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デジタル庁創設で何が変わる?印鑑社会の向こう側にある世界

経済とお金のはなし 竹中 英生

デジタル庁創設で何が変わる?印鑑社会の向こう側にある世界

【画像出典元】「Little Pig Studio/Shutterstock.com」

令和2年9月16日に菅内閣が誕生し、新たにデジタル庁が創設されました。デジタル庁が何をする省庁なのかをまだご存じない方も多いかもしれませんが、実はこのデジタル庁は、ひょっとしたら将来の日本の命運を握るかもしれない大切な役割を担っているのです。

そこで本日は、新たに創設されたデジタル庁が日本社会をどのように変え、私たちの生活にどのような影響を及ぼすのかを海外の事例を参考に考えてみようと思います。

印鑑の何が問題??

印鑑に関するビフォアアフター
【画像出典元】「stock.adobe.com/oval16」

デジタル庁について連日報道されている内容の多くは、公文書をはじめとする各種書類の押印廃止に関するものです。印鑑は昔から日本文化には欠かせないもので、それ自体芸術性が高く、来日した外国人の多くがお土産として購入しているほどです。

それでは、印鑑のいったい何が問題なのでしょうか?

リモートワーク中も「ハンコ出社」

日本社会では長い間、本人確認のためのツールとして印鑑が用いられてきました。公的な書類はもちろんのこと、企業内の稟議書などもすべて押印することを慣習としてきました。その結果、新型コロナウイルスの蔓延によるリモートワーク導入後も、書類に印鑑がないと業務がストップしてしまい、押印のためだけに「ハンコ出社」を余儀なくされる笑えない状態があちこちの企業で起こってしまいました。

日本らしいといえば日本らしい話ですが、世界の企業を相手に競争をしなければならない企業にとって、このロスは笑い事では済みません。

本当の問題は印鑑ではなく「紙」

押印が業務を滞らせているのは事実ですが、印鑑が抱えている本質的な問題は実はそこではありません。印鑑は、ご存じの通り朱肉を使い紙に押印します。実は印鑑が問題なのではなく、この紙ベースによる書類の処理や管理、保管に関する非効率さこそが問題の本質なのです。

公文書をはじめさまざまな書類を紙で作成する以上、それらをコンピューターに取り込んでデジタル処理することはできません。デジタル処理が出来なければ大量処理が出来ないわけですから、当然人手が必要になります。

たとえば、PDFの書類を1,000人にメールすることは瞬時に出来ますが、1,000枚の紙を打ち出して1,000人に郵送するためには大変な時間と労力が必要になります。また、それらを保管する作業も大変です。

あらゆるものはデジタル化へ向かう

その昔、音楽を聴くためにはレコードが必要でした。しかし今では、デジタルデータによる音源をサブスクリプションで聴く時代になりました。漫画や雑誌も、紙ではなくKindleなどの電子書籍リーダーで読むことが主流となりました。そして今、紙幣や硬貨ですら、電子マネーへと向かいつつあります。

脱印鑑社会への流れは、これらと同じように社会のデジタル化に向け必然のものなのです。

デジタル庁創設で何が変わる?デジタル先進国エストニアの挑戦

エストニアのビル街
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行政が脱印鑑により書類のデジタル化を促進すると、いったい何が変わるのでしょうか?そこで、世界一デジタル化が進んでいると言われているエストニアを例に、行政のデジタル化が社会にどのような変化を与えるのかを考えてみたいと思います。

デジタル化により行政コストの大幅削減に成功

エストニアはバルト三国のひとつで、人口は132万人ほどの小国ではありますが、実はデジタル化社会では世界の国をリードしています。

2007年には世界で初めて議会選挙をインターネットの電子投票で行い、現在では国会議員の議会でさえオンライン出席が認められています。

また、行政手続きの99%がスマホなどの端末を使ってオンライン上で完結できるようになっているため、行政の人件費をはじめとしたコストは以前の4分の1、窓口の人員は10分の1以下にまで減らすことに成功しました。

電子国民制度の導入により法人設立が誰でも簡単に

エストニアは「e-Residency(電子国民)」という制度を導入しており、外国人が簡単に法人を設立できるように電子政府のプラットフォームを起業希望の外国人にも開放しています。

e-Residencyに登録するためには申請ページから申請し、パスポート、顔写真と申請料100ユーロさえ支払えば、(犯罪歴などがなければ)誰でも簡単に登録することができます。そしてe-Residencyに登録さえ出来れば、エストニアに法人を設立することが出来るようになります。

日本とは違いエストニアではすべての手続きがオンライン上で完了してしまうため、エストニアにわざわざ行かなくても、なんと日本にいながら約10分程度で法人設立手続きが完了してしまいます。

エストニアはユーロ圏に属しており、ヨーロッパの国々と仕事をするための窓口には大変便利なため、世界中からIT企業などをはじめさまざまな企業が進出しており、現在ではヨーロッパのシリコンバレーとも呼ばれているほどです。ちなみにあの「Skype」も、エストニアの企業です。

このように、エストニアは行政のデジタル化に積極的に取り組んだおかげで、海外企業の誘致にも成功しています。

デジタル庁創設の最大の目的は行政改革

エストニアの例をご覧いただけばお分かりのように、デジタル化の最大の目的は行政のスリム化・効率化と、利用者の利便性向上です。

日本の各省庁や地方自治体の運営が非効率的なのは今さら言うまでもありませんが、非効率的な理由の最も大きなもののひとつが、上述のようにほぼすべての業務を紙媒体で行っているためです。

本人確認を印鑑で行っているため書類のデジタル化が進まず、その結果書類の作成や発行、処理や保管に莫大なコストが必要となる非効率的な運営をしなければなりません。

デジタル庁は省庁の垣根を越えて業務のデジタル処理を促進させ、コストダウンとスピードアップを一気に進めることにより各省庁や自治体の行政改革を進めようとしています。印鑑の廃止を巡る議論は、そのための手段の一つなのです。

書類がデジタル化されたらどうなる?

書類のデジタル化
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では、印鑑が廃止されて書類がデジタル化されたら何がどう変わるのでしょうか?

業務の圧倒的効率化が進む

紙の書類で業務を行う限り、人間の目で確認して手続きのための判断や処理を行わなければなりません。しかしデジタル化されるとプログラム上で一気に大量の処理や判断が可能になり、またAIの発達により人間が判断している手続きのかなりの部分をAIに任せることができるようになります。

その結果、人件費を大幅に減らすことができ、行政手続きのスピードも大幅にアップするのです。

役所へ行く必要がなくなる

書類のデジタル化が可能になると、書類を役所へ提出(もしくは郵送)する必要がなくなります。現在日本で最もデジタル化が進んでいる国税庁の電子申告(e-tax)を利用した場合、わざわざ税務署へ行かなくても24時間365日いつでもオンライン上で税務申告や納税ができるようになっています。

すべての行政手続きがe-taxのようになれば、住民票の転出届や転入届はもちろんのこと、婚姻届や離婚届をはじめさまざまな行政手続きがいつでもどこからでもスマホ一つで完了できるようになります。

役所の大半がクラウドになる

役所の業務の大半がデジタル処理できるようになれば、わざわざ建物を建てる必要がなくなります。たとえば現在の市区町村役場のホームページが実際の行政手続きを行うためのポータルサイトになれば、クラウド市役所の出来上がりです。

もちろんすべての業務をオンラインで行うことは出来ませんが、今のように街の中心部に広大な土地を収用し、巨大な建物を建てる必要がなくなります。

地方自治体だけでなく各省庁もデジタル化が進めば、各省庁の主要部分もクラウド上に置き換えることが出来るようになるため、官公庁の東京一極集中を分散することも可能になります。

世界の具体的な最新事例から見る日本の向かうべき方向

では最後に、行政のデジタル化が進んでいる国の最新事例を見ながら、日本の向かうべき方向について考えてみましょう。

世界のデジタル化最新事例

国連が発表している世界電子政府ランキングにおいて2018年から3年連続世界一位を獲得している国、デンマーク。世界一位のデンマークが行っている行政サービスにはどのようなものがあるのかを見てみましょう。

  • 国民全員に電子私書箱が与えられ、市区町村役場や政府からの連絡、年金や給与明細、医療機関からの定期検診や検診結果、保育所や学校、警察などからの連絡はすべて電子メールで受け取ることができる。
  • 税金の払い戻しや育児資金や生活保護、給料の振り込みなどはすべて登録してあるネットバンクの口座で行われる
  • 個人の医療記録はすべてウェブ上で閲覧できる
  • 納税や申告、会社設立などは24時間どこからでもオンラインで手続きできる
  • 国政選挙の投票もオンラインで行う

このように、デンマークではほとんどの行政サービスがデジタル化されているため、利用者の利便性が非常に高く、同時に極めて低コストで運用することに成功しています。

これら以外のユニークな例として、イギリスでは交通制御カメラとセンサーの情報をもとにAIが歩行者のソーシャルディスタンスを制御しており、クロアチアではAIが仮想医師として一部の医療行為を医師に代わって行っています。

日本の向かうべき方向

日本では、民間の活力を増強させる役割としての行政が一部機能しておらず、むしろ旧態依然の法律によって民間企業の成長力を阻害している事例が数多くみられます。

そのため、行政のデジタル化を加速させることで縦割り行政の弊害をなくし、人も企業も活動しやすい社会の基盤を作る必要があります。

それに呼応する形で民間のデジタル化を進めることができれば、社内の無駄な作業が減り、作業効率が上がり、企業の収益が上がるため給料が増え、最終的には日本全体のGDPを増やすことにもつながります。

少子化による人口減少は当分の間続きます。それを補うためには、一人一人のGDPを上げなければなりません。そのための作業効率の向上であり、その手段が社会のデジタル化なのです。

まとめ

紙ベースでの情報処理では処理スピードに限界があり、またコストもかかり過ぎるため、社会のあちこちでひずみが生じています。きっかけは印鑑を「使う」「使わない」程度のことではありますが、それが今後の日本社会を大きく変えていくことに繋がっていくかもしれません。

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