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東証が最低投資額を10万円程度に引き下げへ、どんなメリットが?

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

東証が最低投資額を10万円程度に引き下げへ、どんなメリットが?

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東京証券取引所(東証)は4月24日、株式の最低投資額を10万円程度に引き下げることを上場企業に要請する方針を発表しました。東証はこれまで上場企業に対して、最低投資額を50万円未満に抑えることを努力義務として求めてきました。50万円から10万円程度に一気に引き下げようというのです。

最低投資額を引き下げる狙いとは 

東京証券取引所 株価ボード
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今回の最低投資額の引き下げの狙いは、株式投資がしやすい環境を作ることにあります。現在、日本株は100株単位で売買されています。たとえば1株あたりの株価が5000円であれば、「5000円×100株」で最低投資額は50万円です。

この50万円という最低投資額、皆さんはどう思いますか?高いと感じますか?それとも安いと感じますか?筆者は高すぎると感じます。アメリカの主要株価指数「S&P500」の銘柄の平均は約225ドル(約3万2000円)。ドイツやフランスの証券取引所の最低投資額は1万円を割り、オーストラリアは数百円単位で株式が購入できます。

一方、東証はこれまで最低投資額を50万円未満に抑えることを企業に努力義務として課していましたが、いかんせん努力義務です。最低投資金額が50万円どころか、100万円を超える銘柄も東証には30銘柄ほどあります。

たとえば、ユニクロを運営するファーストリテイリングの株式価格は1株4万6000円ほど。100株購入するには460万円ほどかかります。給料が高いことで有名なキーエンスは、給料だけではなく株価も高く、1株あたり6万1000円ほどなので、最低投資額は600万円を超えます。
※株価はいずれも5月22日終値

高すぎる日本株購入のハードル 

壁の前に立つ男性
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これでは株式投資をしたいと思っても、ハードルが高いと感じる人が多いのではないでしょうか。中でも、まだ資産をあまり持っていない若年層の多くは、株式を購入することは難しいでしょう。

「日本株の最低投資額が高すぎる」ということは、すでに株式投資をしている人も感じているようです。東証が昨年10~11月に実施した1万人規模の個人投資家アンケートでは、求める投資単位の水準(最低投資額)として最も多かったのは10万円程度で、その割合は26.2%でした。5万円程度は16.1%、1万円程度が11.8%、5,000円程度が4.7%、5000円未満が6.2%でした。現状の50万円程度はわずか0.4%。最低投資額が10万円程度あるいは10万円未満がいいという人は全体の65%に上りました。

この結果を受けて、東証は最低投資額を10万円程度に収めるよう上場企業に求める方針を出したわけです。つまり、最低投資額を10万円程度に引き下げるメリットは、一も二もなく、投資のハードルを下げることにあるのです。10万円程度であれば、まだ資産をあまり持たない多くの若者も投資に参加できるのではないでしょうか。

日本の株式投資が高額になる理由「単元株制度」とは

ルールの確認
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さて、ここまでの流れを確認して、疑問を持った方もいるのではないでしょうか。それは、「なぜ100株単位でしか株式を購入できないの?」というもの。筆者も株式投資を勉強し始めた当時、こういった疑問を持ちました。

100株単位でしか株式を購入できないのは、「単元株」という日本独自の制度のため。アメリカやヨーロッパの証券取引所で主流の1株単位ではなく、1単元(100株)ごとに売買する制度です。日本では、株主総会における議決権を1単元につき1議決権としています。言い換えれば、100株以上を持っていないと株主総会における議決権は与えられないということです。

かつて1単元は100株だけでなく、1株~1000株まで多岐にわたっていました。しかし、銘柄によって1単元が変動するのは投資家にとって使いづらいだけではなく、このことが原因による証券会社の誤発注事件も問題となりました。

こうした問題を解消するため東証は、2007年11月に「1単元=100株」とするように上場企業に要請したのです。そしてそれから約11年後の2018年10月に上場している全銘柄の売買単位がやっと「1単元=100株」にそろいました。

単元株制度の企業側のメリットは、株主管理のコストが削減できる点にあります。株式会社は1年に1回、必ず株主総会を開催しなければなりません。単元株制度が廃止されたら、会社は1株から数株など、少数の株しか保有していない株主にも株主総会の招集通知を発送しなくてはなりません。発送コストは馬鹿になりませんし、株主総会の招集通知の発送作業をするための人的コストも今まで以上にかかってしまいます。

一方、100株ごとの売買しかできないため、投資をするのに大きな初期費用が発生するという、投資家側のデメリットもあります。1単元を少なくする、あるいは単元制度を廃止すれば、株式を買い付けるために必要な金額は少なくなり、より多くの人が株式投資に参加できるでしょう。

さてそんな単元株制度ですが、近い将来、内容が変更されそうです。昨年7月、東証は、日本株を売買する際に最低100株単位としている取引ルールの変更を検討すると発表したのです。最低投資額の引き下げから、一気に単元株制度の廃止へと行くのではと筆者は見立てていますが、今後どうなるでしょうか。

いずれにしても、今回の最低投資額引き下げにあたって、株式投資のハードルは下がるでしょう。手元に大きな資金がなくても株式投資に参加できるようになることは日本経済にとっても喜ばしいことです。東証には今後も裾野拡大路線での改革を期待します。