表明しました。ただし、石破首相は、こうも付け加えています。「秋までに改めて方針を検討し、決定する」。

高額療養費の自己負担額の引き上げの原因である、医療保険の財政赤字は止まる兆しがありません。健康保険組合連合会(健保連)では、加入する1372の組合のうち、8割近くの1043の組合が赤字になると推計しています。

赤字の原因は膨れ上がり続ける医療費です。今後も少子高齢化が止まらないため、現在の日本の医療保険制度がそのままであれば、医療費は基本的には上がり続けていくでしょう。そのため、今年8月の高額医療費の負担上限額の引き上げを一旦ストップしたものの、最終的には政府案に近いものでまとめざるを得ないのではと筆者は考えています。

民間の医療保険の検討を

療養
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さて、そんなボロボロな財務状況の医療保険制度の日本において、どうしたら安心して病気に備えられるのでしょうか。どうしたらお金の不安なく治療に当たれるのでしょうか。

筆者は読者の皆さんにこの機会に民間の医療保険を検討してみることをおすすめします。民間医療保険とは、生命保険会社や損害保険会社といった民間の会社が提供している保険商品のこと。公的な健康保険が必ず加入しなければならないのに対して、民間医療保険の加入は任意です。

民間医療保険で特に有名なのが、がん保険です。がん保険とはその名の通り、がんになった人のための保険。がんと診断された場合はもちろん、がんで通院した時、がんで手術をした時などに給付金が受け取れます。特に、がんと診断された時の給付金(一時金)は、50~200万円程と高額。がんによる入院費用の平均(公的医療保険適用前)は、約60万円から約170万円(3割保険適用時で約20万円から50万円)と言われていますので、がん保険に加入していれば費用の心配なく、あるいは費用の負担が極めて軽い状態で治療を開始できるでしょう。

一方、がん保険にもデメリットはあります。ひとつは、当然のことですが、保険料がかかること。保険料の平均は30歳男性で1000~3000円程、40歳男性で2000~5000円程、50歳男性で3000~7000円程と言われています。これを高いと捉えるか安いと捉えるかはまさに人によるでしょう。しかも、がん保険の大半は掛け捨て型。途中で解約しても、満期を迎えてもそれまでにかけていた保険料は返ってきません。

また、がん以外の病気には保証されない点もがん保険の注意点として押さえておく必要があります。がん以外の病気にも対応したい場合は、がんを含むあらゆる病気やケガで入院した場合、手術を受けた場合に給付金が支払われる医療保険がおすすめです。さまざまな病気に特化した特約を自由に付けられる点が魅力ですが、特約を付ければ付けた分だけ毎月の保険料が増えてしまう点には注意が必要です。

ここまで、民間の医療保険のメリットとデメリットを見てきましたが、最後に公的医療保険だけではなく、民間の医療保険も検討してみるべき人の特徴をまとめました。

1.    自営業や個人事業主

自営業や個人事業主の方は、入院治療中、基本的に仕事ができません。そのため、治療中に大きく収入が下がってしまう恐れがあります。ちなみに、会社員は病気やケガで働けない状態になった場合、雇用保険から「傷病手当金」が支払われる可能性があります。

2.    貯蓄だけではがんの治療費を賄えない人

がんは医療費が高額になりがちな病気です。治療が長引けば長引くほど、入院費、治療費はかさみます。がん保険に加入していれば、がんと診断された時、入院した時、手術した時など治療のさまざまなタイミングで給付金が受け取れるため、安心して治療に臨めるでしょう。

3.    がんの治療で先端医療を受けたい人

がんの治療方法には、手術・放射線療法・化学療法といった、科学的根拠に基づいた現時点で最良とされる治療方法である「標準治療」と、厚生労働省から認可を受けた高度な医療技術を用いた治療「先進医療」があります。標準治療で効果がなかったがんも先進医療で小さくなったというケースも珍しくありません。先進医療を受けたい方は、がん保険への加入をおすすめします。それは、先進医療の中には、自己負担額が1回あたり数百万円もかかってしまう治療方法があるからです。

病気やケガはいつ誰がなっても不思議なものではありません。今は健康で働けていても、心身の不調で働けなくなってしまうケースも考えられます。超高齢化社会に加えて少子化が益々進むこの先、日本の医療保険制度が変わることなく続くとは言い切れなくなってしまいました。これから先の人生計画において、休業した時の保障や治療費の支払いに不安がある場合は、公的医療保険を補完する形で民間の医療保険への加入を検討することもひとつの選択肢であると思います。

※保険に関する見解は、執筆者の個人的見解です。最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。