生前贈与を法改正前の今から検討しておくべき理由とポイントとは?
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若い現役世代は、結婚資金や教育費、マイホーム資金とお金がかかる機会がたくさんあります。皆がお金を使うことで経済が循環するので、良いことではありますが、現実問題、限られた収入でのやり繰りは大変です。そんな中、両親や祖父母から資金援助の申し出を受けることもあるでしょう。今回は、贈与を受ける場合の税金や非課税枠、特例、税務署への申告などについてみていきます。
生前贈与の前に知っておきたい贈与税とは
親や祖父母などから財産をもらったり、何かを買ってもらったりすることがあるのではないでしょうか。このことを「贈与」といいます。贈与とは、自分(他人)が保有している財産を他人にあげる(自分がもらう)行為をいい、お互いがその意思を示してはじめて成立します。贈与を受けた側は、原則として税金の支払い義務が発生し、これを贈与税といいます。
具体的に贈与税の対象となるものは、以下のようなものです。
・現金、預貯金
・株式や債券などの有価証券
・土地や建物などの不動産
・車
・ゴルフ会員権
・金、宝飾品
・書画骨董、絵画
など価値があるもの全てです。
ここで、ふと疑問に思う人がいるかもしれません。
たとえば「学生時代に大学の費用や一人暮らしの生活費を出してもらったけどこれも贈与?」と。これは、扶養義務として必要な資金をその都度出してもらったものなので贈与には当たりません。安心してください。
「生前贈与」と「相続」の違い
「贈与」と合わせて押さえておきたいのが「相続」です。親などが死亡した場合は、その財産を相続人が継承します。実は、贈与は相続の補完的なものとして位置づけられます。大事なポイントなので覚えておきましょう。
財産は、保有する人自身のものであり、死亡した場合に、相続人に引き継がれます。これを「相続」といいます。相続の前に受け取るのが贈与です。生前に受け取るという意味で「生前贈与」ともいわれます。
また、相続は相続税法で定義されていますが、贈与も同法に定められています。つまり、相続税法の中で贈与のルールが決められているのです。このことからも贈与が相続の補完的な位置づけであることが分かります。
生前贈与はいくらまで非課税?節税効果の高い非課税枠は
平成27年に相続税法が大幅に改正されました。死亡した人の財産から相続税を計算する場合の非課税枠(基礎控除額)が大きく引下げられたのです。その影響でお金持ちの人だけでなく、ちょっとだけお金持ちという人にも相続税が掛かるようになりました。
そんな理由から相続税の対策として早めに財産を次世代に渡すという生前贈与に関心を持つ人が増えています。ただ、生前贈与は贈与税の対象となるため、1年間で受けた贈与が一定の非課税額を超える人は申告・納税を行わなければなりません。
その一定の非課税枠は年間110万円とされています。暦年贈与といいますが、1月1日~12月31日までの1年間に110万円超の贈与を受けた場合は、翌年の2月1日~3月15日までに税務署に申告しなければなりません。父母、祖父母など複数の人から贈与を受けた場合は個々に110万円の非課税枠があるのではなく合計110万円まで非課税となります。
一方で国は経済対策として、高齢者層が保有している資金を子育てやマイホーム購入などの経済支出が旺盛な現役世代に譲れるように、110万円を超える大きな資金を生前贈与できるような非課税の特例を設けています。ここからはその特例を2つ紹介していくことにしましょう。
住宅取得資金贈与税の特例
マイホーム購入時に父母や祖父母から資金援助を受ける場合に利用できる生前贈与の特例です。この特例の非課税限度額は以下のようになっています。
<消費税10%が適用される住宅の場合>
省エネ等住宅・・1500万円
それ以外の住宅・・1000万円
<それ以外の(消費税10%が適用されない)住宅の場合>
省エネ等住宅・・1000万円
それ以外の住宅・・500万円
※住宅の新築に係る契約日が、令和2年4月1日~令和3年12月31日の場合
消費税10%が適用されない住宅とは、中古の戸建てやマンションを個人の所有者から購入する場合が挙げられます。消費税は個人間売買には掛かりません。
なお、マイホームの新築や購入以外に、リフォームなどの増改築も対象となります。
教育資金の一括贈与に係る非課税の特例
祖父母等から教育資金として一括贈与を受けた場合に利用できる特例で、非課税限度額は1500万円です。平成25年4月1日から令和5年3月31日までの間に贈与を受けた30歳未満の孫などが対象になります。
一般に贈与を受けた資金は、専用の教育資金口座を開設して預け、払い出すときは、既に支払った教育費の領収書を持参し窓口で手続きします。
教育資金といっても学校の校納金以外にピアノやスイミングなどの習い事代、学習塾代など、対象は広範ですが、給食費や修学旅行費、留学費や交通費は対象になるか、気になるのではないでしょうか。
ここからは、教育資金の対象となるものをみていきましょう。
<学校に対して直接支払われる費用>
①入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費又は入学(園)試験の検定料など
②学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費など学校における教育に伴って必要な費用など
※「学校」とは、学校教育法で定められた幼稚園、小・中学校、高等学校、大学(院)、専修学校及び各種学校、一定の外国の教育施設、認定こども園又は保育所などをいう。
<学校以外に支払うもので教育を受けるための費用>
➂教育(学習塾、そろばんなど)に関する役務の提供の対価や施設の使用料など
④スポーツ(水泳、野球など)又は文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)その他教養の向上のための活動に係る指導への対価など
⑤上記、➂④で使用する物品の購入に要する金銭
⑥上記、②に充てるための金銭であって、学校等が必要と認めたもの
⑦ 通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費
※ 令和元年7月1日以後に支払われる上記③~⑤の金銭で、受贈者が23歳に達した日の翌日以後に支払われるものについては、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するための費用に限る。
(国税庁パンフレットより「教育資金とは?」の部分を抜粋、一部加工)
なお、<学校以外に支払うもので教育を受けるための費用>は、贈与資金のうち500万円が非課税限度額となります。
贈与をしてくれた祖父母などが死亡すると、一定の要件のもと原則として残額は相続で受け取ったものとされます。しかし、受贈者である孫が23歳未満である場合や学校に在学している場合はその限りではありません。
結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税の特例
父母や祖父母から結婚や子育て資金として一括贈与を受けた場合に利用できる特例で、非課税限度額は1000万円です。平成27年4月1日から令和5年3月31日までの間に贈与を受けた20歳以上50歳未満の子や孫などが対象になります。
こちらも前述の教育資金の贈与と同様に専用口座を開設し、贈与資金を預けます。実際に掛かった費用の領収書を提出すると払い出しができるようになっています。
具体的に結婚や子育て資金として認められるものを確認していきましょう。
<結婚のための費用(300万円限度)>
① 挙式費用、衣装代の婚礼(結婚披露)費用(婚姻の日の1年前の日以後に支払われるもの)
② 家賃、敷金の新居費用、転居費用(一定の期間内に支払われるもの)
<妊娠、出産及び育児の費用>
③ 不妊治療・妊婦健診に要する費用
④ 分べん費・産後ケアに要する費用
⑤ 子の医療費、幼稚園・保育所等の保育料(ベビーシッター代を含む)など
(国税庁パンフレットより「子育て・教育資金とは?」部分を抜粋、一部加工)
この特例は、贈与を受けた人が50歳になると終了します。使用していない残額がある場合は、その年の贈与資金として非課税枠の110万円を超えた額が贈与税の対象です。また、その前に贈与者である父母や祖父母が死亡した場合は、その時点の残額が相続財産として相続税の対象となります。
つまり、自身が50歳を迎えるか、贈与をしてくれた者が死亡した場合にこの特例の効力がなくなり贈与税または相続税の対象となるというわけです。