親子上場解消で進む企業統治、今後新たに生み出される投資機会は?

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監修・ライター
東京証券取引所の市場改革を背景に、親子上場の解消が加速しています。グループ内再編によるガバナンス強化や資本効率の改善を目的とした完全子会社化の動きは、大企業を中心に広がりを見せており、投資家にとっても新たな投資機会となりつつあります。本記事では、その背景と注目すべき事例、今後の展望を詳しく解説します。
親子上場とは何か?その構造的課題

親子上場とは、親会社とその子会社がいずれも株式市場で上場している状態を指します。この形態は長らく日本の企業構造の特徴として存在してきました。子会社側には独立した資金調達機会の確保、優秀な人材の採用促進、ブランド価値の向上といったメリットがある一方で、深刻な構造的課題も抱えています。
最も重要な問題は、親会社と子会社間の利益相反です。親会社が自社の利益を優先する結果、子会社の少数株主の権利が軽視されるケースが頻発し、企業統治の観点から大きな問題となってきました。東京証券取引所や機関投資家は、この問題を長年指摘し、改善を強く求めてきた経緯があります。
東証改革が推進する企業統治改革の実態
東京証券取引所は近年、「資本コストや株価を意識した経営」の実現を最重要課題として掲げ、上場企業に対して株主価値の最大化を強く求めています。この改革の一環として、親子上場の見直しが急速に進展しています。
野村資本市場研究所の調査データによると、親子上場企業数は2006年度末の417社から2023年度末には190社まで大幅に減少しました。この減少トレンドは今後も継続すると予想され、親子上場という企業形態そのものが消滅に向かう可能性すら指摘されています。
大型完全子会社化の潮流と注目事例

企業統治改革の波に乗って、大手企業による子会社の完全子会社化が相次いでいます。最も注目される事例がNTTグループの戦略的再編です。NTTは既にNTTドコモの完全子会社化を完了し、2025年にも2兆円規模という史上最大級のTOBを通じてNTTデータグループの完全子会社化を実施しました。
また、三菱商事によるローソンの非公開化も市場の注目を集めました。これらの大型案件は、単なる企業再編を超えて、グループ全体のガバナンス強化と資本効率の抜本的改善を目指した戦略的取り組みといえます。
市場再編圧力と投資家行動の変化
2025年3月以降、東証の市場区分における上場維持基準の経過措置が終了するため、企業は株主還元政策や株価対策をより積極的に推進する必要性に迫られています。この状況下で、完全子会社化によるガバナンス一元化と資本効率改善は、最も効果的な解決策として企業経営陣に認識されています。
親子上場の解消は通常、プレミアム(買付価格が公開市場の株価よりどれだけ高いかを示す上乗せ分)付きのTOBで実施されるため、株価上昇を見込んだ投資家の先回り投資が活発化しています。投資ファンドやアクティビスト投資家は、完全子会社化の対象となりうる企業を精査し、企業価値向上を促す積極的な株主活動を展開しています。
アクティビスト投資家の影響力拡大

2024年には世界のアクティビスト投資家による企業への提案件数が過去最多を記録し、日本でも37件という史上最高水準に達しました。アクティビスト投資家とは、企業の株式を一定以上取得し、経営陣に対して経営改革や資本政策の見直しなどを求める投資家のことです。企業価値向上を狙い、株主提案や取締役選任などを通じて積極的に影響力を行使します。東証改革と株主重視の経営環境が、アクティビスト投資家の活動を後押ししており、配当増額や不動産売却を求める提案が急増しているのです。
この外部圧力を受けて、一部の企業は非公開化という選択肢を検討するようになりました。豊田自動織機によるアイチコーポレーション株式売却のように、グループ内の戦略的調整を通じて再編を進める事例も出現しています。
投資機会としての親子上場解消
親子上場の解消は、投資家にとって魅力的な投資機会を提供しています。特に株価が企業価値に対して割安で評価され、ガバナンス改善の余地が大きい企業は、アクティビスト投資家の標的となりやすく、大幅な株価上昇が期待できる分野として注目です。
親子上場の解消は、企業再編の枠を超えて、経営効率化、企業統治向上、株主還元強化という多面的な価値創造をもたらします。今後も親会社による子会社の完全子会社化は継続される見通しであり、対象企業への投資家の関心は一層高まると予想されます。
市場改革と企業統治強化を背景とした親子上場解消の動向は、日本企業の資本政策と投資戦略を考える上で、長期的に注視すべき最重要テーマの一つと言えるでしょう。
※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。