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前澤社長はなぜロケットに乗る?日本の宇宙産業の今

経済とお金のはなし 中新 大地

前澤社長はなぜロケットに乗る?日本の宇宙産業の今

【画像出典元】「Sunset Paper/Shutterstock.com」

こんにちは、ライター/ランサーズ新しい働き方LABコミュニティマネージャーの中新大地です。

夜空を見上げると光る「月」。古来より多くの人たちが憧れてきた、地球の兄弟ともいえる星です。今、この星に最も熱い視線を注いでいるといっても良い日本人、それがZOZO(スタートトゥデイ)の創業者、前澤友作氏ではないでしょうか。

彼のプロジェクトが掲げる“宇宙の民主化”の先に、「日本の宇宙産業の未来もあるかもしれない・・・」。
今回はそんな夢のあるお話をさせてください。

日本有数の資産家前澤社長と8人の選ばれし者

前澤氏がイーロン・マスク氏率いるスペースXの宇宙船に乗り、2023年に民間人として初となる月旅行を行うプロジェクト「dearMoon」。このプロジェクトには8人のクルーが同行することが決まっており、それは「アーティスト」とされる人たちであることが前澤氏の口から語られています。
「一体彼らは月で何をするのか」。

2021年7月末時点で、その詳細もメンバーもまだ発表されていないものの、“宇宙を民主化”し、意義深いものにしたいと前澤氏は語っています。

さらに『前澤友作に宇宙でやってほしい100のこと』と題した企画をTwitterで実施。募ったアイデアをもとに宇宙で実験を行い、その模様はYouTubeで配信することが決まっています。
今やYouTubeは大人も子どもも視聴する、超巨大メディア。ネット環境さえあれば、誰もが視聴できる・・・。そんな開かれた場を選んだ点に、前澤氏の宇宙の民主化をしたいという強い意志を感じます。

手を伸ばせば届く、みんなの宇宙へ

宇宙ロケット
【画像出典元】「stock.adobe.com/dimazel」

前澤氏がクルー全体の旅費をも負担するといわれる宇宙旅行は、数百億円の費用が掛かるとされています。一般人には当然、手が届くような金額ではありません。

しかし、世界全体でみれば宇宙の民主化は進んでいます。前述のスペースXやヴァージン・ギャラクティックは自社で宇宙船を開発し、民間人でも宇宙旅行ができる新しい時代を推し進めようとしています。
2021年7月11日、ヴァージン社の創業者リチャード・ブランソン氏が、宇宙飛行に成功した最初の資産家として歴史に名を刻みました。ブランソン氏と同時期にはAmazonの創業者であるジェフ・ベゾス氏も打ち上げを予定。世界の超大手企業・資産家たちの間では、宇宙開発競争が進んでいます。
彼らは進化する宇宙産業にビジネスの新しい可能性を見出しているようです。

金額の面からみれば、大多数の人々にはまだ手が届くようには思えませんが、前澤氏の例のように、メディアを通じて宇宙が身近になる体験は今後もっと増えるでしょう。

宇宙産業においては、宇宙船開発のほかに、小型衛星の打ち上げや運用、取得したデータの分析を行う民間企業も増加傾向にあります。
こうした宇宙産業の市場規模について、日本政府は2015年に決定された宇宙基本計画において、今後10年間で官民あわせて累計5兆円を目指すことを決定。成長著しいアメリカをはじめとする各国に追いつくべく、「宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業(SERVISプロジェクト)」などを通じて、支援に乗り出しています。

日本でも加速する宇宙産業

ロケットの様子を見守る人々
【画像出典元】「stock.adobe.com/Framestock」

日本国内でも宇宙産業の成長をサポートする団体、大きなビジョンを掲げて業界をけん引する企業は増えています。宇宙産業は金銭的にも技術的にも、継続のハードルが高いのが現状で、率先して走るランナーと、それを手助けする伴走者の存在が必要不可欠です。
ここではそのなかでも特に注目を浴びている2例をご紹介します。

宇宙産業の開拓サポート、「日本政策投資銀行」

日本政策投資銀行(DBJ)では2017年に「航空宇宙室」を立ち上げており、次世代のリーディング産業として注目。この航空宇宙室では、宇宙産業の成長に欠かすことのできない衛星データ利活用のための環境整備や小型衛星など宇宙機器産業の国際競争力強化、自社技術を宇宙産業へ応用する新規参入者増加を見越した支援を計画しています。

宇宙産業は資金も技術も多分に必要とする分野です。現状では限られた企業や政府系の組織でしか取り組まれていませんが、DBJの協力を得ることでもっと流動的な業界となり、宇宙を起点に新しいアイデアや技術、ビジネスが生まれるかもしれません。

目指すのは人類の未来、「北海道スペースポート(北海道広尾郡)」

2021年春。北海道の小さな田舎町である大樹町では、この最果ての地から宇宙へ飛び立とうとする取り組みがスタート。
「スペースポート(宇宙港)」の名の通り、ロケットや宇宙船の打ち上げ、人工衛星データを活用したビジネスの実験やシェアオフィスなどを整備・サポート。政府や大学・研究機関、そして民間企業にも開かれた場所として、大きな注目を集めるスポットとなっています。
『私たちがつくりたいのは、人類の未来です。』というビジョンのもと、地域と一体となった取り組みが進んでいます。

施設の拡張が進めば、日本の宇宙産業のシリコンバレーとしての地位を確立する可能性もあるでしょうし、官民問わずさまざまな企業・組織・個人が集まり、日本の宇宙産業・研究の最前線となる未来も想像できます。
観光業の盛んな北海道に宇宙という名の新しいコンテンツが加わることで、今以上に国内外を問わずたくさんの人々が行き交うスポットになるかもしれません。

宇宙産業はまだまだ“できること”だらけ

謎の多い宇宙で、私たち人類は新しいビジネスを展開しようとしています。宇宙はもはやただの研究対象だけではなく、私たちの暮らしにどう活かせるかを考える対象にもなっているのです。
前澤氏の試みは、そうした動きや考えを専門家だけでなく一般人にも広げるうえで、重要な役割を果たしそうです。

業界の成長を阻む困難はたくさんあります。しかしその「難しそう」という問題が起こると同時に、「できそう」と思える明るい未来の形も想像できるのではないでしょうか。
家族で宇宙旅行に行ったり、衛星によるリモートセンシングによって宇宙空間からさまざまな機械を動かしたりすることも当たり前になるかもしれません。
それらに付随する製造・通信・輸送・保険業なども、さらなる成長が期待されます。就職・投資対象などを検討する際も、これらの企業が人気を博すかもしれませんね。

これからの人類の成長の舞台は、地球だけにとどまりません。私たちの頭上にあるのです。